ザ・グレート・展開予測ショー

死霊使いの鎮魂歌(前編)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/11/19)


バン!!

 事務所のドアを荒々しく開け放ち、踵を地にめり込ませつつ美智恵が入ってきた。突然の来訪に事務所の一同は目を丸くしたが、美智恵はお構いなしに美神の前に歩を進めた。
 門外漢である横島達にとっては単なるハプニング程度の事だが、美神にとっては緊張と戦慄の瞬間である。美智恵がこの般若の如き表情をしている時は、決まって何かしらの形で自分が関与しているからだ。無論例外なく悪い方向で、だ。

「れ〜い〜こ〜これは一体何なの?」

 そういって美智恵が取り出したのは、一枚の書類だった。こめかみに青筋を浮かべ、引き攣りながらも笑みを浮かべる様ははっきりいって怖い。なんだか噴火寸前の富士山のようである。
 なるだけ美智恵を刺激しないように、美神が机に置かれた書類に目を落とす。それは、先日行った除霊の報告書だった。特に大きなミスをしたわけでもないし、料金についての倫理観を糾弾するなら耳タコついでに馬耳東風である。

「これってこないだ成功した除霊の件じゃない。何か問題でもあるの?」

 美神がけろりとした顔で言うのと、美智恵が派手な音を立てて机を叩いたのはほぼ同時だった。震動と共に破壊音が響き、木製の事務机が鉄球を落したように数センチ陥没した。

「何か問題でも?じゃないでしょーが!!除霊対象の悪霊と、除霊の方法がバラバラなの!!あんたのやり方は、ただ力任せに霊を消滅させてるだけなのよ!!」

 美智恵が気炎を吐く勢いで美神に詰め寄るが、当の美神は「何でそんなに怒ってるの?」とでもいいたげだ。何だか善悪の区別がつかない子供のようである。
 美神の無垢な顔を見て、美智恵の怒りは急速に萎えていく・・・わけはなかった。美智恵は震える拳を辛うじてなだめ、改めて美神に向き直った。

「あのね・・・GSの仕事は、悪霊を神通棍で殴ればいいってモンじゃないのよ?あんたが問答無用で除霊した悪霊、詳細を読んで仕事に当たったの?」
「当たり前じゃない。霊のレベルから攻撃方法、弱点まで全部熟読したわよ」

 GSとしては当然のことを聞かれ、眉をしかめる美神。だが、美智恵はこめかみを押さえたまま項垂れてしまった。美智恵は、制服のままプール授業に臨む生徒を見るかのような・・・有り体に言えば、基本且つ最も重要なものを欠いた有様である実の娘を見て嘆息した。

「・・・悪霊のバックグラウンドは?」
「へ?」
「背景の事よ。悪霊は生前何をしていたのか、何故悪霊に身を堕としたのか。そして、その魂を救う最善の方法は何か。それを一つでも考えたの?」
「そんなの必要ないわよ。あいつらは悪霊で、私達はGSなのよ?害虫駆除の時、シロアリがその家に侵入した理由なんていちいち調べないわ」


ぷつん


 何かが切れた音がした。と、横島達は思った。次の瞬間、美智恵がグーで机を殴ったのが背中越しにもはっきりと見て取れた。キラー衛星の如き一撃が、憐れな調度品を原型を留めぬ程に粉砕した。

「いい加減にしなさい!!私達GSは、人外の者達との掛け橋となるべき存在なのよ!?なのに、最高峰と謳われるあんたがそんなケンカ腰じゃ、共存なんかできっこないでしょうが!!」

 パラパラと木屑が舞う中、美智恵の怒声が全員の鼓膜を貫通した。

「何言ってんのよ!!下手に同情してたら、こっちがやられるのよ!?除霊われたくなかったら、最初からおとなしく成仏すればいいのよ!!」

 美神も負けじと言い返す。ややアグレッシブな意見だが、とりあえず矛盾した事は言っていない。そして、美神がそれを金科玉条としているのも美智恵にはすぐに理解できた。
 このままでは水掛け論で終わるのは目に見えている。美智恵は溜息をつくと、鞄からもう一枚の書類を取り出した。心なし美神が身構えたが、それは仕事の内容を明記した依頼状だった。

「あんたには、この仕事をやってもらうわ。異論は認めないから」

 美神が書類を一瞥し、クサヤを前にしたように顔を背ける。報酬も霊の強さも、美神が望むものとは程遠い依頼である。第一に安く、第二につまらない。

「何で私がこんなドブさらいみたいな仕事をしなきゃなんないわけ?」
「いいからやりなさい!!それと・・・」

 美智恵は言葉を切ると、部屋の隅に固まっている横島達に視線を移した。先程のやりとりも相成って、目が合っただけで竦み上がる一同。狼も狐も、彼女の前では小動物同然だった。

「おキヌちゃんを必ず同行させる事。いいわね?」
「へ?」

 急遽お鉢が回ってきたおキヌが、自答するように人差し指を自分に向ける。大上段からのご指名に、未だ脳の理解が追いついていないようだった。
 美神が口を挟もうとするのを手で制し、美智恵は風のように事務所を去っていった。颯爽と、というより台風一過と言った方が正しいかもしれないが。

「何なのよ一体・・・いつも言いたいことだけ言って帰っちゃってさ」
「まあ、いいじゃないですか。隊長さんにも、何か考えがあってのことなんですよ」

 宥めるような口調でおキヌが言う。美神はおキヌを軽く睨んだが、性善説に依拠するおキヌに愚痴を零すのも大人気ない行為である。結局、渋々ながらも依頼を享受することにした。

「ふん・・・机の弁償代、Gメンに送ってやるから。三割がた、水増し請求でね」




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