LONG TIME NO SEE 1、2、3
投稿者名:人生前向き
投稿日時:(02/11/17)
俺は結局、二人も助けることはできなかった。初めて愛したものと、初めて憎んだもの。何もできなかった・・・・・無力だった。
「人間!横島とかいったな。すまなかった」
彼の体とは相対的に、自分と今まで戦ってきたものを温かく包み込んでしまうかの顔で、言葉を腹から捻り出した。彼が加害者であることは紛れもない事実だが、思えば彼も被害者であったのかもしれない、『魂の牢獄』という復活の・・・・。
彼が最後に言った言葉は礼の意をこめていたのだろうか?殺した相手に対しての。
相手が自分の愛した者を殺したとはいえ、横島の鋭い眼光は彼自身と、そして神族の頂点・魔族の頂点にいかざるおえなかった。ただ一瞬だけおこった2つの激しい霊力のある場所へ、彼は尽きたはずの霊力をだして飛んでいく。
何も考えることはないんだ。そう、これは無知な俺の自分勝手な感情が俺を動かせているだけ。
「ちょっとあんた!どこへ行くつもりなの」
同化している美神の言葉を重い重圧で遮ると、無言のまま飛んでいく。横島自身気づいていた。これが2つの分かれ道だと・・・・・・
「なにか、めちゃ速うこっちに向かってるもんがおんで」
一人がそうつぶやいた。
「はい、気づいてますよ・・・・」
もう一人がやるせない顔をしながらその方向を見ている。
「どないするんやキーやん?」
「私たちには戦う理由はありません。しかし彼が文殊を使い先の戦いで、アシュタロスになり、そしてアシュタロスのすべてを知ってしまいました。小竜姫たちの話のそのとおりの人物なら、彼の怒りを無視する権利は私たちにはありません。」
橋の上で二人は彼を待っていた
「そうやな。」
目を覚ますと、白い天井が見えた。横島は体全身から感じる鈍痛を堪えながら起き上がった。いまいるところが病院だと理解するまで間があり、記憶を少しずつたどっていく。自分が寝ていたベッドの横には椅子に座りながら寝ている美神とおキヌの姿があった。
「負けたんだよな。」
やるせない。
一人も助けられなかった。
負け犬。
アシュタロスの怒りもぶつけれなかった。
無能。
なにもできなかった。
俺はなにもできないのか。
力さえあれば・・・・・・・・・・・・・。
ちくしょう
なにがゴーストスイーパーだ!!
「横島さん?」
おキヌが眠い目をこすりながら、顔を上げた。
「大丈夫ですか!?よかった〜。二週間も眠ってたんですよ。」
おキヌは横島に鼻をすすりながら横島に抱きついた。
「あぎゃぁぁぁぁぁーー!!!!!」
いきなり抱きつかれ横島はその痛みを声に出した。
「ちょっと、おキヌちゃん。 いたい! いたい!」
「おキヌちゃん、あんたのことすっごく心配してたんだから。それよりあんたの入院費は国持ちだからいいとして、その間のバイト料ないからね。」
美神は美神でうれしさをあらわにしないよう、いつもの傲慢な態度だった。
「そんなーー!!美神さーーん」
ほほえましい日常にもどったように。だけどなくしたものは大きすぎた。いつものように振舞うが、大事なものを失ってから時間もそんなに流れてはいないのに、俺は楽しみを感じてもいいのだろうか?喜びを感じてもいいのだろうか?それ以前に感じれない。感じるのは虚しさとやるせなさ。
・・・・・・・・これからどうしよう
窓の外から吹く風は冷たかった。
「殺さないんか?」
彼らの前で、手も足も出なかった。俺が文殊でだした剣を使い、切りかかろうと振りかぶったとき、辺り全体が闇とかし、その中を捕らえきれない速さで突き進んでくる一線の光が、俺の眉間の中心に命中した。それは俺の体の機能を麻痺させ、身動きひとつとれない状態へ追い込んだ。歴然としていた力の差がここまでのものだとは思わなかった。
「・・・・・・やるせないですね。」
「頭での理解と心での理解は、違うってことやな。」
衰弱感が彼らの沈黙を長く感じさせる。
「こいつのことやけど、まぁ『わかってます。彼に罪を問うつもりはありません』」
「でも彼が羨ましいですよね。」
「そうやな」
俺の記憶はここから無くなっていた。
最初は小竜姫さまやワルキューレたちに見舞いにくるのに対し、罪悪感ににた後ろめたさを感じていたが、結局彼女たちは、俺の愚行を知らないようだ。おキヌちゃんは毎日のように見舞いにきて、俺の世話をしてくれる。美神さんは・・・・・・いつもと変わらず、仕事がこない、なんとかしろやら、仕事に早く復帰しろやら、無茶ともいえる注文ばかり押し付けてくる。
