ザ・グレート・展開予測ショー

戦士ゆえに Vol.2


投稿者名:MODEL1897
投稿日時:(02/11/18)




士官室に残された大佐は、椅子に座り一人考え事をしていた。

(「またか…、くそ……、私は何のために………」)



彼はしばらくそうしていたが、やがて立ち上がると、自分の職務を遂行するため部屋を出て行った。 



―Vol.2―



横須賀在日米軍基地を出て、車で移動する間、美智恵は考え事をしていた。
しばらく大佐の言葉が今だ耳を離れなかったが、時間がたって感情の昂ぶりが静まってくると、心にある出来事が思い浮かんだ。
意識が少し前の時間に戻って行く。






世界GS本部、対アシュタロス掃討作戦の方針を決定する会議中である。

会議室に美智恵の声が響く。

「しかし、それでは令子は…」

「美神君、君も承知しているはずだ。敵が冥界とのチャンネルを遮断できるのはそんなに長い間では無い。
時間を稼げればそれだけ我々が有利になる。それとも君は、自分の娘のためにならこの宇宙を犠牲にしてもいいと?」

美智恵が話している相手は、世界GS協会の長、すなわち協会の最高責任者である。その風貌と実力から「長老」というあだ名がある。
もちろん他にも出席者はいるが、この部屋にいる人間の中で一番権力を持ち、なおかつ老獪なプロである彼が、
全世界の運命を決めるこの会議の議長であり、場はほとんど彼と美智恵の一対一の状況になっていた。

美智恵はすでに椅子から立ち上がり、覇気のこもったオーラを身にまといながら、部屋中に声を響かせて喋っている。

「そうではありません!ただ、……他に方法があるはずです。」

「それはつまり、我々人間がアシュタロスを倒すと、そういうことか?」

「そうです。確かに敵は強力ですが…、」

「長老」は、机にひじを突いて顎の下で手を組み、話し始めた。

「強力…などというレベルなのかね、今回の敵は…。実際、神魔の連合軍がたった一隻の敵戦艦相手に敗北したのだ。
彼らの戦力は結構なものだ。流石に神と魔を相手にケンカを売るだけのことはある。
目標を短期決戦に絞り、そのための戦力、戦略を揃えてなおかつ、その目的を達成している。生半可な相手ではない。
私としてもこのような方法を選択するのは非常に残念ではあるが、
現状で確実という言葉を求めるならば、これ以上の方法は存在しない。………違うかな?」

人間、面と向かって間違いを指摘されると腹が立つものである。その指摘が的を射ている場合は特に。
そして、その指摘が痛みを伴う場合はさらに。

(「くっ……、この…、じじいが………!」)


「時間をください、一ヶ月でいいんです!それで令子を鍛え直して、アシュタロスに対抗できるだけの力を得てみせます!
方法はあるはずです!人間の知恵は悪魔なんかに負けたりはしない!」


美智恵の言葉に最高責任者「長老」は一瞬逡巡したようだったが、鋭い眼差しで美智恵を見、口を開いた。

「勝算はあるのかね?」

「あります。私に任せてくださるのなら………」

覇気と若干の怒りを含んだ瞳で会議の出席者たちを見つめる。



微かに沈黙が流れた、と、

「…そこまで言うのならば、私も鬼ではない。勝算があるというのならやってみたまえ。」

(「よし!」)

美智恵は拳をかすかに握り締める。

対して、ぎらりと鋭い……切れ味抜群のナイフを思わせる目と声で、「長老」は呟いた。


「我々人間の底力を、奴等の脳みそに叩き込んでやるというのもいいかも知れんしな。」

にや、と口の端に微かな笑みを浮かべるが、続けて「長老」は口を重そうに開いて付け加えた。


「ただし一つ…、言っておくが…、もし、無理だ…と、そのときは…覚悟は出来ているね?」

(「…ちっ、言われなくとも……!」)美智恵は、表情には出さないが、心の中で悪態をつく。


「………はい。」

「ふむ………よろしい。では、期限は一ヶ月、美神君、君には対アシュタロス掃討作戦の全指揮権を与えよう。存分に戦いたまえ。
健闘を…期待している。……以上だ、解散。」

