ザ・グレート・展開予測ショー

LONG TIME NO SEE 5


投稿者名:人生前向き
投稿日時:(02/11/18)

「ここだな。」
西条は手書きの地図を片手に、荘厳な建物の前で立ち止まった。白い壁にかかげられた文字と地図に書いてある目的地の名を交互に見ると、深く息を吸い、勇み足にその建物の内部へと入っていった。先程西条が見た地図には『南関研究所』と書かれていた。

話を少し戻そう。3時間ほど前、某総合病院、彼はそこの一つの病室にいた。彼の上司である美神美智子が出産という知らせを受け、仕事をほっぽらかしにして祝いにいったのだ。普通なら仕事を優先させるべきであるが、一昨日起こった悪夢のような事件を悲しむ暇もなく、引き続いての美智子の出産。心身ともに疲れている彼女たちを励まそうと考えていた。しかし彼女の病室には彼女の娘の姿がなく、ともにその従業員の姿もなかった。

「ひのめちゃんですか。いい名前ですね。」
「そうでしょ。夫と二人で考えたんだから」
強い人だ。西条は心からそう思った。
「令子ったら、自分の妹の顔くらい見に来たらいいのにね。」
美智子は笑いながら大袈裟にため息をついた。病室の窓は南向きで、日当たりもよい。昨晩徹夜で仕事をしていた彼は、あくびをしていた自分に気づくとすみませんと頭を下げた。
「眠そうね。」
「昨日は一睡もしてなかったもので。」
美智子は少し考え引出しから紙切れを取ると、ペンを持ち何かを書き始めた。
「徹夜あけで悪いんだけど、ここにちょっと行ってきてくれない。」
「南関研究所?」
「そう、そして確かめてきてほしいの。」
「どういうことですか?」


南関研究所に入ってからゆうに小一時間はたっていた。苛立ってきた西条はもう一度受け付けに問い合わせようと立ち上がったとき、後ろからか細い声がかかった。
「お待たせして申し訳ありません西条様。私はここの所長代理の南関 美佐といいます。」
自らを所長と名乗った女は、年は30前後、背丈は西条と頭一つ違うくらいで女の中では高い部類にはいるだろう、色艶のある長い黒髪を後ろで束ねている。白衣の下には胸を強調するかのような服を着ている。
「お忙しいところ申し訳ありません。」
西条は丁寧に頭を下げると、
「僕は、一昨日の夜にこちらに届けられた横島忠雄の友人なのですが、一目でいいですから彼にあわせていただけませんか。」
そう続けた。美佐は驚いたように聞いた。
「あら、オカルトGメンではなかったのですか?」
「すみません、そういわないと門前払いをされそうでしたので、本当は今日は彼の友人として彼に一目でも会いていのです。」
「困りましたわね。」
美佐は困った顔をすると、申し訳なさそうに西条に言った。
「もうすでに解剖が始まっていまして・・・」
「いえ、それでも一目でいいんです。」
西条は何度も何度も頭を下げた。もともとプライドの高い彼だが恩師の頼みとなると土下座をしてでもやり遂げる男だった。美佐は腕を組んで考え込んだ。そして妖艶な笑みを浮かべ西条を見る。
「わかりました、そこまでいうのでしたら。彼がこんな若くていい親友をお持ちとは・・。」

《・・・。》
西条は疑惑を感じながら、彼女の後をついていった。


彼女は一つの部屋の前で止まるとここです、と言いドアノブに手をかけた。開かれ初めに目に入ったのは、四・五人の男が診察台に置かれた遺体の回りを囲っている。西条は吐き気をもよおしたがグッと堪えると部屋の中に入った。遺体はすでに原形をとどめておらず、西条はどうやって横島だと確認しようか考えた。横では美佐がなにやら話し掛けてきてくるが彼の返事は安直にも「はい」やら「そうですか」と答えるだけであった。そうこうしている間に美佐は、そろそろと西条に部屋から出るように告げた。
《しょうがない!スーツの一着や二着。》
「最後に近くで見てかまいませんか。」
彼女が頷いた。彼は遺体の傍によっていく、そして前に立つと手を合わせた。横目でなおも作業をしている男のビニール手袋に血が付着していることを確認すると、頭を押さえうずくまった。
「ウッ!!」
横にいた男は慌てて西条の肩を揺すった。
「どうした!?大丈夫か。」
西条は弱弱しく、はいと答えゆっくりと立ち上がった。
「すみませんでした。」
彼はそういうと部屋を後にした。

美智子は病室に神妙な顔もちをした西条が入ってきた時点で全てを悟った。
「その顔からしてやっぱり違ったのね。」
「はい、スーツに付着した血液からいって、横島君とはまったくもって別人です。しかし・・・どういうことなのでしょう。」
「わからないわ。」
美智子はこの件についてこれ以上進展しないのを経験から確信していた。彼女の予想からすると、明日あたりになるとICUに入っている彼も一度も目覚めることはなく悲しい運命をたどることだろう。ただ一つだけ希望ができた、横島が生きているかもしれない。可能性は限りなく0に近いだろうが・・・・
「西条君、このことは誰にも言わないで、令子にも。」
「わ、わかりました。」
西条は美智子の迫力に焦りながら了解した。


私は命懸けで守れば、自分自身が知らぬ間に死の刻印を押されてしまった彼を助けることもできるだろう。しかしもし横島君が生きていたときのために、私はまだ死ねない。何年先になるかはわからないけど、彼を生かすために私は命をかけよう。そのときまでは!



それから二日後、ICUに入っていた彼は息を引き取った。
日本から世界に対して公式に横島死亡の発表があったのは、さらに二日後であった。

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