ザ・グレート・展開予測ショー

父の思いと父への思い!(後編)


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/10/ 4)

さきほどまで戦いのため霊波が渦巻いていた境内に再び静けさが戻る。

シロに取り憑いていた”思い”達を祓った後、
横島はすぐにシロを抱き起こし、『蘇』『生』の文字を込めた文珠を発動させる。
青ざめていたシロの顔に赤みが差し、みるみるうちに生気が蘇っていく。
意識が戻り始めたシロが口を僅かに動かすが声にならない、どうやら横島の名を呼ぼうとしている様だ。
「まだ喋るな、お前危ないところだったんだぞ?」
そういって横島は治療を続ける。 
ある程度回復したシロに横島は肩を貸して立ち上がらせ、ハクに向かい合わせてシロに言葉を促す。
別れをさせるためだ。
先ほどの戦闘の余波で、宝珠には沢山のひびが入っている。今はまだもっているが、何時砕け散るとも分からない状態だ。

「父上・・・・」
シロには取り付かれている間の記憶もあった。一つの”思い”に駆られ、父と横島に迷惑をかけてしまった。
シロは自分の所業に恥じ入りながらやっとの思いで声を出す。

ハクはその気持ちがなんとなく分かったのだろう、自分の方から話しかける。
「シロ、気にする事はない。お前が意図してやったわけではない故にな・・。むしろ拙者はこの出来事に感謝しておるのだ。
見ることが叶わぬはずだった、娘の立派に育った姿を見ることができた・・・。それに、お前の事を心から思い、守ってくださる方もおられるようだ。」 
そう言うと、シロに肩を貸している横島のほうを向く。
「横島殿・・・と申されたか。シロも貴殿の事を慕っておるようだ、真に身勝手な願いではあるが、シロの事を頼まれてはくれぬだろうか?」
「はい。シロは俺にとって最も大切な人です。俺が命に代えても守り通します。」
頷きながら横島は言う。
いつもの様子からは考えられないほど真剣な声だ。ハクはもうすぐ消えてしまう、心残りのないようにしてやりたいと言う気持ちから出た言葉だった。
「かたじけない・・・。」
ハクは頭を下げ精一杯の感謝の意を表すと、再びシロの方を向き、顔を見つめなおす。

「シロ。」
ピシ
ハクの言葉と共に鳴った音にシロはぎくりとする。宝珠のひびが広がる音、別れの近づきを知らせる音だ。
ハクにもそれは聞こえているはずだが、自分の”思い”を伝えるべく続ける。 
「もう拙者の背中を追って、武士を目指す事などない。己のために生きよ・・・。そして・・・」
ピシ   
また音が鳴る。そしてハクは最後になるであろう言葉に”思い”を全て込める。

「幸せにな・・・」

シロは溢れ出そうになる涙を必死にこらえる。
ここで泣いてはいけない、父を安心させたまま逝かせてやるのだ。その”思い”を頼りに、顔を上げる。
そして微笑む。

「はい。」

ぱきぃぃぃぃぃぃん

乾いた音と共に宝珠は砕け散り、犬塚ハクの姿は虚空に消えた。


しばらくの静寂の後、シロは俯いたまま横島の胸に顔をうずめる。
その体が小刻みに震えているのに気付いた横島は、シロに優しく囁く。
「・・・父ちゃんに心配かけまいと泣くのを我慢してたんだな?・・・もう我慢する必要はないんだ・・・。
今は思いっきり泣いたらいい、そしていつもの明るい元気なシロに戻ってくれ・・・。」 
その言葉に反応し震えの大きくなるシロの体を、横島はぎゅっと抱きしめる。

「・・うっ・・うっ・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
父に会えた嬉しさと、安心させる事のできた満足、そして別れの悲しみ、
父への全ての”思い”を込めて、シロは大声で泣いた。


