ザ・グレート・展開予測ショー

父の思いと父への思い!(中編)


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/10/ 3)

都内にある都会には珍しく静かで緑の多い神社、平日という事もあり境内は静寂に包まれている。

そこにシロは立っていた。
全力で走り続けてきたせいだろうか、呼吸は荒く、うっすらと汗ばんでいる。
片手に持った宝珠は、厄珍堂にあった時よりもその青白い輝きを増している。
シロがここまで走ってくる間に、発動のための生命力を吸い続けていたのだろう。シロの疲労はこのせいでもあるようだ。

シロは宝珠を境内の中心のあたりに置き、手を添え”思い”と自らの生命力を込める。
宝珠の使い方など知らなかったが、自分に取り憑いた過去の”思い”達のせいだろう、まるで今まで何度もやったことのように体が動く。
霊的に安定した神社に来たのも、そのためかもしれない。
十分に”思い”が籠ると、シロの口が短い呪を紡ぐ。
それに反応し台座に刻まれている文字が輝き、その光が宝珠の部分に集まり,一際大きな光を放った。

光が収まるとその中から一人の男が姿を現した。
服装は正に『武士』といったもの、大柄と言うわけではないが着物の上からでもその体が鍛え抜かれたものであるのが分かる。 
短い髭を生やし、髪は後ろで結ってある。
顔自体にあまり特徴はないが、額から右目を通り、頬までの大きな刀傷がある。
尻の部分からは人狼族の特徴である尻尾が生えている。
シロの父、犬塚狛(ハク)その人であった。

ハクは困惑していた。
自分は犬飼ポチ斬られ、確かに死んだはずである。
刃が体を貫く感触、仲間を止められなかった後悔、家族を残して死ぬことへの絶望、その全てが思い出せる。
ふと体を見ると、感覚はあるのだが実体ではない事が分かり、自分の足元に輝く宝珠があるのに気が付く。
そして直感的に、自分が一時的にこの世に呼び戻されているのだということを悟る。
辺りを見回すと目の前に一人の少女が立っているのに気が付く。他には誰の気配もしない、どうやらこの少女が自分を呼び出したようだ。
(尻尾があるところを見ると人狼の様だが・・・、この匂いは!・・・まさかシロ!)
自分の知る娘の姿とはかけ離れた姿に、まさかと言う考えがよぎるが、それを振り払うように頭を振る。
家族の、しかも最愛の娘の匂いを間違えることなどありえない。
目の前の少女がシロであると言う確信を持ち、ハクはその名を呼んだ。
「シロ・・・・」

「シロ・・・・」
父が自分の名を呼ぶ。
二度と聞く事はできないと思っていたその声。
シロの全身に父への”思い”が溢れる。しかしそれはシロの体に憑いた”思い”達に、自らの心と体の制御権を明け渡す事に繋がるのだった。
(もう二度と離れたくない!)
シロの心は唯一つの”思い”に支配された。

ハクの心にもまた、娘への”思い”が溢れる。だがそれに心を奪われないように、体中の理性を総動員して心を静める。
そう、『死』は全ての者に等しく訪れる自然界の絶対の掟の一つだ。
それを取り戻そうなどと、自然の摂理に反することが許されるわけがない。
「シロ、これは一体どういう事だ。死者を呼び出すなど・・・。誇り高き人狼として、『死』は受け止めるべき絶対の物。忘れたわけではあるまい・・・。」
すでにこの世にいない自分と会う事が、現世に生きるシロにとってよいはずがない。
自らの”思い”を必死で押さえつけながら、ハクはシロを厳しく諭す。
しかし、シロはその言葉に何の反応も示さない。ただ恍惚とした表情で立ち尽くすだけである。 
「シロ?」
この時になって初めて、ハクはシロの瞳に光がないことに気付いた。
「シロ!どうしたのだ!シロ!」
ハクは普通でない様子のシロに慌てて手を伸ばすが、実体がないためすり抜けてしまう。
何か手はないかと必死に模索していると、神社の入り口のほうから気配が近づくのと共に、ある名を呼ぶ声がした。
「シローーー!!」

