ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(11)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/ 9/19)

 時間にして数秒、唇を重ねあわせただけであったが、横島には刺激が強すぎたのか、ワルキューレ
がまわした腕をはずした後も顔を真っ赤にしてたちつくしている。ときおり何かいいたげに口を開く
が声にならないようだ。思わず、先程の大口はどこへいったと言ってやると、ムッとした顔で横を向
いてしまった。結城もニヤニヤと笑っている。さすがにこれ以上からかうのは気がひけたので、一応
妙な誤解をしないように釘をさした後、さきほどから中断したままになっている、自分がなぜ傷をお
ってここにいるのかといった事の説明を再開した。当然のことながら、今回の任務の目的といった核
心部分は適当にごまかす。

 「そうすると、ワルキューレ達を襲い、そのあと口封じに目撃者を殺したのは人間達の方だって
  いうのか?。」

 『ああ。我々はその前に全滅していたからな。あっという間だったよ。』

 あの時の恐怖や屈辱といった感情が蘇ってきて、おもわず拳を握り締める。

 『あの組織的な戦い方や、個々の射撃の腕などからすると連中はおそらく…。』

 「プロ、か。」

 それまで黙って話しを聞いていた結城が口をはさむ。

 「プロ?」

 話が良く飲み込めてないのか、横島が怪訝な顔をする。

 『そうだ。金で雇われたプロの傭兵、しかも、霊波迷彩を施した戦闘服を着ていたところをみると
  バックにはある程度オカルトの知識を持った奴がいるんだろう。』

 「そんな連中に狙われて、これからどうするんだよ?」

 『決まっているだろう。連中を血祭りにあげて魔族に牙をむけばどういうことになるか、思い知ら
  せてやる、と言いたいところだが、さすがにこの状態で連中と渡り合えると思うほど、私は自信
  家ではないからな。いったん魔界に引いて出直すさ。』

 「以外と冷静なんだな。」

 横島がホッとしたように呟く。

 『あたりまえだ。私も一応はプロだからな。すぐに頭に血が上る誰かさんとはちがうのさ。』

 『誰かさん』の顔が浮かんだのだろう、横島がクスリと笑った。

 「さて、用が済んだのならそろそろ帰るとするかな。三日連続で徹夜の除霊がはいったんで眠くて
  しかたないんだ。」

 時計を見ると既に6時をまわっている。

 『横島、わかっていると思うがこの話は他言無用だぞ。』

 「ああ。でもあまり期待しないでくれよ。俺、美神さんの前で隠し事が通用したこと一度もないか
  ら。まあ今晩一晩くらいなら大丈夫だけど。」

 『情けない奴だな。それじゃあ結婚しても一生尻に敷かれっぱなしだぞ。』

 「ははは、そんな先のこと考えてもしかたないさ。俺はまだ単なる丁稚で相手にもされてないんだ
  から。」

 屈託の無い笑顔にワルキューレは胸の中で溜息をつき、僅かではあるが美神令子に同情した。横島
はそんな彼女を怪訝な顔で見ていたが、やがて結城の方を向いて立ち上がった。

 「悪いけど、駅まで送ってくれよ。俺、きた道をぜんぜん覚えてないんだ。」

 「だと思ったよ。」

 結城が立ち上がり部屋をでる。横島も続いたが戸口のところで立ち止まると、此方を振り向いた。

 「死ぬなよ。ワルキューレ。」

 何をバカなことを、と言い返そうと見返した横島の表情は先程と同じくらい真剣なものだった。

 『おまえもな、横島。』

 そう返すと、横島はニコリと笑って部屋からでていった。




 その日の深夜、ワルキューレは明かりを全て消した部屋の中に立っていた。身に付けているもの
を全て脱ぐと意識を集中する。微かな振動音と共に魔族軍特殊部隊の戦闘服がその体を覆った。
 外にでようと窓に手をかけたとき、背後から声がかかった。

 「でていくのか。」

 振り向くと結城が立っていた。

 『やはり気付かれたか。』

 苦笑とともに呟く。

 「身を隠すあてはあるのか。」

 『ああ。こんな時のために、軍にも秘密で用意しておいた隠れ家がいくつかある。』

 「そうか。じゃあそこまではこいつを持っていけよ。」

 そう言って結城はこちらに向かって何かを放り投げてきた。

 「化物退治はできないが、人間相手ならお守り程度にはなる。」

 ズシリとした重みを持つ大型の自動拳銃だった。続いて飛んできたものを受け止めると実弾入りの
マガジンが6本、輪ゴムでまとめられていた。

 「あんたにやるよ。俺には扱いきれない銃だから。」

 『やっぱりただのガキじゃなかったか。』

 なんとなくこいつの正体がわかったような気がした。

 『だが、なんでここまでしてくれるんだ。』

 「せっかく助けたのに、すぐに殺されたんじゃ後味がわるいだろ。それに人間にばけたあんたが
  ちょっと知り合いに似ていたからかな。」

 『恋人か。』

 結城はその問いには答えず暫く沈黙していたが、やがて口を開いた。

 「そろそろいけよ。」

 『ああ。五日間世話になった。礼は全てが片付いた時に改めてさせてもらう。』

 ワルキューレはそう言い残すと窓枠を蹴り、夜空に身を投げ出した。

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