ザ・グレート・展開予測ショー

白い背中


投稿者名:りおん
投稿日時:(02/11/14)


原案:Maria's Crisisさん 本文:りおん

〜はじめに〜

Maria's Crisisさんとの合作です。拙い文かとは思いますが、一つ最後まで読んでいただければいいなぁ、と。それでは、また後で。





〜序〜




窓から差し込む淡い光に、その背中は雪のように白く照らされて………


彼の、横島の隣で一定のリズムにしたがって微かに動いている。

触れてみたいけれども……起こしてしまうかも知れない。


いや……むしろ今自分は現実にいるのか………

夢の中なのかも知れない……


夢と現実の狭間………


頭が痛い……二日酔いか。

周りにあるのは、ずらっと並んだブランデーの空き瓶……かなり飲んだようだ。


そのまま目を移して時計を見る。

午前5時……夜明けだ。


空がうっすらと明るくなっていく………



再び隣の背中を眺める……

窓から差し込む淡い光に……

その背中は雪のように白く照らされて………


夢の中の様な感覚………


今を……、この今が現実であるということを確かめるように、彼はそっとつぶやいた。









「あの……どちらさまでしょうか………?」







〜白い背中〜




(落ち着け、冷静に………とりあえず今の状況を把握しよう)


まず……

(この空いた瓶とがんがんする頭……つまりは酒を飲んでいたということ……そして飲んでいた相手はおそらく………)

隣の背中を見つめる。

一瞬、その真っ白い背中に吸い込まれそうになる。

再び夢の中へ戻りそうになるその頭を左右に振って、もう一度考える。


(つまり、この状況は………いやそんな馬鹿な……しかし、俺という男が他に何をするのか)


何をどう考えても、全てはある一つの結論に向かってゆく。


(やはりそういうことなのか?だとしたら………)

横島が目をやったのは時計……

「やばい………」


時間は5時10分か11分……後20分かそこら、つまり5時30分になると……

(シロが来る………)

散歩の時間だ。
シロは一分一秒の狂いも無く、5時30分きっかりにこの部屋に飛び込んでくる。


「落ち着け……冷静に……」


しかし考えずにはいられない。
この状況をシロが見たら、どう反応するのか………。


(考えるまでもない、120%の確率で事務所のみんなに知られてしまう……。)

その確率120%とは、イコール自分の死への直結率である。


「俺って、いつからこんなに数学が得意になってしまったんだ?」

今ならアインシュタインの時空方程式を暗算で解けそうな気がする。十元連立方程式、しかも非線形偏微分方程式だ。

(………………なんだそりゃ?さっぱり分からんっつーの。ていうか分かるわけないっつーの。)


「いや、むしろその場で切り捨てられて心中とか……」



『先生を殺して、拙者も死ぬでござるーーーーーーー!!』

『待て!シロ、待ってくれ!!誤解だ、誤解なんだーー!!』



冷静どころか、とっくにパニック状態にある彼であった。


またちらと、隣の背中に目をやる。二日酔いのせいか……また頭痛がする。

(ちっ!頭が痛え……そもそも誰なんだ?いったい俺は誰と酒を飲んで、どうして一緒の布団に寝ていたんだ?)


確かめたい………そう思った。

(起こして何があったのか聞いてみたい。もしかすると……)


実は何も起こっていなくて、まだ大人の階段を上っていないという可能性も………


(低い?!限りなく低い確率だ!俺という奴がこういう状況で何もしないなどということがあろうか?!)


……実は結構あったり………いや、やっぱり無いか


(顔を見たい!誰なのか確かめたい!!でも………)

あるのは好奇心と……

(神様、もう少しだけ夢だと信じさせてください)


部屋の中に横島の虚ろな呟きが流れる。

「そうだこれは、夢だ、夢に違いない。だって夕べのことは何も覚えていないんだから。
だいたい何かあったと考えることだって早とちりみたいなもんじゃないか(ぶつぶつ)………」


と、その時



「ジリリリリリリリリリィィィィィィインンンンンン!!!!!!!!」

「うおわぁ?!!」




(しまった、目覚まし!)

時刻は5時20分。シロが来る10分前には起きていようと、セットしておいてあったのだ。


「くそっ!!」


横島は悪態をつきながら、急いで目覚ましを止めた。

(どうかこの背中が起き上がりませんように……まだ夢の中にいたいんです)

実際、まだ対策を何も考えていない。さっきの目覚ましの音で二日酔いの頭痛もひどくなった。


しかし、盛大に鳴り響いた目覚ましのベルの音は、横島を夢の中へ逃がすことはしなかった。

「……ん………」

(っ!?……起きるのか?……それとも………)