「ありがとうございます!」

敬礼と共に、これ以上無いくらい気合と覇気のこもった声で答える。

同時に参加者たちが次々席を立ち部屋を出て行ったが、後に美智恵ともう一人………



「美神君、ちょっと待ちたまえ。少し話がある。」

声をかけたのは「長老」だった。

「なんでしょうか?」

「長老」は、一体何なのかと不思議そうな顔で聞き返す美智恵を手でとどめて、

「ああ…、ちょっと待ってくれ……」

そう言って秘書に片手で部屋から出るようにと合図した。


律儀そうな秘書が丁寧に扉を閉めると、おもむろに「長老」が口を開いた。

「美神君………娘が………令子君が大切なのかね?」

「は?」

この奇妙な問いからは、その真意をまったく図れなかった。

「いきなり何をお聞きに……」

途中まで言ったところで、美智恵の言葉を遮り「長老」が再び問う。

「何大したことではない。普通に答えてくれればいい。娘が大切か、どうか?」

美智恵はしばし考えていたが、とりあえず答えることにした。

「……ええ、大切です。それが何か?」

「長老」は目を閉じ、ふっ…と微かに笑うと、机にひじを突いて顎の下で手を組み、美神に語りかけた。

「いや、君も人の親なのだな、と思ってね。君は娘のために戦うのだな。ふむ、…なるほど。それが聞けてよかった。」

そう言うと「長老」は席を立ち、そのままゆっくりとした足取りで部屋の外へ出ようとする。

「?」

わけの分からない美智恵は扉を開けて出て行こうとする彼に、声をかけた。

「一体何をお聞きになりたかったのです?」

「長老」は扉にかけた手を下ろし、美智恵に向き直った。


「ふむ……まあ、戦うということは意志を……強い意志を必要とする。君にその意志があるかどうか確かめたかった。
なにせ人類を代表して戦うのだからな。」

また口の端でにや、と笑い、言葉を続けた。なかなか愛嬌のある笑みだ。

「月並みだが……Good luck…」

そういうと「長老」は扉を開けて出て行った。


残った美智恵はしばし気が抜けたような顔をしていたが、

(「ふぅ…」)

一つ息を吐き出して、

(「いまいちよくわかんない爺さんね。」)

とりあえず一息つく。が…

(「大変なのはこれからね…」)


………………もちろん覚悟は出来ている。





ここまで考えて、ふと意識が今に戻ってきた。

(「………覚悟……か………」)

夕方の大佐の言葉が頭をよぎる。

(「私だって好きでやるわけじゃないんだけどね………」)

自分は少し神経過敏になっていたかもの知れない。彼だって幾度もこういう状況に遭遇して………
それでも慣れることなんてできないのだろう。それは自分も同じだ。慣れることなんてこの先も無いだろう。

(「それでも誰かがやらないと……」)

それが戦う者の務め、宿命なのだ。




(「それにこの作戦がうまく行けば………」)




美智恵は渡された大佐の資料にもう一度目を通してみた。



(概要)『アレキサンダー=C=ウォレス。階級は大佐。アナポリス海軍兵学校を卒業後、米海軍入隊。
     優秀な士官であったが、とある理由から情報の専門家に転向。
     現在は、J−2(米統合参謀本部情報管理本部)に所属。CIAに出向した経験もある。
     今回の対アシュタロス掃討作戦には美神美智恵のアシスタント:情報参謀として参加。』











ウォレス大佐は仕事を終えて帰路についていた。やはり、今回の作戦のことが頭から離れないらしい。
仕事の間も、自分のベッドの上に転がった後も、美智恵との会話のことばかり考えていた。

(「考えてみれば………彼女が怒るのも当然だな。」)

自嘲気味に苦笑する。

(「弱気、臆病……代わりの作戦も持ち合わせていないのに………………それでも……)」

それだけ考えて唇を噛み締めた。



その後、ここ数日仕事に追われていたこともあり、彼はそのまま寝入ってしまった。


そして…………夢の中で彼は戦場にいた。



                         
                            To be continued.














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みなさんお久しぶりです、MODEL1897です。二回目の投稿になります。覚えていらっしゃるでしょうか?
まあ、いろいろあって遅れてしまったわけなのですが、そのわりに量が若干少ないのはどうかご容赦を。
この後も投稿する間隔が空くかもしれませんが、読んでいただければ嬉しいです。ではまた次回。

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