ザ・グレート・展開予測ショー

私の人形は良い人形:後日談(前編)


投稿者名:矢塚
投稿日時:(02/11/11)

このお話は、単行本27巻の「私の人形は良い人形!!」の展開です。

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 その日、ピートは腹が裂けるほどの笑いを必死に堪えていた。
 故郷から出てきて、これほど可笑しい事などなかった。目の前の人物を見るまでは。
「くっ、よ、横島さん、ぷぷ、そっそれは・・・ふへっ、災難でしたねえ、ぷっ・・・」
「・・・お前という奴は。」
 ピートのリアクションに全てを失った者の声で横島が言うが、彼の頭はぴっかぴかに磨きこまれ宝石のような光沢を持つスキンヘッドであった。笑うなと言うのが無理である。
 そう、呪いのひな人形の除霊に失敗した代償であった。
「そっ、それにしても・・・うひっ、先生に、ふふっ、なんの用です。ぷっ。」
「もうええ、笑いたきゃ笑え・・・唐巣神父なら育毛剤でも持ってんじゃないかって思ったんだよ。買いにいったが俺の時給じゃあ無理だったんだ。」
 本当に、いろいろな意味で苦労が忍ばれる横島の台詞。
「やあ、お待たせ横島クン・・・ぶっ、くっ、くくっ、あははははははははははははは。」
 遅れて現れた唐巣は大爆笑してしまい、それにつられたピートの爆発的笑いが教会内を満たした。
 この教会が、これほどの笑いに包まれたのはいつ以来だろう?

「やあ済まなかったね。あんな不意打ちを喰らうとは思わなかったから。」
 ひとしきり笑い終えた唐巣が,言葉を続ける。それでも、いまだに横島を正視できない。ピートのほうは、死体のように転がって体を痙攣させていた。
「まあ、事情は分ったが、残念ながら僕はそういうものには頼っていないのだよ。」
 唐巣の言葉に、疑いのこもった眼差しと口調で横島がしつこく聞く。
「ほんとっすか?ほんとにー?」
「本当です。・・・その視線がかなり気になるね。」
 横島が上目使いに唐巣の頭を盗み見る。かなり砂漠化が進んでおり一刻も早い国際協力の下、緑地化計画を実行しなければいけない唐巣の頭を。
 その視線と、横島の物言いにむきになり唐巣が続ける。
「髪の毛など無くとも、人は生きてゆけるし。抜け毛は自然の摂理だよ。例え、それに多少の人為的要因が絡んでいたとしてもだ。」
 美神さんの事だなと思う横島であり、やはりそれなりに気にしてんだなとも思う。
「じゃあ、神父は髪の毛が抜けても執着しないと?」
「もちろんだとも。」
「ほんとにー?」
「ほんとの本当です!」
 にまりと、笑う横島。師匠の美神にかなり毒された笑い方だ。
「じゃあ、除霊のリベンジに付き合ってください。断りませんよね?し・ん・ぷ?」
「なっ!なぜに?」
「いやー、霊力ごと髪の毛を持ってかれたんですけど、どうやら除霊に成功すれば元に戻るそうなんすよ。霊力を貯えた人形は前よりパワフルなんで応援が欲しかったんすけど、万が一失敗したら大変じゃあないですか?いやー髪の毛に執着の無い神父がいてくれて助かったなー。」
 他人事のように笑う横島。
 唐巣はこのとき本当に後悔した。
 そう、この男は美神令子の押しも押されぬ直弟子だったのだ。ストレスによる抜け毛の8割を占める原因の彼女が手塩にかけている弟子なのだ。唐巣はこの男の将来に初めて畏怖を覚えた。
 しかし、今更後にも引けない。ここで引いたら、髪の毛に執着している小さい男に見られてしまう。一応、年長者としてのプライドが頭をもたげる。
「い、いいでしょう。失敗するとは限りませんし・・・」
 この日唐巣は、久しぶりに神の存在を疑った。

 教会という場所は、横島のイカ臭い部屋よりも人形の除霊に向いていた。そこの住人が熱心な神父で、GSならなおさらだ。
 例の人形を運び込み、なぜか必死になって唐巣が清めに清めた教会に結界をはる。ピートはやはりと言うべきか、付き合わなかった。
「ところで横島君。人形の除霊は3日3晩でいいのだね?」
「そうっす。いかに霊力を貯えたとはいえ、2人がかりなら通常の方法でいいはずだと美神さんが言ってましたから。」
 横島の台詞に、やはり彼女が今回のシナリオを書いたのだと確信する。ああ、いつもいつも、私にしわ寄せがくるんだと唐巣が心の中で嘆く。

 ここに、横島と唐巣の男の意地をかけた除霊が始まった。

                つづく

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