ザ・グレート・展開予測ショー

FROM THIS DAY 〜第5話〜


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 9/30)

「あのお、魔鈴さん?」
「何かしら、聡君?」
「・・・まだ着かないんですか?」
「う〜ん、あと二十分ってところかしら?」
「に・・・二十分!?」
すっかり暗くなった町を、聡たち一行は歩いていた。
「こんな荷物をしょって二十分も歩けませんよお〜」
聡の背には、登山にでも行くのかというぐらいの多量の荷物が乗っている。
「あら、そのくらい軽いものよ。もっと沢山荷物を持っている助手さんもいるわよ」
「そんなバカな・・・」
これ以上大きな荷物を持つなど、人間技とは思えない。
「それがいるのよね〜。色々条件が必要だけど」
愛子が話に入ってきた。
「・・・本当?世の中広いんだなあ・・・」
「そういうこと!」
「それはそうと、こんなところでも机を持ってるの?」
愛子は、机を頭の上に乗せ両手で支えている。
とっぷり日も暮れて人通りが少ないとはいえ、目立って仕方がない。
(恥ずかしいなあ)
指差されたりひそひそ話されたりすると、自分のことでもないのに赤面してしまう聡であった。
「そりゃそうよ。この机は私の本体だもの。いざというときには他にも使い道があるし」
「使い道?」
「うん、まあそれは見てのお楽しみね」
意味深な笑顔を浮かべる愛子。どことなく危険な雰囲気が漂っている。
「うう、なんか嫌な予感がするなあ・・・」
「ふふふ」
不気味な愛子から逃げるために、聡はさやかに話しかけることにした。
「なあ、高木」
「何よ」
つっけんどんというか、取り付く島もない返事である。
「・・・」
「・・・」
沈黙が重い。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
とにかく重い。
「・・・なあ、高木」
「だから何よ」
「えっと、その、あれだ」
「はっきり言いなさいよ」
そう言われるとかえって言いにくいものだ。
(参ったな〜。まだ怒ってんのか?)
とりあえず、こういうときは無難な話題。基本である。
「その格好、何?なんかのコスプレ?」
聡はとりあえずさやかの服装について触れることにした。
『魔鈴』をでるときに着替えてきたさやかの格好は、ポニーテールはそのままに紺の袴と薄い桃色の単衣という完全な和服である。
「はあ?これのどこがコスプレなのよ?」
さやかの口調がさらに尖りだす。
「いや、ほらアレだ。大正浪漫とかその辺の・・・」
「違うわよ!!これはウチの流派に代々伝わる正装なの!!」
「正装?なんで除霊に行くのに正装するんだよ?」
「霊力を最大限に発揮するには自分に合った霊衣を着るのが重要なのよ!ほんっとに素人なんだから」
「へえへえ、素人で悪うございましたねえ」
(さっきのこともあるからせっかく人が下手に出ているのに、可愛くない奴!)
執拗に絡んでくるさやかを、聡は放置することにした。

(魔鈴さんに話しかけようかな?・・・でもうまく話せないんだよなあ)

