ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル 4


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/ 9/21)

6.喪失
(1)横島の場合
「痛てて……」
 地上に落ちた時、頭を打って気絶してしまったようだ。
 横島は痛む頭をかばいながら起き上がった。
「何があったんだっけ……?」

 1.東京タワーを中心に森林が一夜にして発生。
 2.田町駅近くからモノレールの線路上を通って森に侵入。
 3.厄珍堂までたどり着くが厄珍堂が消失。諦めて帰ることにする。
 4.巨大イノシシに遭遇。おキヌちゃんが怪我をする。
 5.美神さんにお守りが見つかり半殺しにされる。
 6.モノレールの線路にたどり着くが、俺だけ空間の歪みに巻き込まれる。

「……!?」
 横島は手に持っている物を確認して、ほっと胸をなで下ろした。
 丁寧に畳んで、胸ポケットにしまう。
「さて、これからどうすっかな」
 森の中らしいことは分かるが、どっちの方角が外に近いのか分からない。
 だいたい、東京の中なのかすら分からないのだ。

 文珠は? 今の所残りは2個か。使いどころを考えなきゃな。
 あのイノシシみたいなのがウロウロしてたら堪らん。
 幸いサバイバルキットがあるし、何とか成るだろ。

 横島はリュックを背負うと、適当に方向を決めて歩き出した。
 日が翳ってきたのか、闇が森の中を覆い始めている。
 まずしなければならない事は、今夜のねぐらを探すことだ。

 これ以上歩くのは危険と言う頃になって、横島は樹の根元にちょうど座れるくらいの穴が開いているのを見つけた。
 火を起こしたかったが、美神の言ってた視線が気になる。
 自分から居場所を教える必要も無いだろうと判断して、火を起こすのは止めた。
 腰を下ろすと、リュックから非常食を取り出し、闇の中で口に入れる。
 味気ない。味気ないが、今はこれが命の綱だ。
 1日1本として、数日は持つ計算だ。その先は自分で調達しなければならない。
 食える木の実とか、野草とかが見つかればいいが。

 ……おキヌちゃんの飯が食いたい。
 美神さん達、心配してるだろうな。
 シロなんか取り乱して、森に飛び込みそうだもんな。

 魔法瓶をとり出して、まだ少し温かいお茶を飲んだ。
 空になった魔法瓶を逆さにして、滴を飲み干す。
 水も確保しないとな。仕方ない、明日早起きするか。
 幸い、美神が普段使ってるシュラフも、自分が使ってる毛布もある。
 少し考えた後、シュラフはいざと言う時、身動きが取れなくて危険だと判断した。
 横島は毛布を広げると身体に巻き付け、座ったまま目を閉じた。

(2)美神とおキヌの場合
 ……疲れた。
 あれからすぐに下に降りて探したけど、横島クンの姿はどこにもなかった。
 やはり空間転移に巻き込まれたんだと思う。
 森の中へ駆け出して行くシロを止めたり、泣き出してしまったおキヌちゃんをなだめたりしながら、あたし達は事務所に戻ってきた。

 もちろん、その後ママにはたっぷり絞られた。
 当然だ。勝手に中に入って、危険な目にあった揚げ句に、横島クンを行方不明にしてしまったのだから。
 確かに、あたしとしたことが用心が足りなかった。
 でも、あのバカが飛び出して行きそうだったのよね。
 あの情けない顔見てたら、一人にしたら危ないって事ぐらいすぐに分かった。
 あたしはあいつの雇い主だもの。
 あいつの考えてることくらい、すぐに分かる。

 でも結局、横島クンを一人で行かしたも同然になってしまった。
 その責任はあたしにある。

 美神はグラスを煽ると、お代わりを注ぎながらため息をついた。
 立ち上げたままのパソコンには、東京の地図が表示されている。
 横島には発信機を持たせている。
 森の中でモノレールの線路から降りる時、襟を掴むふりをして取り付けたのだ。
 発信機が壊れてなければ、横島が東京タワーから数キロ以内に居れば、この地図に表示が現れる筈だった。
 その為に、美神達は森の外周を回ってアンテナを、数ヶ所に設置した。
 あれから半日が経過しているが、地図には何の変化もない。
 横島の消えた先は異界空間だったのだろうか。

「分からないのは、あの森の正体よね」
 美神はつぶやいてグラスを口に運ぶが、それはすでに空だ。
 仕方なく、再びお代わりを注ぐ。
 オカルトGメンが調査して得た結果は、ただの森林。
 内部には妖怪のたぐいが若干いるようだが、特に強力な妖怪はいないようだ。
 まして東京の中心部を、一夜にして森林に変えてしまうほどの、妖力を持った霊体は確認できていない。

「もしかすると、これはまだ予兆の段階なのかも」
 空いたグラスに、お代わりを注ごうとしたら、空っぽになってしまった。
 仕方ないので、台所へ新しい瓶を取りに行く。
 明かりをつけるのは面倒臭いので、真っ暗なまま美神は酒瓶をしまった棚を手探りする。
「美神さん、まだ起きてたんですか?」
 不意に声を掛けられた。
「なんだ、おキヌちゃんか。おキヌちゃんこそ、早く寝ないと明日学校でしょ?」
「こんな時に学校に行ける訳ないじゃないですか……。うっ、お酒臭い!?」
「ごめん、結構飲んだ」
 美神は苦笑した。

