ザ・グレート・展開予測ショー

星たちの密会(6)


投稿者名:矢塚
投稿日時:(02/11/23)


 戦闘用のOSで起動したマリアは外見はまったく変わらなかったが、何かが

決定的に違っているように涼には思えた。恐らくは、決して多いとはいえなかったが

それでも確実にマリアに存在していた人間性、それらを全てそぎ落としてしまった雰囲

気。

 それを涼は感じ取っていた。戦闘中の自分も同じなのだろうかと思う。

 マリアは涼にはかまわずに、黙々とランチャーの照準作業に取り組んでいた。

 そんなマリアを涼はあまり直視したくない思いにとらわれ、セイリュートに話しかけて

気分を紛らわす。

「ところでよ、こんなとこでドンパチやって自衛隊とかは大丈夫なのか?」

 涼の葛藤には気づかずに、セイリュートがまじめに答える。

「問題ない。官民問わずに把握できうる限りのレーダー、ソナーといったもの全てに

クラッキングしてこの一帯の情報操作をしている。実際に始めてしまえば、ばれるだろう

がそのときには首都から300キロ沖合いの太平洋上に、所属不明でフル装備の原子力空

母でも演出すれば、1〜2時間は稼げるだろう。それだけあれば、私の修理も終わる。」

 罪の意識のかけらもない台詞に、涼はひきつる。

「おまえはっ!めちゃくちゃすんなよっ!!」

「何故だ?一番合理的で、下手に手出しされて人命が失われる確率が、一番低いのだ

が?」

 怒られた理由が良くわからない、といった様子のセイリュート。

 絶句する涼が、何か言おうとしたときにマリアから通信が入る。すでに、言葉ではなく

戦闘用の通信チャンネルを使用した暗号文であった。涼は、その暗号通信を頭の中で

解読し、マリアの台詞に変換していく。本来なら、マリアの台詞に変換などしなくても

まったく問題ないが、それでも少しの手間をかけてそれを行った。

「照準作業終了・ランチャー作動に異常なし・マリアの機体チェック終了。オールグリー

ン。」

 味気ないマリアの通信にわかったと返信し、わざと声に出して、窺うようにマリアに言

う。

「さーて、一丁やってみるか!よろしく頼むぜ?相棒!」

「オーケイ・涼。」

 マリアはやはり、そっけなく通信で返してきた。涼はそんなマリアに少しだけ、いらつ

く。
 
「リョウどの、マリアどの。目標をこれより『甲』と呼称し、作戦に移る。今現在二人の

いる

ポイントにマリアどのが待機、リョウどのはそのポイントから300メートル前方に待

機。マリアどのから、400メートル地点に『甲』が進入するまで待つ。進入と同時にマ

リアどののプラズマ弾頭弾で頭部を狙撃、それで終わればよしだが、リョウどのは仕留め

損なった場合に備えて着弾と同時に突撃し、主装備で頭部を攻撃してくれ。いいか?」

 セイリュートのおおざっぱな作戦に、二人が了解する。あとは出たとこ勝負というわけ

だ。

「では、これより作戦を開始する。」

 異論のない二人に、セイリュートが宣言する。

 遠浅の海面を割り、『甲』の一部が姿を現す。涼はレーダーを切り替え、『甲』の

全体像を立体的に捉えられるようにする。

 『甲』の巨体がゆっくりと、海中を進んでくる。体高こそ3階建のビルぐらいだが、や

はり圧倒される大きさだった。まさにでかいカブトガニそのものだったが、一対の前腕だ

けが違っていた。それは蟹のハサミを巨大化して、無理やりくっつけたようなものだっ

た。ハサミだけでもテニスコート2面分ぐらいあった。それが、『甲』の中心にある長い

2本の触角のはえた小さな頭部を守るようについている。小さいといっても5メートルほ

どの球状だったが。

 さすがに移動時には頭部の前にあると邪魔なのだろう、今はサソリの様に両側に大きく

張り出されていた。

「狙撃には問題なさそうだな・・・」

 涼が安心している間にも『甲』が近づき、ついにその巨体のほとんどが海面から現れ

る。

「『甲』の狙撃地点進入まで、あと1000メーター・900・800・・・」

 セイリュートのカウントダウンが流れる。『甲』の質量に涼は

すぐ手の届くところに来ているような錯覚を覚え、少しだけ恐怖した。

 その少しの恐怖の中で涼は思う、マリアは恐怖を感じるのだろうかと。ちらと後ろに

目をやれば、マリアはまったく平然としてランチャーを構えていた。

 ちょっとした疑問を、頭から追い出す。どうも気が昂ぶって、しょうもないことを考え

てしまう。 その間にもカウントダウンは続く。

「600・500・400・・・」

 気持ちをセイリュートの、カウントダウンにあわせてそのときを待つ。

「・・・300・200・100・エンゲージ!」

 満天の星空の下、戦いの火蓋は切って落とされた。


                    つづく

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