ザ・グレート・展開予測ショー

#当選者3人SS! 〜システム・ザ・クローズ〜


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/11/ 4)

――何故、こんなことになったのだろう?
少し考えてみた。
以前、お化け屋敷を造るのに使った結界。
人間を無力化させるだけではなく、妖怪を一部変調させる。
巧く調整すれば、低価格で心霊現象による被害を相当緩和できる新種の結界になるだろう。
そのテストケースに、霊能者と妖怪、両者のサンプルを閉じ込めて最終調整を行う。
霊能者は公募できるとして、妖怪は、そんじょそこらで調達できたものではない。
彼女らに白羽の矢が立つことは当然の成り行きだったろう。問題はそこではなかった。
「なんでこんなに真っ暗でござる?」
彼女は、隣りの相棒に尋ねてみた。
姿も匂いもないので隣りというのはあてずっぽうだったが、近くにはいたはずである。
「1、停電。2、能力の一部として視覚が封印されてる。どっちでもいいけど」
やたら広い空間なのだろう。答える相棒の声は反響しまくってあらゆる方向から聞こえた。
「それはさっき聞いたでござる」
「そうでしょうね。さっきも言った」
確かその時には、嗅覚が完全に封印されてることも確認したはずである。
「…………はなすことがなにもないでござるなぁ」
なによりも耐え難い苦痛は、退屈だった。
目が見えない気分というのは、退屈だと知る。
彼女の父も、面白いことは半分しかなかったのだろうか?
「お腹空いた」
相棒は淡白にそう告げる。
「そう言えば、約束の時間過ぎてないか?」
「かもね。時計が見えれば確認できるんだけど」
見えないからこうして困っているというのが、純然たる事実。
「じゃあ結局?」
「そ。迎えを待ちましょ」
「やでござるよー。このままこうして座り込んでたら、お尻から根が生えそうでござる」
「あっそ。勝手に走り回ってそこら辺におでこぶっつけまくって死ねば?止めないわよ」
「あんだと!?」
「タダでさえ人が苛々してんのに、ちょろちょろと邪魔臭いのよ。消えてくれる?」
「このアホ狐!お前なんかと二人っきりで、苛々するのはこっちでござる」
暗闇に殴りかかる。当たり前の話だが、相手に簡単に当たってくれはしない。
「無駄なエネルギー使ってんじゃないわよ」
純粋な暗闇で、純粋に音だけで全てを知覚する。純粋に言葉だけで会話する。
その声音には、侮蔑の気持ちは含まれていない。
不幸は、生半可に付き合いが長かった彼女に相棒の薄ら笑いが想像で補完できたことだ。
「お前の言い方はいちいち腹がたつでござる」
その時、突然人の声のようなものが聞こえた気がした。
「迎えでござるか……?」
「歓迎できない遭遇も有り得るわよ。
あたし達、ここに入る時他の参加者の顔確認してないもの。
向こうが憶えててくれてる可能性なんか全然ないわ。
トラブルが発生した結界内。周囲の様子がまるで解らない。しかも妖怪と出会う。
あたしが人間なら、問答無用で攻撃してみると思う」
人間からすれば、妖怪がこのような悪質な悪戯の現場にいれば真っ先に疑われるべきだ。
「お前はいっつも不吉なことしか言わないでござる。怖いのか?」
「そりゃあね」
「え?」
てっきり、強がりが返ってくるのかと思っていたが、この答えはあまりに意外だった。
「人間には群れがあって武器があって掟があって思想がある。
あたしは独りが好きだし、武器を持つ意味が無いし、ルールに縛られるのは嫌い。
なにか目指すべき人生のテーマもしらない。人間みたいに弱くもない。
自分と違うものには疎まれる。だから――自分と違うものは嫌い…怖い……」
「タマモ……」
「銃で撃たれたこと、あるでしょ。あたしも撃たれた。森で追われて。
血がいっぱい出て、傷穴が熱くて痺れてなにも考えられなかったけど、それでも走った。
よくわからなかった。なんで熱いのか。なんで逃げるのか」
そして、短い沈黙が落ちた。正確には、まだ人の声は聞こえていたが。
「でも、それはもう許した。――違う。今でも憎んでる。けど、復讐は違う。
…本当はなにも違わないかもしれない。仕返ししたい気持ちはまだ燻ってる。
だけど、もう……許したんだ。だから」
――こんなに理が整わないことを言う相棒だっただろうか?
多分、そうなのだろうな。彼女は思う。
「だからまた撃たれるのは嫌だ。あたしは、ヒトを――怖れてる」
「そう……か。拙者は…本来なら、拙者も怯えるところかも知れぬでござるな」
「あんたはバカだからでしょ」
そういうことか。相棒には、解らない者を怖れないことが愚かしく思えたのか。
「わかったでござる。そういうことなら、バカの拙者が声の主を確かめてくる」
「気持ち悪いわね。助けないわよ」
「助けは要らん。拙者はもののふでござるからな」
胸を張って見せる。いや、見えはしなかったろうが。闇の中の自分は、自分しか見えない。
「ただ、信頼が欲しい。拙者が戻るまで、動くなよ」
「……確かに、あたしのソレはお安くないけど、そこまでするとはね」
空気が流れたのが解った。相棒が肩をすくめた光景が目に浮かぶ。