まだ眠ったままなのか、という横島の淡い期待はもろくも崩れ去った。

「んん……ん……」

「その背中」はゆっくりと早朝の、穏やかな光の中に起き上がった。
二日酔いのせいだろうか、頭を抑えている。

その白い肌が、雪のように輝く。




もう横島には自分の運命を変える手立ては無かった。

「もう、何をするにしても手遅れだもんなあ……」

横島はもうすでに言い訳を始めていた。



(ナルニアの父さん、母さん……、先逝く不孝をお許しください……。

それと、全国1万5千人の「横島忠夫ファンクラブ」のみんな。
ちょっとフライングして、大人になっちゃいました。)


彼は涙を流しながらよろよろと立ち上がると、部屋の電気をつける。

(ああ、思えば十七年間この日を待ち望んでいたとはいえ、いざそうなってみると、なんだか………しかもなんも憶えてないし、俺。
ああ、戻りたい。もう一度あの頃に………自由でいられたあの頃に。)



「あ………」

突然ついた電気の眩しさに驚いたらしいその声の方を見れば、
そこには眩しそうに細めた綺麗な瞳と、白い……雪のように白い肌があった。

「横島さん………おはようございます……」


横島の動きが止まった……たっぷり十秒間。
そして十秒後………横島は布団の上に崩れ落ちた。

「…横島さん?どうしたんです?」

「いや……まあ……ああ………」

腰が抜けたのか、脱力している横島は、口の方も動かそうとしてもうまく動かないようだ。

「はい?あの、横島さん?……大丈夫ですか?」

「うん………」

心配そうな瞳を尻目に、横島は今だ放心状態から抜けきれていない。

(そうか……誰なのかと思ってたら………思い出した、全部……なんてこった………)


そんな横島がよほど心配らしい。再び声がかかる。

「あの…、本当に大丈夫ですか?横島さん。」


「ああ、大丈夫……大丈夫だよ………」



































「………………ピート。」


「やっと僕の名前を呼んでくれましたね。」嬉しそうにピートが言う。


横島の方はと言うと、ピートの名前を口に出せたのが良かったのか、やっと冷静になり始めたようだ。

(ああ、そうだ。こいつと…、ピートとずっと飲んでて……いつの間にか眠ってたのか………)


「横島さん、すごいからんで来るし、愚痴ばかり聞かされてたんですよ。」

「へ……え?何て愚痴ってた…俺?」

意識が現実に戻ってきた横島が聞き返す。


「『…ピート。…俺に女が寄りつかないのはな、全部お前のせいだ。お前のせいで、俺に女が回って来ないんだー!!』って……」


そう言ってピートは笑顔を浮かべたが、すぐに顔をしかめて頭を押さえた。


「なんだ?ピート、お前も二日酔いか?」

「ええ、僕もちょっと調子にのって、飲み過ぎちゃいましたよ」

「へえ、バンパイア・ハーフも二日酔いになるのか〜!」

そう言って明るい笑い声が横島の部屋にこだまする。


横島の笑顔は爽やかそのものであった。


(ちょっとだけ残念な気もするが、まあ、これでよかったんだ。もう少しだけ…子どものままでいられるから………
ありがとうございます、神様、仏様、ピーターパン様。)


それからもう一つ………

(これで殺されずに済む…明日もまた今日のような清清しい朝を迎えられるかも知れない。
ああ、人生って素晴らしいなあ…これならシロが見ても、なんとも思わないだろう。)

と横島は考えて、ほっと安堵のため息をつく。




その時、部屋のドアがあわただしく開かれた。
ちょうど時刻は5時30分。

「よっこしませんせえ〜〜〜♪おはようでござるっっっ!!!」

シロは部屋に飛び込むと、そのまま横島に向かって………

となるはずが、ピタリと足を止める。


「おう!おはよう、シロ」

「おはよう、シロちゃん」


横島とピートがシロに声をかける………が


シロの目には『男の子二人』が、『一つの布団の中に半裸で』、『仲良さそうに微笑みあっている』のが映っていた。



「せ……せんせ………」うまく声になっていない。



「ん?どうした、シロ?」

「どうしたの?シロちゃん?」

震えながら立ち尽くすシロを見て、心配そうな『布団の中の男の子二人』。


「せん……せんせいは………」

ぎゅっと拳を握り締めると、ようやくシロの口から声が出た。






「信じてたのにーーーーーーーー!!!!!!!!」



そう叫ぶと、シロは泣きながら勢いよく外へ出て行ってしまった。



「はあ?」


横島は10秒間考えた。

最初の5秒間は頭の中が真っ白。

残りの5秒間でその言葉の意味を理解した



「待て!シロ、待ってくれ!!誤解だ、誤解なんだーーーーーーーーーー!!!!!!!」



横島は転びそうになりながら着替えると、チャリを引っつかみ、大急ぎでシロの後を追って、部屋を飛び出した。



そんな横島の背中を見やりながら、ピートはふと気づいた。


(横島さん……僕の服着てる………)



ピートの顔がほのかに赤く染まったのは、朝焼けのせいだったのだろうか………?




(今はその背中を見ることしかできないけれど、いつかきっと………)




とりあえずピートは、そこらにあった横島の服を適当に着ると、彼らの後を追いかけて行った。






Fin.








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