そういえば、パピリオは小竜姫さまのもとで修行をしているようだ、小竜姫さまとパピリオの修行姿を想像すると吹きだしてしまう。あの二人って180度性格が違うと思うのは間違いかな。ペスパは魔族の軍に希望入隊したらしい。パピリオの手紙に書いてあった。
それより美神隊長が生きてた。5年間も美神さんから身を隠しながら生活していて、この前見舞いにきてくれた時には妊娠までしていた。子が守銭奴で、親が詐欺師。恐い家族だとつくづく思う。
みんな動き始めている。アシュタロスの戦乱を乗り越えて。
俺は変わらなきゃいけない、知らなきゃいけない。そして、俺は強くならなければいけない。この考えの源は、使命感ではない、責任感でもない、罪悪感をかくし味にまぜた報酬や恩恵のない義務だった。
俺が目覚めてから一週間がたっていた。外は激しい雨にみまわれて、憂鬱な気分にならざるおえない。安物ベッドで横になっているのも飽きてくる。俺は溜息をひとつし、読んでいた雑誌を丸めてごみ箱へと投げた。
「入るも八卦、入らぬも八卦!」
「横島さん? はいりますよ。」
ノックの音が聞こえたと思うと、ドアが開き、いつもの下界姿の小竜姫さまがはいってきた。
「外れた!」
ごみ箱の角にあたるや、横へと落ちた雑誌。
「はずれたって?」
「すみません。なんでもないっす。 それよりどうしたんですか今日は?ヒャクメと一緒じゃないんですか? まさかデートのお誘い!ってわけでもなさそうですね。」
俺は立ち上がり外れた雑誌を、腰を屈めてごみ箱に捨て、部屋の隅にあるお客様用の古びたパイプ椅子を小竜姫に渡す。雨の中来たのだから、それ相応な用件なのだろう。良い話だろうか、悪い話だろうか、彼女の顔から後者のほうだなぁと予測できる。彼女はゆっくりと椅子に座わった。
「今日は、神族の長の名代としてきました。」
頭の中でそれとなく彼の姿を思い浮かべる。
「横島さんの記憶の一部とかしている『アシュタロスの記憶』を消去せよとのことです。」
小竜姫さまは申し訳なさそうに、うなだれた頭、俺の顔を直視できないでいる。彼女は次の発言を躊躇っていた。
「そして?」
俺は小刻みに震えている彼女に、冷淡な言葉を放ちせかした。
「・・・・・・それと同時に、彼の記憶が関連付けで蘇らぬよう『アシュタロスの戦乱』の記憶をすべて消去せよと・・・・。」
「もし断ったら。」
唇から血が出てる、いつのまにかに噛んでしまってたようだ。
「・・・抵抗するなら殺せと。」
俺は唇からでた血をぬぐった。
赤い血は親指の中、深い色へと変わっていった。
壁にかかっている時計の音がやたらに鬱陶しい。小竜姫さまはあれ以来黙りこくってしまった。突然たたきつけられたものは、意外にも想像以上に厳しいもので、俺は自分自身を落ち着かせることで精一杯だった。
どれだけ時間がたったのだろうか、気づかぬうちに雨音はうせていた。俺はゆっくりとカーテンを窓の端に寄せた。外は晴れており、窓から差す陽は刻一刻と色を変え始めている。いつになく悲しさをそそる色へと。
「短い時間しか見れないからよけいに美しいかぁ。」
「えっ!!」
小竜姫さまは顔をこちらに向けた。彼女の目は赤く腫れ上がっており、まだ目尻から涙がでている。彼女は彼女で辛いのだろう。そんなことは分かり切っている。そう分かり切っているんだが俺は・・・・
「なにが正義ですか?」
「なにって?」
唐突だったからかもしれない。彼女は不思議そうに俺の顔を見ている。
「俺たちは正しかったんですか?」
質問の内容を理解したらしく、勢いよく立ち上がると、彼女は即答した。
「あたりまえです!何をいっているんですか。」
古びたパイプ椅子が後ろへ倒れ、騒音をつくりだした。彼女はあわてて椅子を元に戻すと、再び腰をかけた。
「俺も俺たちが正しかったと思いたいっすよ!でもアシュタロスが・・・・アシュタロスはメチャクチャ苦しんでたんですよ、永遠に変わることのできない絶対悪という存在っていう代名詞を背負いながら・・・そして永久に解き放たれないっていう『魂の牢獄』ってやつに・・・。俺だってあいつは憎いですよ、いや憎かったです。 だけど今は、死ぬことさえ奪われていたあいつに・・・。 もともとは誰も死にたいやつなんていないんだ!!でも自分が生きていることで、自分が大切にしていたものが壊されるのならって・・・。だから・・・だから・・・」
・・・でも俺はあいつにとどめをさした・・・
今までの
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