ザ・グレート・展開予測ショー

あなたに


投稿者名:veld
投稿日時:(02/11/17)

 誰しも、心の中に矛盾した思いを抱えている。それがたとえ、人にとってはたいしたことではないように思えても、自分の感情の中で許せない、そういうことはしばしばある。だからこそ、人は悩むのであり、そうすることで、自分の中で正しいと思えることを見つけ出す。
 その中でまた、矛盾が生じる。
 正しいと思えることが一つであるとは限らない、選択すべきもの全てが間違いである可能性もある。
 後から後悔するとわかっていても、決断しなくてはならない時はある。
 たとえ、間違いだと思っても・・・。

 薄暗い部屋の中に、満ちている霊気は、どことなく儚げだった。今にも消えてしまいそうな・・・まるで、蛍の光のような美しさを持っている。しかし、そこにある光は、生命力に満ちていた。密度の濃い、凝縮された霊気。それが、ぼんやりと、淡い光を放っている。
 彼女は初め、その空間の異常さに、疑問を持った―――そして、そこにいるべき部屋の主の姿を探し、部屋の隅でうずくまっている彼の姿を見つけた。

 「よ、横島・・・さん?」

 少女――おキヌはおそるおそる、彼の名を呼んだ。普段なら、なんの躊躇いもなく呼べる名が、妙に呼びづらい。その声に、彼は答えなかった。彼女のいた位置から、彼の顔は見れなかった。どんな顔をしているのか、わからなかった。

 眠っているのかもしれない、そうも思った。が、この部屋の様子は異常だったし、それに眠っているのだとしても、どうして部屋の隅でうずくまっているのか・・・、考え事でもしているうちに眠ってしまったのだろうか、それはないだろう。何となく。

 とりあえず、彼女はその部屋の中に入り、彼の傍に近づいた。そして、彼の様子を見る―――目を瞑り、一定のペースで呼吸している・・・その安らかな寝顔から、良い夢を見ているのが伝わってくる。・・・少女はその場で、彼の顔を見ていた。これ以上ない程に幸せそうな顔を、見せるべき・・・見て欲しい目の前の人に向けながら。

 「あなたは・・・どんな夢を見ているんでしょうね・・・?」

 少女はそう目の前の彼に尋ねるが、答えはない―――わかりきっていたことではあった。彼が見る夢の中で幸せだと思うのは一つだけ・・・。夢の中でしか見れない彼女の事だけ。
 それでも・・・。

 「私にも・・・少しだけ、夢を見せてくれますか?横島さん・・・」

 静かな、その部屋の中に、二つの寝息が聞こえてくる。砂煙でも巻き上げそうな勢いで、かの主人の下へ駆けてきた少女は、その光景に、言葉が出なかった。
 薄暗い部屋の中に輝く霊気の光・・・まあ、それはどうでもいいとして(いいのか?)、それよりも問題なのは、この部屋の主の・・・、正確に言えば、この寝息の主である二人の格好だった―――黒髪の少女が、青年に抱きついて幸せそうな寝顔を見せている。

 「お・・・おキヌ殿・・・、何をしているでござるか・・・!」

 ぷるぷると、握り締めた拳を震わせながらも、力なく、しかし、殺気を充分すぎる程込めた、鋭く冷たい声で眠っている少女の名を呼ぶ。その声は、かすれていて、声量は不十分だったが、恐らく一般人がいたなら、この部屋の温度が十℃は下がったと感じるであろう程の力があった。

 はっきり言って、泣きそうな、怒ったその顔は凄く可愛い・・・が、その雰囲気は背景に憤怒の表情のアルテミスの姿が見えるようだった―――その感情を向ける対象が、彼女の嫌悪する男のほうに向かってはいないようではあるが。

 しかし、彼女のその声は、眠っている少女には届かない。その声が部屋の中に響いた時、一瞬だけ、幸せそうな寝顔を、苦しげな表情に変えたのが唯一の戦果だった。

 「むー・・・」

 頬を膨らませ人差し指を咥える物欲しげなポーズを無意識に作りながら、嫉妬と羨望、故の殺意(何故)のないまぜになった感情を抱きつつ、彼女らの様子を見ていた。そのうちに、自分も同じ事をすればいいのだということに気付いたシロは、この部屋の異常さに気付いた。少しは冷静になったのだろうか、彼女は部屋の様子を隅から隅まで見渡し、その原因を探し始めた。

 「・・・この霊気、悪霊の持つあの悪しき感じはないようでござる。むしろ、暖かい、優しい霊気。まるで、この部屋を浄化しているような」

 不思議な感覚・・・、まるで母の胎内にいるかのような・・・優しい霊気の中に包まれる、そんな感覚。危機感を抱かせない感覚、人狼であるシロはそれを安全だと判断した。

 「多分、これは先生の張った結界でござろう・・・。しかし、何故?」

 シロはしばらくその問題を考えていたが、答えなど出るはずもなかった。ひょっとすれば、何かに命を狙われているのかとも考えたが、それならば、自分やおキヌちゃんも知っているはずだと思う。・・・ひょっとすれば、知らされていないだけなのかもしれない。彼は優しい人だから・・・。そう思うと、恋慕の情はまた強くなる。

 「先生・・・」

 自分が慕う人は優しい。そして、誰よりも強い。それは、自分の知っている狭い世界だけの話なのかもしれない。それでも、彼女はこの世の誰よりも、彼を愛している、そう、神に誓うことができる。彼の弱さも、受け入れることはできると思うから・・・。

 痛いくらいに高鳴る鼓動、強くなる思い。押さえきれそうにない。
 先生・・・、口の中で、その言葉はとどまった。

 視線の先の二人。

 寝てる。

 この思い。

 どうすればいいのか。

 そう、自分も、先生の傍で。

 先生と一緒に。

 眠ろう(ぽっ)。

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