ザ・グレート・展開予測ショー

南極物語(6) 


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/11/15)

時が遅く流れ始める。

超加速に入ったシロと横島はその不思議な感覚を味わう。

嵐のように荒れ狂っていた石・・・動いてはいるがその動きは遅々としている。
しかしその中に込められた「悪意」の働きは健在のようで、確実に横島たちのほうへ向かって動いている。

「変な感じでござるな・・・」
「ああ・・・・」
二人とも多少の戸惑いはあるが、それでも超加速を保つため、ある程度集中している。

シロは鼻をひくつかせ、さらに集中力を高める。
すると、はっきりと「悪意」の流れが見えてくる。
その中から大元となる流れに通じる物を探し出す。並みの能力でできる事ではない。
横島も集中するシロの邪魔にならぬよう、静かに待つ。

少しの後、シロの動きがピタリと止まる。
「こっちでござる。」
そういうと地面を軽く蹴り、宙に浮かぶ。横島もそれに続く。

あたりに浮かぶ石をよけつつ進んでいく。
少し進むと石の量が減り、前進する速度が上がる。
順調な行程に見えたが・・・・

「どうやら、あの大きなクレーターのようでござるな。」
シロがそのあたりで最も巨大なクレーターを指差した瞬間だった。

横島の腹に激痛が走った。
(やばい!・・・超加速のせいで文珠の効果が!)
不意を突く痛みに集中が切れ、横島の加速が解けていく。
ここで超加速が切れたら、激痛の中再び加速するのは難しい。 
しかも痛みを消すために使う文珠の余裕はもうない。

「シ・ロ・・後・・・頼・・む・・」
加速が解けていく中、横島はその手に最後の文珠を二つ生み出すと・・・その動きを止めた。

「先生っ!」
シロは急に動きを止めた横島に驚くが、すぐに超加速が解けたということに気が付く。
あたりを見回し、この位置で横島に向かってくる石がないことを確認する。
横島の体を抱えて行きたかったが、クレーターの付近が安全とは限らない。確実に安全を確認できたこの場所に残す事にする。

決断をした後のシロの行動は迅速だった。
横島の手から文珠を取ると、それに『増』『幅』と込め、目標のクレーターに向かう。
クレーターの上空まで来ると、その中心の最も深い部分に「悪意」の流れが終結しているのを確認する。
接近すべきかとも思ったが、増幅された浄化作用に巻き込まれたらどんな事になるか予想もつかない。
文珠に念を込め、クレーター中心部に向かって投げつける。
文珠は一直線にそこへ向かっていき・・・・僅かな発動の光を漏らした。

文珠の光が収まると、まるでそれを引き継ぐかのようにクレーターの中心から光が立ち昇る。
その青白い光が天高く昇ったかと思うと、つぎの瞬間、細かく分かれた光が網目状に空間中に広がった。
異界空間の中の空が、まるでオーロラに覆われたかのように輝く。

超加速の中だからこそ見える光景だ。普通なら一瞬の閃光にしか見えなかっただろう。
その音を立てずに展開していく光景にシロは見惚れる。

広がった光はしばらくするとまるで時間を巻き戻すかのようにクレーターの中心に収束していった。
光が収まった後、あたりに充満していた「悪意」は全て消え去っていた。


超加速が解けた横島にはそれは一瞬の事だった。
加速か解けた瞬間、辺りが光に包まれたと思うと全てが浄化されていた。

前方のクレーターの上空に、加速を解いたらしいシロの姿がいきなり現れる。
こちらに向かって手を振るシロに答えようとするが・・・
「!」
シロの横から何かがシロに向かって飛んでいく。

弾丸のように飛んでいくそれは、石だった。
「悪意」が消失したとはいえ、いったん加速した石は慣性の法則に従ってその運動を続ける。
「悪意」がこもっていないせいだろうか?シロは気付かない。

「―――!」
声をかけても間に合わないと判断した横島は、痛みをこらえて超加速に入る。
再び時の流れが遅くなる。
しかし、怪我の激痛のせいで加速が遅い。
さらに横島の目には、だんだん速くなっていく石の動きがはっきりと映っていた。

(加速が解けかかってる!・・・・間に合え!)
その思いが通じたのか、なんとか先にシロのところに到達する。
シロの体を抱きかかえその場を離れようとした瞬間、再び襲った激痛についに加速が解ける。

石の弾丸はシロを庇う横島の体に突き刺さった。


シロには何が起きたか理解できなかった。
横島の姿が消えたかと思うと、次の瞬間には横島が自分を抱きすくめていた。
しかも横島には加速がついていたため、そのまま体を引っ張られていく。
そして一塊になって、二人は隣のクレーターへと落ちて行った。

落下の中、シロが見たのは、胸を貫かれおびただしい量の血液を流す横島の姿だった。
「!?」
目の前の光景が信じられず、宙に浮く事も忘れ、落ちていく。

クレーターの中心部に落ちていく二人、普通ならば地面に激突するはずだったが・・・

その中心部にあったのは小さな泉だった。
地脈に到達したクレーター。その最深部から地脈エネルギーが漏れ出していた。
未浄化の物ではない、浄化されたばかりの最も純粋なエネルギーの泉・・・・・
そしてその中にある“何か”。

