ザ・グレート・展開予測ショー

あなたへ ―後編―


投稿者名:veld
投稿日時:(02/11/17)

 

 タマモが入って来た時、その部屋からは三つの寝息が聞こえてきた。この空間のことも気になったようだが、今目の前にあることのほうがはるかに大事だ。
 一つはおキヌちゃん、一つはシロ、そして・・・横島。

 「全く・・・『何がすぐ戻ってくるでござる』・・・よ!待てども待てども来ないと思ったらこんな所で・・・」

 そこには横島に抱きついているシロとおキヌちゃんの姿があった。
 
 「全く、美神さんも言ってたでしょうが・・・、って聞こえてないでしょうね。寝てるし・・・、本当に馬鹿」

 どうすんのよ、と、シロの頭を小突いてみるが、全く効果はない。横島に張り付いて本気で嬉しそうに寝ている姿を見ると頭に来たので、

「・・・馬鹿犬、馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬・・・・・」
 と耳元で囁いていると、シロがうなされ始めた。「犬じゃないでござる〜」そんな寝言まで飛び出す。どうやら、ちゃんと悪夢を見てくれているようだ。どんな夢かは定かではないが。タマモはその勝利に何となく虚しくなったが、気が晴れたのも事実だと、思うことで落ち着けた。

 「それにしても・・・、本当に幸せそうに寝てるわね。この二人。どんな夢を見てるんだろ・・・」

 タマモはそんな二人の寝顔を見ているうちに、睡魔が襲ってきた。そういえば、昨日はあまり眠れなかった。シロと一緒に遊んでいたせいなのだが。責任の片割れはすでに眠りこけている。

 「駄目・・・起こして、連れて行かないと・・・」

 霊気で作り出した結界の中、僅かな時間ではあるが、その中でだけ二人は出会うことが出来た。触れ合うことは出来ない。ただ、お互いを感じあうことだけができる。

 「俺は、幸せだったよ・・・。お前に逢うことができて、本当に良かったと思ってる。得た物は僅かだったけど・・・でも、大切なものだ」

 何もない空間の中に、確かに、彼女の何かを感じている。言葉で表せない、自分の中に確かにいる彼女の存在を。

 「俺は、あの選択を正しいなんて思えることはきっとないよ。生涯、悔やむと思う。――でも、間違ったことをしたなんて思うこともない。おまえが、言ってくれたことだから。俺は忘れないよ」

 うっすらと、ぼんやりと、彼女の泣き笑いの顔が見える。それは幻かもしれない、それでもいい。彼女に会えた。それだけで。

 「俺は弱い男だよ。愛した女一人守れない。情けない男だ。それでも・・・」

 俺は―――

 「生きてゆくよ・・・。成長なんて出来ないかもしれないし、もっと情けない男になるかもしれない。それでも、生きてゆくよ。ずっと、この命続く限り
 そうさ、たとえ、どんなに馬鹿な話があったって乗り越えてゆくさ。俺は生きるためなら何でもしてみせる。お前からもらった命を無駄にするつもりはないよ。」

 ふふふ・・・、そのほうが横島らしいわ・・・
 笑ってくれた気がした。あの、いつも自分に向けてくれていた、優しい笑顔、鮮明と思い出され・・・形作られてゆく。

 「ねえ、横島・・・私と会ったことを後悔してない?」

 彼女の顔は笑顔のまま、そう、きっと、彼女は答えを知ってる。だから笑ってる。そうだろ?ルシオラ。

 「後悔なんてしないさ。きっと、これからも。ただ、お前以上の女にはきっと出会えない、そんな覚悟をしなけりゃならないってのが辛いけどな」

 ううん、ルシオラは首を横に振った。

「それは違うわ・・・横島。あなたの傍には魅力的な人がたくさんいる・・・あなたを好きでいてくれる人達、あなたはきっと私以上に愛せるはず・・・。勘違いしないで・・・、それは私に対する裏切りでも何でもない、あなたをもっと魅力的にする・・・、私の愛するあなたが魅力的になることは全然悪いことじゃない・・・」

だって、彼女は付け加えた。

「娘になった時に誘惑するのがつまらない男なんていやよ・・・(ぽっ)」

 おい、ルシオラ・・・(汗)?

 「競争相手は手強い相手のほうが面白いしね・・・」 

 いや、だからな・・・

 「多分、魔族因子を持ってる横島の事だから、娘の私が成長した後でもおじさんにはなってないだろうし・・・、ま、私は横島ならいいんだけどね」

 お〜い・・・

 「・・・じゃ、ね。横島。・・・また逢いましょ。私はいつでも、あなたの傍にいるから」

 え・・・待て、待ってくれよ、ルシオラ・・・
 彼女の姿が消えてゆく。俺の意識の中で何かがゆっくりと覚めてゆく。もう少しで、もうほんの少しで・・・

 「俺は・・・」




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 「お前を愛してる」

 「へ・・・?」

 目の前にある四つの顔が一斉に呆けた顔になる。左から、おキヌちゃん、シロ、タマモ、美神さん・・・って、何でみんながここにいるんだぁ・・・!?それに・・・ひょっとして(汗)

 「横島さん・・・そんな・・・恥ずかしい・・・、でも・・・嬉しいです・・・」

 え、あ、その、おキヌちゃん(激汗)

 「先生・・・そういってもらえて・・・、シロは、シロは・・・」

 あ、おい、シロ、ちょっと待て・・・(激汗)

 「よ、横島あ・・・あ、え、うう、・・・」

 ちょっと待て・・・タマモ?何で顔を赤らめてるんだ・・・(激汗)

 「あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・あんたはな、何、言ってんのよ・・・」

 美・・・美神さん?な・・・何ですか!?そのリアクションは!そういうのは笑い飛ばすタイプでしょうが・・・・。―――あるいは殴るか・・・(泣)
 って言うか・・・みんな、自分だと思ってるのね・・・(激汗激汗)

 







 薄暗い部屋の中に宿る小さな命の粒子・・・、『命根光景』の乱舞。使用したものが、眠っている間だけその身に宿した魂と向き合うことができると呼ばれている。が、希少価値が高く、手に入れるのは困難を極める。
 厄珍から、これをもらった時(そう、今考えたなら信じられないことだった。あの強欲爺が俺にただでこれをくれたのだ。あいつは「将来的優良物件の坊主への投資ね」とか言ってたが)、俺は小躍りして喜んだ。
 そう、これは本来、自分の中の自分、形作られた自我と向き合うとか言うものらしい。が、俺にはその本来の使い方ではなく、俺ではないもう一つの魂と出会えるらしいのだ。
 
 つまり、ルシオラと。
 
 あいつと逢って言いたい事はたくさんある。伝えなければならないことも。あいつからも聞きたい。
 
 あいつの声を、俺はもう一度聞きたい。

 だから、俺は眠りにつく。

 あいつと、再び出会えると信じて・・・。


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