ザ・グレート・展開予測ショー

私の人形は良い人形:後日談(後編)


投稿者名:矢塚
投稿日時:(02/11/12)

このお話は、前作「私の人形は良い人形:後日談」の後編です。

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 最初の2日間は交代で休憩しつつ、人形を見張る。とりたてて異変は起きなかった。
 しかし、問題は3日めだ。人形もあせり始めるだろう、2人の気が抜けた一瞬を虎視眈々と狙っているに違いない。二人とも緊張しつつ、見張りを続けた。
 だがしかし、3日目も何も起きなかった。
 そして、人形のほうにも異変は無く相変わらず不気味な霊波を漂わせていた。
「これは、まずいな。どうやら、前回の除霊で人形たちも知恵をつけたらしい。極限まで霊気の消費をおさえて、持久戦に持ち込むつもりだ。」
「ええ?そんな!食料なんて予備で1日分しか持ってないのに?あー、美神さんのうそつきー!」
 いきなり、パニクる横島。
「落ち着きたまえ!横島君。食料なら教会に2,3日の貯えはある。問題無い。」
「うう、しかし・・・」
 言募る横島を、なだめつつ唐巣は思う。横島君は精神的にもろいところがある、除霊能力では比類ないものを持っているが、これでは実戦で命に関わる。美神君はその辺を見越して彼の正式なライセンス発行に待ったをかけているんだろうか?まあ、それだけが理由ではないだろうが、と。
「ともかく、GSたる者、冷静にね。」
 唐巣の教訓めいた一言に、横島もこくりと頷いた。

 教会内での生活には不自由はなかった。人形の除霊用にあらかじめ全ての椅子や机を運び出し、寝袋からテレビまで持ち込んでいたからだ。
 しかし、5日目を無事に終えたあたりから精神的にまいってきていた。ただ何事も起きないように見張るという行為は、予想以上に苦痛であった。期限が3日なら3日と決まっていれば、あと少しあと少しと指折り数えて待てばいい。
 だが、先が見えないのだ。恐らく長くとも1週間だろうが、期限が不確定なことほど精神にはこたえた。そのうえ、広いとはいえ限定された空間での男二人の生活である、楽しいことなど何一つなかった。
 互いの息遣いすら聞こえそうな静寂が度々おとずれ、それを破った物音に二人が過敏に反応するという繰り返し。
 7日目はもう、唐巣ですら気が狂いそうであった。いや、すでに手遅れかもしれなかった。
 唐巣は人形に向かい、なにやら聖書の一節を憑かれたように繰り返している。
 横島は、この7日間で髪の毛がアオカビのように頭に生えていた。膝を抱え、半笑いの表情でぶつぶつ呟きながらテレビを見ている。画面がまともに見えているのか怪しい。
 画面に女性のナレーションがはいる。
「見てください!この無残にも、枯れ果てた土地を。砂漠化が進み、森は無計画な伐採によりいたるところに穴が開いたように大地が見えています。まるでそう、人間というストレスにより地球が円形脱毛症になって・・・」
 突然横島は、背後に気配を感じ振り返る。そこには唐巣が幽鬼のように、佇んでいた。
「横島君、何か・・・何かとっても不快だよ、その番組・・・」
 尋常でない物言いに横島はあわててチャンネルを変えるが、はっと我に返る。
「神父!人形の見張り!!」
 見れば、人形がいない。最後のチャンスに賭けたようだ。
 悲しいかな、唐巣は食入る様にチャンネルの変わった画面を凝視し耳に入ってない。
「ああ、だめじゃー。」
 パニックに陥る寸前、正常であったころの唐巣の台詞が頭をよぎる。
『GSたる者冷静に。』
 横島の目に、決意の光が満ちる。
「よーし、やったる!俺もGSのはしくれじゃー!」
 幸いにして、余分なものを片付けておいた為見通しはいい。隠れることの出来る場所は限られている。ゴミ袋の陰か?寝袋の陰か?それとも・・・
 全感覚を開放し、周囲を警戒する横島。つきっぱなしのテレビの音が耳に流れてくる。。
「・・・このようにハゲワシは、動物の肉をついばむ際に頭まで突っ込むので、その邪魔にならないように頭の毛が無いのです。けっして、人間のように・・・」
 変えたチャンネルは動物番組だったようだ。タイミングの悪いナレーションに横島が振り返ると、そこには殺気に満ちた唐巣がこちらを見ている。
「しっ、神父。あくまでも、あの猛禽類が生存競争の中で手に入れた進化の結果であって・・・」
 巧妙に、刺激のある台詞を避ける横島だが手遅れだった。
「・・・私が好き好んで、生きる為に髪の毛をぬいているとでも?それとも、この頭は・・・」
 唐巣は言いながら、その眼の端にすばやく移動する人形を捉えた。
「ふっ、ふふふっ、・・・土は土に!人形は人形に還せ!・・・アーメン!!」
 とめる暇もあればこそ、唐巣の最大級の霊波攻撃を受けた人形はみごと木っ端微塵に砕け散っていた。
「あ、ああ!なんて事を・・・」
 髪が戻らなかったことに呆然とする横島。あのころの状態に戻るまで、どれだけの歳月がかかるのだろう?
 ストレス発散も兼ねた攻撃で、我に返った唐巣が申し訳なさそうに声をかける。
「すまない、横島君・・・私としたことが・・・」
 唐巣を睨み、皮肉の一つでも言おうと思った横島は神の皮肉を目の当たりにする。
 唐巣の頭が、ふっさふさなのだ。キューティクルのききまくったつやつやの髪が、肩までたれていた。
 どうやら、止めを刺した唐巣に霊力が吸収されたらしい。
「あ、ああ、俺の髪がー・・・」
 横島は嘆き、崩れ落ちた。人形の破損代は唐巣のせいにするとしても、髪の毛はどうにもならなかった。まったく無駄な7日間を費やしてしまったのだった。
 この日、横島は神を呪った。

 その後、唐巣のもとには美神から莫大な損害賠償請求書がきたが、それ以来とても機嫌のいい唐巣は除霊作業を破竹の勢いでこなし、たった3日で返済してしまったという。

                 おわり

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