「シローーー!!」
横島は叫びながら境内に駆け込んだ。『探』の文珠でシロがここにいるのは分かっている。その手には『速』の文珠も握られている。
境内の中心にシロの姿を確認すると、役目を終えた文珠は消滅した。
シロの所に駆け寄ると、その傍に立つハクの存在に横島は気付く。
(この人がシロの父ちゃんだな・・・)
ハクも事情を知っていそうな横島に言葉を投げかける。
「貴殿はシロのお知り合いか!シロは一体どうしたのですか!」
「シロのお父さんですね?今、シロは性質の悪い怨念に取り憑かれているんです!」
ハクの顔に驚愕の表情が生まれるのを横目に、横島はシロに向き直る。
「おい!さっさとシロの中から出て行け!」
通じるかは分からないが、横島はシロの中にいる”思い”達に向かって叫ぶ。

シロ奇妙な感覚に囚われていた。
自分はもう父のことしか考えなくともよいはずなのに、心のどこかにこの目の前に立つ男の事を考えようとする気持ちが消えない。
戸惑うシロに”思い”達が囁く、
『コノ男ハオ前ヲ父カラ引キ離ソウトシテイルノダ・・・ダカラ・・・・コイツヲ殺セ!!』
ダッ!
その言葉に弾かれる様に、シロは霊波刀を出し横島に襲い掛かる。

急に飛び掛ってきたシロに慌てながらも、同じく霊波刀を出しその一撃を受け止める横島。
両者の霊波刀がぶつかり合う。
一瞬拮抗するが、バチィ!と言う音と共に、シロのほうが後ろに弾かれる。
横島は違和感を感じた。
(?おかしい、シロの不意打ちをこんなに簡単に防げるなんて・・・シロが手加減している様子もないし・・・)
そう思いながらシロを見る。
先ほどは気付かなかったがシロの顔色はかなり悪い、たった一度の攻撃で荒い息をついている。霊波刀もいつもより幾分短く、出力も弱いようだ。
(!まずい!シロの奴かなり衰弱している!急いでけりをつけないと!)
横島は慌ててシロに向かって突っ込んでいく。 
しかし焦った横島は、迂闊にもシロの最高の間合いに入り込んでしまう。
衰弱しているとはいえシロはそれを逃さず、横島の脇腹に霊波刀を叩き込む。
「ぐっ!」
横島が呻くと共にその体は宙を舞い、そのまま宝珠の所まで飛ばされる。
急いで立ち上がろうとすると、脇腹に激痛が走る。
(あばらが何本かやられた!
くそっ、文珠を使うか?いや、出せるのはあとせいぜい一個か二個だ、シロを回復させるのに取っておかないと・・・)
横島が迷っているうちに、シロは間合いをつめ、霊波刀を掲げ目の前に立っている。
そして、それを振り下ろすべく頭上に振りかぶる。
「シロやめろ!」
ハクが叫ぶが、シロは意に介さない。
(殺られる!!)
横島は次に訪れるであろう自分の死を思い目を瞑った。

しかし、なかなかその刃が振り下ろされない。
訝る横島が目を開けると、目の前でシロが霊波刀を振り上げた格好のまま硬直している。
衰弱のため青ざめたその唇から、震える声で言葉が紡がれる。
「・・よこ・・し・・ま・・せ・・・・せい・・・」
(シロの意識が!?)
考えると同時に、そのチャンスをものにすべく横島は立ち上がる。折れた肋骨に痛みが走るがそんな事を気にしている時ではない。
立ち上がった横島は、懐から破魔札を取り出しシロの額に貼り付ける。

かっ!
閃光と共にシロの中から取り憑いていた”思い”達が体外に追い出される。破魔札は効力を失い、はらりと地面に落ちる。 
”思い”達は空中を何度か円を書くように飛び、意識を失って倒れているシロに再び取り憑こうと向かっていく。
「させるかっ!!」
そう叫ぶと、横島は残った全ての破魔札を投げつける。

ばしゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!
弾ける様な音と共に、過去の”思い”達は消滅した。

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