ザ・グレート・展開予測ショー

スコールのような。後編


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(02/ 9/29)

ひのめが月を眺めたのも無理はない。
小さな島の小高い丘に月が照っている。
スコールを演出した雲は彼方へとさった後、自然の夜景は妙にはっきりと映える。
「しょうがないわねぇ」
着替えを済ました美神が怒りもどこかへと吹き飛んだようだ。
「ほら、一緒にお月様でも見に行こうか。ひのめ」
言葉など理解出来ないひのめは雰囲気で察したのか。
「あーっ。あー」
飛びつくように長女が差し出した両手に全身を預けた。
「・・。あら重くなったわね」
一見華奢な体つきな美神でも重労働を仕事としている物にとっては問題ない重量だが。
「ほら、荷物もち。あんたもついでにおいで」
荷物もちが誰の事かは書くまでもあるまい。
横島にひのめを渡した時、にんまりとした笑顔を見せて。
「あらら。あんたも男の子がいいっての?」
本音とも取れかねない発言の後。
「と、いってもたいした男じゃないけどね」
「ひどいっすよぉ」
という一言が殴られなかったのは母親の手前であろうか。
玄関をあけると、豪雨、スコールの置き土産か、普段の夏夜とは違う清涼感。
そして、
「ねぇ、あなたぁ私もゴキブリ嫌いだからぁ・・」
という声が三人の耳に入った。
「だから一緒にお風呂入りましょ?かな。ママったらぁ」
女同士の勘か、親子の縁か。だからこそ散歩を買って出たのかと横島が尋ねると。
「さぁ」
微笑とともの返事が何時もとちょっとだけ違う。
横島が一瞬。ほんの一瞬心音が高まったのがひのめにばれたであろうか。
「ぶぅー」
ぷいっと姉からそっぽを向けた。
寄せては返す波が静かに思える、たとい、そこが波際であっても。
「あれっ?美神さんあれ」
横島が月明かりに反射する海に異物を発見する。
「あぁ、満ち潮って奴ね、ほらひのめアレがなんだか判る?」
判るはずも無いと美神も横島も思う。
昼間、横島は砂の城を築いたが、今となっては天辺がちょっとだけ出てるのみ。
海にとってはありふれた光景も都会育ちの二人にはちょっとした奇跡。
だがひのめにとっては。
「あー、あー!」
誰が壊したの?とでもいいたけな表情である、と姉は思える。
「しょうがないのよ。ね。横島クン」
「そうだよぉ。ひのめちゃん、だから悲しまないでね」
説得には応じず足をばたつかせてるので。
「はいはい。おろせばいいのね」
ゆっくりとひのめをおろす。
それが間違い。
「あー、あーっ・・きー!」
よちよち歩きで海に入ろうとするから二人は慌てる。
ちゃぽんと小さな小さな足が水音を立てた。
「こらっ。そっちいかないの!」
足を水際に踏み出す姉。
砂、特に自然の物は脆く子供ならともかく大人の比重に絶えるだけのパワーは無い。
「きゃっ」
バランスを崩されたが最後、塩水の洗礼。
水しぶきに驚いたのか、ひのめは横島の元へとすぐに戻る。
「いたたた」
クッションがあるので然程痛くはないのだが、転んだという事実が痛い。
「美神さん・・大丈夫っすかぁ?」
笑うのを堪えている風体である。
「・・・もぅ。びしょ濡れじゃないのよ」
これも悪戯かと思ってしまうのも当然か。
左片手でひのめを抱きしめ右手を令子に差し出す。
「ありがと」
思わずすんなりと出た感謝の気持ちが。
一度心を朱に染めひのめにとっては面白くないというより、
負けたかな?であったか。
横島の手を借り立ち上がる。
「一度着替えに行きますか?」
と提案するのも当然である。薄いシャツ一枚に見えるライン。
「あっ!」
両腕を胸で交差するのも無理は無い。
今度は顔を一瞬、ほんの一瞬朱に染めるが。
「まっ、こんなのは今日にとっちゃ序の口かもね、ひのめ」
それもそうかもしれぬ。
答えに困る横島に、
「あぁ、今はコテージに戻らないわよ。ママと親父の時間だもん」
今度は柄に無く横島が顔を朱に染める。
「何よ。あんたらしくない。ね。ひのめ」
「まぁー」
そうね。とでもいいたけな表情なひのめ。
「でも気持ちわるいわ。水濡れのシャツなんて。
横島は昼間の格好である。半そでのGジャンを着込んでいるので。
「はい、寒かったらどうぞ、ってのは冬の台詞っすか」
「うん」
といいながらその場でシャツを脱ぎ本日二度目の男物を着込む。
「・・・・。えっ」
夏は女を大胆にさせるとは古い古い歌の歌詞。
丁度。
月は海の方向で無く小さな島の小高い丘に月が照っている。
「ほら、ひのめあんたのリクエストはお月様よ」
海から遠ざかる二人、横島が無意識に右腕を三角の形にしてそこに令子の左腕が絡む。
「ほら立派なお月様でしょ?でも今日はお仕事だから太陽とキスは出来ないわね」
と、ひのめに聞かせた令子。
その月は黙然としてコテージの風呂にある大きな窓の様子を見ている。
何も見なかったことにしようと言ったようだ。
彼氏に会えない月の嫉妬が、
むしろ騒々しく思える。
そして、
寄せてはうち返す波ですら、騒がしくないと美神令子と横島忠雄は感じる。

FIN

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