「妙神山からは、まだ連絡が無いんですか?」
「そう、そこが今回の事件で、最もおかしなトコなのよね」
 おキヌに酒を止められてしまった美神は、仕方なく水の入ったグラスを煽る。
「あれだけのことのできる存在が、神界にも魔界にも関係が無い訳ないじゃない」
「それを、責任がどっちにあるか分からないので、うかつに手を貸す訳には行かない、なんちゃってさ」

「それじゃ、小竜姫様は力を貸してくれないんですか?」
「神族に責任があると、はっきりしない限り無理ね」
「でも、神族に責任がある、なんて事あるんでしょうか?」
 おキヌが小首をかしげる。
「あるわよ。神族だって完全無欠じゃないもの。天竜童子が逃げたことがあったでしょ」
「小竜姫様が来た時のことですね。メドーサさんと初めて会ったんでしたっけ」
「そうそう、横島のヤツ、知らないうちに天竜童子の家来になってたっけ」
 おキヌが顔を伏せる。

「横島クンなら大丈夫だって。あいつは簡単にくたばるヤツじゃないって」
「でも……」
 おキヌの目から涙がこぼれ落ちた。
「信じなきゃダメ。おキヌちゃんが信じなかったら、シロやタマモが余計に不安がるわ」
 おキヌは膝の上の手を握り締めて、涙をこらえている。
 美神はおキヌの手に両手を、包むようにして重ねるとささやいた。
「涙をこらえるコツはね、やらなきゃならないことを、考えることなのよ」
 驚いたように顔を上げるおキヌ。
「あたしの場合だけどね」
 照れ臭そうに美神が微笑んだ。

「明日から忙しいからね」
 そう言って美神はおキヌを寝かしつけると、一人パソコンの前に陣取った。
 これから、やらなきゃならないことを、考え続ける為に。

(3)シロとタマモの場合
「タマモ、頼むでゴザル。これを解いて欲しいでゴザルよ」
 ベッドの上で、グルグル巻きに縛られたままのシロは、タマモに懇願した。
「嫌よ。そんなことしたら叱られるのはあたしだもの」
 タマモは横になったまま振り向きもしない。
「オシッコがしたいんでゴザル。このままでは、ベッドに粗相してしまうんでゴザル」
「オシッコなら寝る前にさせてあげたでしょ。嘘をつくんならもう少しましな嘘をつきなさい」
「したいでゴザル。したいでゴザル。したいでゴザル。したいでゴザル。したいでゴザル……」
 連呼するシロ。
 ひたすら我慢したタマモの中の何かが、プチンと音を立てて切れた。

 ガバッと起きて、険悪な笑みを浮かべるタマモ。
「そんなにしたいんなら、ここでしなさいよ。手伝ってやるから」
 と言ってタマモが用意したのは、アヒルの御虎子(おまる)だ。
 シロが蒼ざめる。
「いや、じ、自分でできるでゴザル」
「無理よ、縛られてちゃ。遠慮しなくていいわよ。友達じゃない」
 タマモは微笑みを浮かべて言うが、その目は怒っていることが、シロには見て取れた。
 逃げようにも身体が動かない。
 芋虫のように這って、少しでもタマモから離れようとする。
 ベッドから床に逃げようと持ち上げた、シロの尻がいきなり燃え上がった。
「・わっち〜〜〜っ!!!!」

 床を転げ回って必死に火を消したシロは、呪縛ロープが焼き切れていることに気がついた。
 立ち上がって身体を揺すると、ロープはスルスルと解けて、足下に落ちた。
「感謝するでゴザルよ、タマモ」
 霊波刀を構えると、いつもより高出力のそれはバチバチと音を立てている。
「礼を言うでゴザル」
 タマモの目が細くなった。
「やる気? それなら容赦しないわよ」

 床を蹴って、下から逆袈裟に霊波刀を擦り上げるシロ。
 タマモはシロの顔に狐火を吹きつけると、霊波刀の下をかいくぐる。
 がら空きの腹に、爪を突き立てようとするタマモの意図を読んで、シロがタマモの頭上を飛び越えた。
 タマモが振り返ると、シロが窓の枠に手を掛けている。
「悪いが美神殿には、タマモから謝っといてくれでゴザル」
 シロはニッと笑って、窓の外へ身を投げ出した。

「お尻真っ黒にしてどこ行くんだか?」
 タマモは開け放たれた窓に頬杖をつき、駆けて行くシロを見送って、つぶやいた。
「なんで、あいつは何の見込みもないのに、行動することができるのかな?」
 シロの姿が街角に消えるまで待って、意地悪い笑みを浮かべる。
「1個貸しだからね」
 タマモは美神とおキヌに報告する為、部屋を後にした。

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