ザ・グレート・展開予測ショー

あなたに ―中編―


投稿者名:veld
投稿日時:(02/11/17)

 「馬鹿犬っ・・・何してんのよ・・・」
 横島のアパートの前、組んだ腕を苛立たしげに揺らしながら、(通称)相棒であるシロを待っていた。
 美神の仕事の呼び出しに出る気配のない横島を心配し、アパートに向かったおキヌちゃんが三時間たったというのに帰ってこないのに見かねた美神が、シロとタマモを迎えに行かせたのである。

 まあ、その様子は使役―――美神から彼女らへというよりも、彼女らの自発―――彼女らから率先して―――だった様子だが。

 

 シロとタマモが来る三十分前・・・。

「先生・・・まだ来ないでござるか・・・」

 くぅーん、と甘えるような声を出しながら、シロはまだ来ない横島の心配をしていた。

 「・・・シロ、あんた、それで六十二回目よ」

  あきれ返った声音で返すタマモ、彼女もどこか不安そうな様子で、いつもはまじえるはずの揶揄も加えなかった。
 事務所内はどこかピリピリとしていた。その雰囲気を作り出しているのは、一人。

 「遅い・・・わね。何してんのかしら?おキヌちゃん」

 声の荒い所長、こういうときの彼女には関わらないのが一番であることは、彼女と知り合い以上の者は皆知っていることだ。しかし、敢えてその状態の彼女に進言するものがいた。

 「ひょっとしたら・・・、みいらとりがみいらになった、のでは・・・」

 シロは珍しく難しい言葉を間違いもせずに言った。美神はむしろ、その言葉の意味よりも、彼女がそんな言葉を知っていることに驚いた。(シロ、何気に正解)同じくタマモも。そのせいか、悔しげな顔をしている。こんなことで対抗意識をもつのもどうかとは思うが、単に揶揄できなかったのが残念だったのかもしれない。

 「ミイラ取りが、ミイラ、ねえ・・・。おキヌちゃんに限って、っていうか、横島の所に行って、どうしてるって言うのよ?」

 美神はシロを睨みながら、尋ねた。とはいえ、答えを期待しているわけではなかった。何となく言ってみただけだ。

 「それは・・・、何でござろう?おキヌ殿が先生の所に行くのはよくあることだし・・・」

 うーん、シロは考えて見るが浮かばない。タマモも同意する。

 「そうね、いつもお腹減らしてる横島にご飯作りに言ったり・・・、考えてみれば別に珍しいことではないんだけど。そういえば、どうして横島来ないんだろ?・・・」

 ただでさえ少ない給料がさらに少なくなるでしょうに・・・、流石にそれは言えなかった。言えば、ただでさえ悪い美神の機嫌が、極悪になるのは必至だ。わざわざ、八つ当たりの理由を作ってやることもない。皮肉屋ではあっても、危険は避けたい。

 「どうせ、赤貧にあえいでいるんでしょうけど・・・」

 その言葉に、シロとタマモは同時に冷めた目で美神を見た。誰のせいなのだ、と、その物言わぬ視線が物語っている。うっ、美神は二人の視線に少しだけ、本当に少しだけ、罪悪感というものを感じた。多分。

 「いや、まあ、それはいいとして」

 全然良くない!そう思ったが、思うだけ。言葉に出せば逆切れされるのは目に見えているので、敢えて言わない。まあ、言わなくてもそうなることは多々あるが。複雑な人間関係の中で、彼女達が身に付けた対応策は、「美神に口無し」であるようだった。

 じー・・・

 「あんたたち、そんなに不安なら横島とおキヌちゃんを迎えに行ってきなさいよ・・・、どうせあいつが来なければ暇なんだしね」

 その言葉にシロは目を輝かせ、尾を振り、タマモは斜につっていた目を緩め、口元を綻ばせた。やれやれ、と美神は頬杖をつくと、ぱたぱたと手を振って、彼女らを促した。

 「そんじゃ、行ってきなさい。あんた達まで帰ってこないなんてことがないようにね!」

 「承知!タマモ行くでござるよ!」

 シロは美神に短くそう答えると、駆け出していった。

 「ちょ、ちょっとまちなさいよ、馬鹿犬!」

 その後をタマモが追いかけてゆく。遠くからシロの「狼でござるー!」という声が聞こえた気がしたが、そんなことはどうでも良かった。そんなことより、美神は彼女の去り際の顔を見て驚いた。
タマモは笑っていた。いつものクールな彼女ではない、歳相応の無邪気な笑顔。横島の元へ向かう彼女の顔にしたたかさは見えなかった。純粋に、彼を慕っている。シロや、おキヌちゃんと同じように。素直ではないかもしれないが、間違いなく、彼を思っている。
 しまった・・・、そんな気持ちが去来する。
事務所のドアの閉まる音がした。それは、もう、自分が彼女らの後を追うことが出来ない音のように聞こえた。

 「全く・・・何であいつの為に私が行かなきゃなんないのよ・・・」

 ごまかしてみても、無駄に意地を張っているのが自分でもわかる。したくもない自己嫌悪を、何度繰り返したことだろう。安っぽいプライドなんて捨ててしまったほうがいい。まだ、彼が私の傍にいてくれている間に・・・この気持ちは伝えなければならない。そう、思っているのに。

 怖いのだ。

 今ある、全ての関係が壊れてしまうのが。
 そして、今まだ、彼の心は、あの子にとらわれている。
 彼女の心の中にあるのは、不安、そして、それを否定するためだけにある意地。弱い所は見せたくないのだ。誰にも。

 だから・・・、私は彼を愛せない。

 そして・・・、彼も私を愛さない。


 

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