昔からの知り合いのさやかや、性格はどうあれとりあえず親しみやすい愛子などと違って、
大人の雰囲気を醸し出している魔鈴に聡はどうも気軽に話しかけられなかった。
親友の筑紫をして「最大にして最悪の性格的欠陥」と言わしめた彼の内気さが、遺憾なく発揮されているのである。
(う〜ん、何か無難な話題を・・・服についてはどうかな?いや、それはさっき高木に怒られたし・・・え〜っと、あ〜)
「あら、聡君どうかしたの?」
「やはり店の繁盛具合について・・・って、わあ!?」
気がつくと、すぐ目の前に微笑を浮かべた魔鈴がいた。
「何か御用かしら?」
「う〜んと、その・・・」
歯がゆいくらいに、言葉が出ない。このままでは変な奴と思われると焦れば焦るほど、喉に言葉が張り付いてしまう。
「あ、わかった!さっき刀を持ったときに起こったことについて聞こうと思ってたんでしょ?」
「へ!?あ、そうですその通りです!」
とりあえず話の糸口が見つかったらしい。聡はほっとした。
「えへへ、やっぱりそうかあ。あたしの勘って良く当たるのよねっ」
どうやら今後魔鈴の勘は当てにしない方がいいらしい。
「僕は今まで何も霊力とか超能力とか無かったんですよ。それなのになんでさっき急に・・・」
疑問に思っていたのは確かに事実である。
凡才を絵に描いたような聡は、これまでその手の力を発揮したことは一度もなかった。
それのに、あの時さやかの刀を持った瞬間予想だにしなかった事態が発生してしまったのだ。
「そうね、驚くのも無理はないわね。
人間は、もちろん個人差はあるけどもともと生まれつきなんらかの超自然的な力を持っているものなの。
生まれてすぐにその力を発揮する人も稀にいるけど、全く気づかないまま一生を終えてしまう人が大半ね。
でも、そういう人たちでも何かのきっかけで力に目覚めることがあるわ。例えば聡君、君みたいに」
「じゃあ、あの刀を持ったのがきっかけなんですか?」
魔鈴は少し考えるような表情を見せた。
「そうね、前後の成り行きから考えてそれが一番自然ね。
さやかちゃんの斬魔刀は持ち主の霊力に直接作用するものだから、その影響で眠っていたものが目覚めたっていうのは十分考えられるわね」
「なるほど・・・」
うなずく聡に、さらに魔鈴が言葉を続ける。
「それでね、そのときも言ったと思うけど、聡君には霊能力というより超能力が備わっている可能性が高いの」
「?どう違うんですか?」
「説明するとね、『霊能力』と超能力は作用する対象が違うのよ」
「ねえ大野君、今の言葉の意味は分かりますか?」
「分かるよ!バカにしてんのか!?」
売り言葉に買い言葉。二人の喧嘩っ早さは芸術的ですらある。
「もう、喧嘩しないでって言ったでしょ!
いい、いわゆる超能力っていうものは物理的な物質に作用するの。
例えば有名なサイコキネシスは、物理的なものを動かしてるでしょ?」
「ふむふむ、確かに」
「他にも、自分の意識を相手に送るテレパシーは相手の脳内神経に直接影響を与えていると考えられているし、
物体を発火させるパイロキネシスも、燃えているもの自体は物理的な物質なわけだしね」
「なるほど、そういうことか」
話が難しくなってきたが、まだ聡でも十分理解できる範囲である。
「それで、霊能力っていうものは霊的な物質や存在に影響を与える力のことを指すの。
例えば、死霊を操るネクロマンシーは霊的な存在そのものを操るわけだから霊能力ね。
霊波砲も直接相手の霊基構造に自分の霊力をぶつけてダメージを与えるものだから、霊能力なわけ。
そういう意味では、神通棍とか斬魔刀も霊力を武器にするわけだから、それを扱うには霊力が必要ね。
ちなみに、霊波砲や神通棍によって人体を含めた物理的物質が損傷を受けるのは、
霊基構造に与えたダメージが物理的ダメージとなって表に出るからなのよ」
「おや、聡君。うつむいちゃったりして、もしかして分からなかったのかな?」
さやかにまんまと図星を突かれ、聡は赤面した。
「い、いいだろ別に!」
「そうね、少し難しすぎたかしら?ごめんなさいね」
「謝んないで下さいよ〜。余計惨めじゃないですかあ」
「ふふふ、ごめんなさい」
いつのまにか聡は自然に魔鈴と話をしていた。
どうも、魔鈴めぐみという女性は人を素直にさせる力があるらしい。
「それにしても・・・」
魔鈴が不思議そうに言った。
「普通霊能力者はなんらかの超能力を持ってるものだし、超能力者も何がしかの霊能力を備えているものよ。
でも、聡君からはあまり霊的な波動を感じないのよね」
「そ、それって・・・」
「やっぱり才能ないってことなのよ」
さやかが止めを刺した。
「ううううっ・・・」
「う、ううん。そんなことは言ってないわよ?う〜ん、でも確かにそういうことになるわね」
止めを刺された聡に魔鈴がさらに追い討ちをかける。
「とほほ・・・。そんなこったろうと思いましたよ」
「やーいやーい、ざまあみろ〜」
「いいえ、聡君!どんなに才能に恵まれていなくても、努力でカバーするのよ!
それが青春なの!ほら、『成功は99%の努力と1%の才能』っていうじゃない?
聡君でも、努力すれば99%までは到達可能よ!」
さやかのおちょくりと愛子の全くフォローになってないフォローを聞きながら、聡は溜め息をついた。
「やっぱり、駄目なものは駄目なんだな〜」


「・・・そろそろ着くわよ」


急に魔鈴の声色が変わった。
驚いた聡が彼女の顔を見ると、彼がみたこともないような引き締まりきった表情をしていた。
「そうみたいですね」
「聡君、青春の努力コースはお預けよ」
いつの間にか、さやかと愛子の顔からも笑顔が消えている。
「え、え、どうしたんですか?」
「向こうのあの家・・・あれですね」
慌てる聡を無視してさやかが魔鈴に話しかけた。
「ええ、その通りよ。・・・聡君、何も感じない?」
「はい、全く」
「う〜ん、やっぱり霊的な力には恵まれてないみたいね」
魔鈴がずばりとひどいことを言った。
「うう・・・」
冗談でもなんでもないだけに、この言葉は聡を傷つけた。
(そんなにはっきり言わなくてもいいのに・・・)
「・・・着いたわ、この家よ」

何の変哲もない二階建ての一軒家。
屋根のついたガレージには、一台の大衆車が停めてある。
塀で外と仕切られた庭は、細長いがそこそこ広い。
これだけなら普通の住宅なのだが、問題はこの家の雰囲気だった。
「な、なんだこれ・・・!?」
見ているだけで激しく寒気がしてくる。
吐き気が、胸に硬いしこりを作る。
何か、本能がこの家の存在を拒否しているかのようである。
「あなたが今感じてるのは、霊圧。霊的なプレッシャーのようなものね」
にこりともせず魔鈴が言った。額にうっすら浮かんでいるのは、冷や汗だろうか。
「それじゃ、三手に分かれましょう。
まずは、さやかちゃん。あなたは一人で大丈夫ね?」
魔鈴の言葉に、さやかは自信満面の笑みを浮かべた。
「はい、これでも結構経験積んでますから!」
「うん、それじゃ二階をお願いするわね」
「はい!」
次に魔鈴は愛子に向き直った。
「愛子ちゃんは一階をお願い。期待してるわね」
「了解!青春だわ〜」
最後に、魔鈴は聡に声をかけた。
「聡君は初めての除霊だし、今日は私と一緒に行動よ。大丈夫、安心して」
「は、はい!」
(な、なんかどきどきするな)
聡は返事しながら、家に対する恐怖とは別に胸を突く甘い刺激を感じた。

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