ザ・グレート・展開予測ショー

忘れない


投稿者名:veld
投稿日時:(02/11/12)



「どうして、そんな悲しい顔をしてるの?」

 事務所の中、俺が何となくぼんやりとしていると、ソファーの上で暇そうに雑誌を見ていたタマモが唐突に聞いてきた。ずいぶん唐突だな、と思って言ってみると、彼女は「ずっとそう思っていた」と答えた。

 ずっと・・・?俺は彼女と出会ってからの自分の行動を振り返ってみた・・・が、別にそんな顔をした覚えもなかったので、答えようもなかった。そういう風に思われる心当たりはない・・・わけじゃなかったが。それにしても、彼女に気づかれるはずのないことだった。とりあえずごまかしてみる。
「生活が苦しいんでな・・・。今月は特に、いや、いつも苦しいんだが」
 タマモはどうも釈然としない顔をしていたが、それ以上聞こうとはしなかった。それほど興味のないことだったのか、それとも、また目を通し始めたその雑誌の内容が面白かったのかどうかはわからなかったが。

 どうしようもなく、無力な自分が悔しくて・・・幾度となく我が身を傷つけた。心も体も、痛みを欲してる。―――この心の中にある喪失感を埋めるためだけ・・・ごまかすことのできるだけの痛みを。
 空っぽになった俺自身を埋めるものなどあるはずはないと言うことくらい知ってる。でも、しょうがなかった。あいつのことを思い出すだけで、やりきれなくて、どうしようもなくて、心がざわめき、自己嫌悪に陥ってしまう。
 救えなかった・・・、いや、それどころか、俺はあいつを殺してしまった。俺が、殺した。俺が・・・

 忘れたほうがいい。そう言った人がいた。そう言ったその人の顔は、とても悲しげで、苦しそうで、でも、言わなければならないという使命感のような、義務感のようなものが見えて・・・。俺はその時ようやく気づいた。
 俺が、こんな俺でいることはみんなにとっては苦痛なのだと。俺がこんな姿を見せていたら、みんなに気を遣わせてしまうことになる。迷惑はかけたくなかった。GSの仕事には危険が付きまとう。ほんの些細な油断が、命に関わることもあるのだ。前のような自分に戻ろう。忘れることは出来なくても、忘れた振りをすることはできる。きっと・・・できる。

 「横島さん!」「横島君!」
 俺は手の中の文殊に「忘」の文字を入れた。
 「ルシオラ・・・ごめんな」
 発動した文殊の光が俺を包み込む。そして・・・

 「なあ、タマモ・・・?俺っていつからそんな風に見えたんだ?」
 ん・・・?雑誌から俺の方を見るタイムラグが妙に早かったのが気になったが、そんなことはどうでもいいことだった。タマモは俺のほうを見、何故か顔を紅潮させながら言った。
 「・・・ん、そうね・・・、横島と初めてあった時からそういう風には見えたよ。うん」
 
 「そっか」

「うん」

 妖狐とはいえ、初対面のタマモにすら気付かれていた。と言うことは、事務所のみんなはとっくの昔に気付いていただろう。と、言うよりも無理があったのかもしれない。あいつの事を忘れたふりをしようだなんて。
 今も続く胸を突く痛みの中に、彼女の名を求める俺がいる。あいつがいた、ということを誰かに証明して欲しい俺がいる。でも、それはまだ、早すぎる。今の俺にはまだ辛すぎる。それでも・・・

 「タマモ」

 「ん?」

 「蛍・・・見るか?」

 「?」

 「いつも、持ってんだ」

 「・・・?」

 「俺の・・・宝物なんだ」

 

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