ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(12−1)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/ 9/25)

 ワルキューレが結城の部屋をでる5時間ほど前、横島は久しぶりにアパートの自室で寛いでいた。
今回の徹夜除霊三連荘はさすがの美神も気が咎めたのだろう、珍しく特別勤務手当てを出してくれた
おかげで、夕食には牛丼特盛生卵付きにありつくことができた。ひさしぶりの満腹感に自然と顔がほ
ころぶ。
 たまにはこうして一人でゆっくりするのもいいな、などと、ぼんやりとテレビを見ながら考えてし
まう。事務所は賑やかで楽しい。シロやタマモをからかい、おキヌちゃんが入れてくれたコーヒーを
飲み、時には美神さんのシャワーを覗いてシバかれる。そんなことをしていると時のたつのを忘れて
しまう。だがこの頃は、特に肉体的に疲れたときなど、テンションを保つのが辛いと感じるときもあ
るのだ。一年前のあの大戦を経験するまではそんなこと感じたこともなかった。
 そういえば結城の部屋を見たときも、あまりうらやましいとは思わなかった。以前なら自分の部屋
とのあまりの違いに涙していたところだが、今日は逆に、こんな広い部屋に一人で住んでいて、寂し
くないのかなどとらしくないことを考えてしまった。あいつが両親と死別していて天涯孤独の身の上
だと言うことを知っていたからかもしれない。それに比べれば自分はまだ両親が生きているだけ幸せ
かとも思う。

(そういえば、ワルキューレの唇の感触、柔らかいのに弾力があって、なんかちょっと熱くてとにか
 く気持ちえかったなー。)

 結城のことから自然と思考が流れて、今日最大のハプニングが蘇ってくる。自分に押し付けられた
ワルキューレの唇や胸の感触を思い出し、顔がさらに緩んでしまった。

 《ヨコシマッ!なにいつまでもニヤニヤ悦んでるのよ!》

 ふと懐かしい声が聞こえたような気がしてあたりを見回す。もちろん声の主がいるはずはない。

(あいつのキスもあんな感じだったよな。)

 思い出すたびに感じる痛みは一年前とかわってはいない。だが、時間の流れがそれを冷静に味わえ
るようにしてくれた。今おもえば、あいつはその長女然とした面影の裏側に、恐ろしいほどの激情を
秘めていたのだ。ワルキューレもあのクールな表情とは裏腹に相当な激情家なのかもしれない。

(そういや美神さんも前世は魔族だったよな。)

 もしかして、魔族の女性はみんなああなのか、などと思ってしまう。

 プルルルルルッ、プルルルルルッ。

 突然飛び込んできた電話の呼び出し音が、ふわふわと漂うような思考の流れを断ち切った。すぐに
受話器をとる。

 「もしもし、横島君?」

 こちらが口を開くより先に美神令子の声が飛び込んできた。携帯かららしい。

 「そうですけど、どうしたんスか。」

 「お休みのところ悪いんだけど、大至急こっちにきてちょうだい。場所は…」

 こちらの都合などお構いなしに用件をつたえてくる。だが文句をいう気にはなれなかった。金には
汚い美神だが、これまで、よほどのことが無い限り、一度与えた休暇を反故にするようなまねはした
事がない。それがこうして電話をかけてきたということは、なにか異常事態が発生したのだ。

 「だれかケガとかしてるんスか?」

 「あたしがそんなヘマするわけないでしょう!おキヌちゃんとタマモが少しへばっているけど今の
  ところは心配する必要はないわ。でも闘いが長引たらどうなるかわからないけど。」

 「わかりました。すぐそちらにむかいます。ただ、駅から現場までの道がわからないんスけど…」

 「あんたねェ!、自分が休みでもその日の仕事のファイルぐらいは目をとおしておきなさいって何
  遍いわせるの!。しょうがない、シロを駅まで迎えにいかせるから、そこからタクシーでもひろ
  いなさい。いい、急ぐのよ。遅れたら休出手当さっぴくからね!」

 最後は受話器をめいっぱい遠ざけたにも関わらず、耳が痛くなるほどの大声で怒鳴りつけると、此
方の返事も聞かずに電話をきった。横島は数秒間目を閉じて耳鳴りに耐えると、机の引出しを開けて
中からあるものをつかみ出す。

 (みつかったら半殺しだろうけど、背に腹は変えられねえからな。)

 そうつぶやくと、それをGパンのポケットに押し込み、横島は部屋を飛び出していった。 



 『センセーッ。まってたでござる。早く早く。』

 電車を一時間ほど乗り継いで美神に言われた駅に着くと、改札口にはすでにシロが待っていた。
両腕と尻尾をブンブン振っている。

 「わーッ。こら、ひっつくな。顔を舐めるなー。」

 改札をでるなり、首筋に抱きついてきた。それを何とかひきはがす。よく見るとGパンは所々やぶ
れ、露出している左足には数箇所打撲及び擦過傷があった。タクシー乗り場にむかいながら様子を確
認する。

 「いったい現場はどんな様子なんだ。おまえもケガしてるみたいだけど大丈夫なのか。」

 『拙者のケガはたいしたことないでござるが状況はよくないでござる。現場はぶんじょーじゅうた
  くという同じような家がいっぱいあるうちの一つなんでござるが、我々が現地について除霊を始
  めようとして家の中に入ったとたん、いきなり浮遊霊の大集団におそわれたんでござる。』

 「それで?」

 『一度家の外に引いた後、おキヌ殿の笛やタマモの幻術で浮遊霊どもをだましている間に、拙者と
  美神殿で持ってきたお札を全部はって、なんとか浮遊霊と連中を操っている悪霊を一つの部屋に
  封じ込めたんでござるが、おキヌ殿とタマモはそれで霊力を使い果たしてしまって…』

 「霊団を操れるほど強い力をもつ悪霊なのに、下見のときにわからなかったのか?」

 『下見は美神殿と拙者で行ったんでござるが、その時にはそんなに強い霊気は感じなかったでござ
  る。』

 「ネクロマンサーの力をもつ悪霊、あのネズミ野郎とおんなじか、いやな相手だな。」

 『確かにあの時センセーはなんの役にも立たなかったでござるからな・・・・・・キャイン!。』

 いきなり横島に頭を殴られ悲鳴をあげる。本当のことを言っただけなのにひどいでござる、とぶつ
ぶついっているシロを無視して横島はタクシーに乗り込んだ。シロもそれに続く。

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