「・・・もう大丈夫でござるよ。」 
ようやく泣き止んだシロは、涙をぬぐいながら顔を上げる。
「横島先生・・・ありがとうでござる。」
ハクの、シロを頼むと言う願いに応えてくれた事を言っているのだろう。
自分の言った事を思い出し、照れて頬をかきながら答える横島。
「あ、ああ。我ながら歯の浮くせりふだったと思うが・・・まあ、本当の気持ちだからな・・・」
「本当でござるかっ!」
ぱあっと顔が明るくなり、思わず横島に飛びつく。すると横島は悲鳴を上げる。
「いって〜〜!!あばら、あばら折れてるんだ〜〜!」
「ごっ、ごめんなさいでござる。」
横島は涙目になりながら呻く。
「全くお前は〜、もうちょっと加減てものを・・!!」
横島の言葉が途切れる。

顔を上げたところにシロが、ほんの少し、わずかに触れるように自らの唇を横島のそれに重ねたのだ。
不意を突かれ呆然とする横島から一歩飛び退くと、先ほどの感触を確かめるように自分の唇をなぞりながら、いたずらっぽい笑みを浮かべる。  
「えへへ〜♪お礼とお詫びでござるよ♪痛みがなくなったでござろう?」
確かに、あまりの出来事に痛みなど一瞬で消えてしまったのだが・・・。 
正気に戻った横島は抗議しようとするが、シロがいつもの様子になっているのに軽い安堵を覚え、笑みを浮かべる。
「まあな。」
暖かな幸せの雰囲気にその場が包まれる。

ぞくっ
横島は突然寒気に襲われた。
まだ怨念が残っているのでは、と辺りを見回す。 

もっと恐ろしいものがいた。

「ふ〜〜ん。わざわざそんな物を見せ付けるために呼んだのかしら?よ・こ・し・ま・君?」
「あ、あああああ・・・・・」
横島の顔が一気に青ざめる。

神社の入り口の方に腕を組み仁王立ちで立っているのは、横島の恐怖の権化。美神令子その人であった。 
その傍らでは、おキヌちゃんが美神のあまりの殺気に「あうあう」と言葉にならない声を漏らしている。、 
反対側では、タマモが「シロもなかなかやるわね・・・」などと呟いている。
「あの、み、美神さん、ほら!俺今肋骨何本か折れてるんですよ!」
そう言うとシャツをめくり、「ねっねっ」と言いながら僅かに歪みの出ている脇腹を見せる。
どうやら恐怖でも痛みは感じなくなるようだ。
そして横島の言いたい事は痛いほどに分かる。”だから殺さないで”  
「み、美神さん、横島さん怪我しているみたいだから、あんまり酷い事は・・・・。」
おキヌちゃんもこればかりは横島の減刑を訴える。
美神はその様子を見て、
「まあ本当みたいね。いいわ、今回は特別に処刑はなしにしてあげる。」
横島はこの奇跡に涙を流して喜ぶ。
その間に美神はタマモに何かしら耳打ちをしている。タマモはそれを聞くと笑みを浮かべ、
「おっけ〜♪」
と軽い声と共に横島に近づく。
「へ?タマモ?一体何を・・・」
訝る横島の額にタマモは手をかざす。
「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!!!」
タマモの幻術で、武道館を埋め尽くすマッチョにもみくちゃにされる幻影を見せられた横島は、そこら中に響き渡る声で絶叫した。

そんな喧騒の中、シロは砕け散った宝珠を見ていたが、やがて何かを振り切るようにして顔を上げ、澄み渡った空を見上げて”思い”を馳せる。

(父上・・・やっぱり父上の事を忘れる事はできないでござる・・・

・・・でも安心してください・・・シロは、シロは絶対幸せになります・・・・・・、だから・・・

・・・見守っていてください・・・)

その”思い”がハクに届いたかどうかは分からない。

しかしシロは信じていた。

父がその”思い”を必ず受け取ってくれる事を・・・・・





「せんせ〜〜、もう一回”痛み止め”をしてあげるでごさるよ♪」
そこには白目をむいて涙を流し「マッチョは嫌だ・・・マッチョは・・・」と魘される横島に、満面の笑みで向かうシロの姿があった。


それは、いつもと変わらぬよく晴れた日の午後の事だった。

だがその日はシロにとってかけがえのない日となった。

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