ザ・グレート・展開予測ショー

それは、遠い日


投稿者名:我乱堂
投稿日時:(02/11/21)

 ……昔の話だ。


 雪之丞がその男と初めて会った時、顔を見上げたことを覚えている。
 大きな男だった。
 会って三年でこちらの背も伸びたが、その男の背丈もやはり伸びていたように思う。結局、最初にあった差は大して縮まらなかったのだから。
 背丈だけでなく、その身に秘めた霊力も。
 とてつもない素質の持ち主だった。
 恐らくは歴史に名を残す霊能力者になれたかも知れない。
 名は鎌田勘九郎といった。

 そして、その勘九郎が死んで、一年経った。

 陰念はふと顔を上げた。
「――雪之丞か」
「よう」
「……こんにちわ」
 陰念の知らない少女が、雪之丞の隣りでぺこりと行儀よく頭を下げる。
「誰だ? まさかお前の――」
「気にするな」
 まんざらでもないような笑顔を浮かべながら、雪之丞は陰念の隣りに並んだ。
「勝手についてきやがったんだ」
「それは……」
 少女は雪之丞が手に持つ花束に向けられていた。陰念はそれにめざとく気づく。
「そいつは勘九郎に?」
「お前は手ぶらか? 不義理なこったな」
 けっ、と陰念は吐き捨てた。
「あいつとは、そんな花束渡すようなベタついた間柄じゃなかったぜ」
 言われて、雪之丞も「それもそうか」と苦笑して、自分についてきた少女――弓かおりに投げ渡す。
「――なんですの?」
「やる」
「お供えじゃなかったんですの!?」
「そのつもりだったんだけどな……」
 雪之丞はそこに目をやった。境内の隅に立てられた素っ気ない棒と、それに差し込まれた鉄の義手。そこにあるのはそれだけだ。下には何も埋まっていない。これだけが、あの鎌田勘九郎の墓標だった。
「よく考えてみれば、陰念のいうとおりだったぜ」
「もう……」
 かおりは、あきれたような顔をした。
 たまたまの休みの日、雪之丞が花束を持って歩いているのをみかけたのがここにくるきっかけだった。尾行はさっさと諦め、問い詰めて出たのが「墓参り」の一言。その後を無理やりついてきたのは、花束にある花が気になったからであった。
「きずいせん」
「――ん?」
「花言葉は『私は愛情の返しを望む』」
「……知らないな」
 大体、この花を選んだのも適当だ。
 雪之丞は墓標に目をやった。
「こいつが昔、この花の世話をやってたのを見たような気がする……それだけだ」
「――お花が好きだったのね」
「ああ」
「どんな人だったの?」
 陰念と雪之丞は顔を見合わせた。
「どんなって……」
「……言われても」
 おカマの大男で霊力は並外れていたが、最後には魔族に魂を売って、そして――
「――まあ、イイヤツだったさ」
 雪之丞の言葉に、陰念も「そうだな」と含みを持たせた苦笑を浮かべ、頷く。
「色々あったけどな」
「まあ、な」
 雪之丞は帽子を胸に押さえ、瞼を閉じた。

「……全部、昔の話さ」


 fin

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