ガンッ
あまり高くない鼻をこれ以上低くされたらたまらない。
そんな風に考えながら、彼は今自分の顔面に特攻してきた壁を忌々しげに殴った。
人の声はなおも深淵の奥から聞こえてくる。
「停電たぁツいてねェなぁ……あの声の主が人間であることを祈るぜ。…待てよ」
この停電が、人為的事故だったとしたら、どうだろう?この声の主が邪悪な人物だったら?
普通は有り得ない。それに、普通なら歓迎できない事態だ。
しかし、逆転の発想。明確な原因があるとするなら、取り除けば解決するということ。
むしろこのトラブルに首謀者が存在するほうが、復旧の見通しは容易につくのだ。
それに、この空間には普通とは異なる存在――妖怪が蠢いている。
人間をむやみやたらと張り飛ばして「お前が犯人か?」とやるのは乱暴だろう。
しかし妖怪をぶちのめすことになにか問題があるだろうか?罪が有ろうと無かろうと。
いや、知り合いで雑種の吸血鬼はイタリア産の甘いマスクで絶えず女性を誘惑する。
人間種の繁殖を阻害する純然たる悪徳と主張することになんの無理がある?
妖怪は生き長らえているだけで、十二分に人類を破滅させ得る絶対脅威なのだ!
そしてこの暗闇では、出くわした相手が人間か妖怪か確認するのは一苦労だ。
――言うまでもなく彼は、ストレスの八つ当たりしたあとの言い訳を考えている。
ちょうどその時、前方から足音が聞こえた。
躊躇する風もなく、彼は霊波砲を撃ちこむ。連続で。
ドドドドドンドドンッ
それでも足音は、獰猛な野犬を彷彿とさせる勢いで迫る。
決して狙撃には自信がない。だから逆に、数発撃って外れるという器用な真似はできない。
「受けるか避けるかしやがったか?おもしれーじゃねーかッ!!」
その時には彼の全身は、緋色の霊気に覆われて、魔獣へとその特性を変質させる。
敵が迫った。拳が届く距離での戦闘なら、彼には尋常ならざる自負がある。
彼が地を蹴った。狙いは勘で。人間、暗闇でも人が近くにいれば適当な位置はわかる。
低い軌道のジャンプで全身のばねを集約し、その反動の全てを右の拳の振りに用いる。
ゴギャスッ
「――ぅくッ!?」
小さなうめきが、身体のサイズのわりに少年のようであったが、妖怪ならば納得がいく。
なんにせよ、敵の顔面を正確に殴り飛ばせたことを確認できただけ、御の字である。
が。
ジャウッ
「なにッ!?」
今度は彼がうめいた。自分を包む鎧をあっさり抜く、敵の攻撃。
彼の頬から鮮血が零れた。自分の油断があったとはいえ、反応は完全に遅れていた。
敵の視界が十分なら今の一撃は勝敗を分かつそれであったところだろう。
「…のッ!!」
ゴガッ、ドズゴッ
彼は軽快なフットワークで右側から敵に近づき、側面から両拳を中段にねじ込んだ。
ズシャッ
「…っめんじゃねェ!!」
ズドッ
敵の再び迫る反撃は予期していた彼が、鋭い前蹴りを放ってその挙動を封じた。

悔しい。脇腹が痛い。肋骨が三本ばかり砕けてるようだった。
それはいい。自分の生命力はちょっとバカにならない。ほっとけばじき治る。
顔面が熱い。鼻のほうは砕けていないようだが、頬骨というのは骨折するものだろうか。
あまり聞いたことがないので何とも言えないが。この痛さなら折れてても驚かない。
悔しい。情けない。パワー負けは決してしていない。いや、むしろ一撃ではこちらが上。
ならスピードか。確かにこの相手は速い。疾くて、躊躇いがない。闘い慣れた動き。
しかしこちらの反応も決して相手を追従できていないわけではない。
悔しい。相棒が、あんなにも怯えているのに。それでも人は、自分を襲う。
許せないではないか。あんなにも、人は優しいのに。
「貴様アァァァアァァァァァッ!!」
我知らず、吼えていた。吼えるのは弱い犬だ。犬ではないが、なるほど、弱い。
自分がいかに尽くしても、優しさだけは、求めること叶わない。
教えてくれたのは、貧相な風体の犬だったように思う。
そこら中の結界システムが、退魔の声に従い、次々と自壊していった。

――そして電灯が復旧した。
考えてみれば単純な設計ミスである。結界は、大型のものだと電気と密接に関係する。
結界の基幹部分が配電盤の近くにあったため、莫大な電力を吸い上げていたのだった。

「お。明かりが点いた」
伊達雪之丞は、さしたる感動もなく呟いた。助かることに違いはないのだが。
ちょうど愉しい暇潰しを見つけて、今からという時になってこれでは、いかにも間が悪い。
「この野郎ーッ!」
シロは、周囲の変化を歯牙にもかけず、雪之丞に殴りかかる。
「女だったのか…まぁ、一度火がついたら決着はつけねーと、な」
雪之丞も駆け、二人がまさしく激突するという時。
ポッ
それは、小さな火だった。シロの左足が、踏み出してちょうど当たる。
「うあっち!?」
「げ。」
思わず後ずさるシロの所為で、雪之丞の拳は虚空を打ってそのまま姿勢を崩す。
――反応は、決して負けていない。
隙を見たシロの霊波刀が、獲物を目前にした歓喜で震えた。
「そ……まさか栄光の手か!?」
ズブシュアッ
雪之丞が叫ぶ瞬間、彼の胸部に光の束が押し当てられた。
「先…生の、知り合い?」
どうりで、真っ向から闘っても敵わないはずである。
「ところであたし、約束破ってウロチョロしてたけど、今ので貸し借り無しで良いわよね?」

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