二人がそこに落ちた瞬間、その“何か”が一瞬輝き、二人の姿はその空間から掻き消えた。







・ 
紅い・・・・紅い世界だった。

紅い夕日が全てを紅く染めていた。

だがその紅く染まった世界の中で、シロの意識にあったのはたった一つの赤・・・・横島の胸から流れ出る鮮血だった。
傷口に残っていた石を取り出す。
それから分かったのは、横島が自分を庇った事と、横島の出血が致死量に近いという事だった。

「せんせい・・せんせい・・・・せんせい・・・・・せんせい・・・・・・」
呼びかけながら、必死で傷を舐めヒーリングをする。涙がポロポロとこぼれ落ちる。
傷は少しずつ治っていく、しかし流れ出た血液までは戻らない。
横島は失血死しかけていた。


横島の意識はまだあった。
ぼんやりとした意識の中で、自分が死にかけているというのが分かった時。
横島の心に浮かんだのは、恐怖や後悔でなく・・・・・既視感だった。

(前にも、自分が死んでいくのが分かった事があったっけ・・・・・)
それはいつだったか・・・・・
(確かシロがタマモと初めて会って・・・・・西条の捜査で勝負する事になって・・・・)
カミソリの霊刀に切られて・・・・・
(あの時はシロが死んじまったって思ってたんだよな・・・・)
心臓の鼓動が遅くなっていくのを感じて・・・・・
(あの後シロに抱きついちまったりして・・・・)

横島は思わず微笑を浮かべた・・・・つもりだったが、それはわずかに顔を歪ませただけだった。

(あの時は助かったけど、今度はだめみたいだな・・・・・・・)
シロが傷を舐めているのが見えるが、その一方であの時と同じように心臓の鼓動が遅くなっていくのを感じる。
(シロ・・・全部話すって約束したのに、守れそうにない・・・ごめん・・・)

「シロ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん・・・」
それを口に出して伝えようとしたが、口からはゴポリと血が溢れ、言葉が途切れる。

それでも主旨は伝えられた事に僅かな満足を感じると、シロの頭を撫でようと手を伸ばす。
手がシロの顔まで上がった所で、横島は意識を失った。


「―――!」
横島の手が自分の顔まで上がり、頬を撫でる様にして地に落ちた事にシロは言葉にならない悲鳴を上げる。
瞳を閉じ、口から血を流し、胸から血を溢れさせ、そして今その手から力が抜けた横島の姿。
それはシロに「死」を連想させるのに十分な光景だった。

「やだ・・・・いやでござるよ・・・・・せんせいっ!・・・・・せんせいっ!」
シロは懸命に傷を舐め続けるが、横島の鼓動は弱まっていき・・・・・・・・・途絶えた。

「せんせいっ!・・・死んじゃやだ・・・・・・お願い・・・・お願いだからっ!」
 
泣きながら「せんせい・・・せんせい・・・」と繰り返すシロ。
その時、後ろに気配を感じシロは反射的に振り返る。

そこには一人の女性が宙に浮いていた。
年は二十歳といった所か、オレンジ、いや夕焼け色というべきかもしれない、の上着とその下に白い、スカートと一体の服。
背中まで伸ばした黒髪と、白い服が夕日の中風になびいていた。

ふわりと地に降り立つ。
シロは強い霊波を感じた。人間ではないのかもしれない。
だがそんな事はシロにはどうもよかった。
横島を助けてくれるならば、それが悪魔だろうと、自分の命と引き換えにだろうと構わなかった。

「お願いっ!先生を助けてっ!」
涙でくしゃくしゃになった顔を向けて、シロは懇願した。
女性は血まみれの横島に気付くと驚愕の表情を浮かべたが、切迫した事態に気付き、駆け寄ると懐から何か取り出した。

それは文珠だった。



心地よい温かさと共に横島はうっすらと目を開けた。
飛び込んできたのはシロの顔だった。 

「せんせーーーーーーーーーーーー!」
横島に飛びつき顔を舐め回す。
「助かったのか・・・・」
そういって自分の上にのしかかるシロの頭を優しく撫でてやる。
「ひっく・・・えぐっ・・・・・拙者・・・先生が死んじゃったらどうしようかと・・・・」
嗚咽をあげながら涙を流すシロの頭を撫で続けていた横島だったが、急にその顔がこわばる。
死にかけていたのに、気付いたら無事で・・・その展開に思い当たる事があった。

「シロっ!」
「わっ!?」
急に体を起こして肩を掴んだ横島に、シロは声を上げる。
「俺の命を救うのに危ない事・・・お前の命を危なくするような真似してないだろうなっ!」
「えっ?えっ?しっ、してないでござるよ?」
「本当だろうなっ!嘘ついたら承知しないぞっ!」
横島のあまりの剣幕に、シロの瞳に涙が浮かぶ。

「こらっ!可愛い恋人をいじめちゃだめよ。」
聞こえてきたいたずらっぽい声のほうに顔を向け・・・・・・横島の顔が凍りつく。

「先生っ!この御方が助けて下さったんでござるよ!」
シロの言葉も横島には届いていなかった。

横島はまだ血の味の残る喉から、声を絞り出す。



「ル・・シ・・・・・オ・・・ラ・・・」

やっと出た声は酷くかすれていた。

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