ザ・グレート・展開予測ショー

心は共に・2


投稿者名:マサ
投稿日時:(02/ 9/17)

「大丈夫か早苗?!」
「父っちゃ、母っちゃ!?あの横島って男、やっぱり変態だ〜〜〜!!」
父親が目の前に来たとき、早苗は一際大きな声で叫ぶ。
「おいこら!俺が何をしたって?!他人を無断で悪人にするなぁ〜〜〜!!」
「「ウチの娘に……!」」
横島の魂の(?)叫びも空しく、それから数分間殴る蹴るの痛みに必死で耐えるのであった。
――俺は何時か女が原因で死ぬのかも…――
などと考えている横島の傍らで、どうだと言わんばかりの視線を送る早苗も実は恐い。

「ところで、そちらの子は?」
やっと落ち着いた早苗の母がおキヌを見る。
「このコがおキヌちゃんです」
黙り込んでいた美神が立ち上がって言った。
「モノは相談なんだけど、このコを引き取って貰えないかしら?」
「な?!…い、行き成り言われましても…私の家には既に娘が一人おりますから…」
美神の唐突な問いに戸惑い、早苗の父は頭を掻く。
そして、それとほぼ同時に叫ぶ人物が約一名。
「ちょ、ちょっと、冗談でしょう?!…美神さん!!!」
彼は無理に笑顔を作って言ったが、美神は彼に向かって真顔で首を横に振った。
「…私は本気よ」
「何で、何でなんスか!!?」
横島の声はもう大声と言うよりも怒声を上げているに近かった。
それに対して、美神は表情を変えないまま子供をあやす様に語り掛ける。
「いい?このまま記憶の無いおキヌちゃんを私達みたいな一般の社会からは逸脱した危ない仕事をしている人間が連れて帰って良いのかしら?何も分からない、まともな勉学の知識も無い人が生きていけるほど現実は、この世の中は甘くないのよ?『しずく』を『水』に戻すのはもう暫くお預け……ね?」
「…!?……でも、…でも……!!」
二人の言葉は悲痛な響きを持っている。
「生きるには順序が必要なのよ…」
必死に涙を堪えて食い下がる横島の肩に手を掛け、美神は静かに言った。
「……分かりました。あんた等には嫌われっ放しだったけど、俺からも頼みます。おキヌちゃんをお願いします!」
大きく頭を下げたまま俯く横島。
「…貴方がたにとって、このおキヌという子は余程大事な存在なんですね。私共でよければ、…責任を持ってお預かりしましょう」
優しげな笑みを浮かべ、早苗の父は言った。
「ありがとう…」
切なげに微笑み、かすれた声で美神は礼の言葉を述べる。

「良かったな。暫くお別れだけどさ、…………」
彼はおキヌを抱くと、早苗たちに見えないように背を向けてそっと彼女の額に口付けをし、その耳の傍で小声で、また会おうな、と囁いて立ち上がった。
涙を拭い、早苗一家におキヌを預けると、美神の方に向き直る。
「行きましょう、美神さん!」
「ええ!」
美神も明るい声で返す。

愛車コブラに乗り込むと、美神が思い出したように一言。
「そうそう、おキヌちゃんの戸籍が必要よね。その辺はこっちで裏工作をしとくから心配しないでいいわよ」
「は、はあ…それはどうも」
早苗一家と横島が苦笑していたのは言うまでも無い。
そして、コブラは山道を走り去っていった。
周辺の木々の枝に横島の頭を連打させながら……。




「ところで美神さん、幾らおキヌちゃんとは言っても何で何時ものように『何時まで触っとるか!こんバカったれ!!』とか言って殴り飛ばすのに」
唐突に横島がそんな問いを掛ける。
「………あのね、おキヌちゃんの遺体は冷凍されてたんだから、誰かが暖める必要があったわけで、…私は寒いの嫌いだし…あんたがそうしてたからほっといた。……それだけよ」
少々口ごもって美神が答えた。
「……そうゆーことッスか……」
うな垂れる横島を見やり、美神は思う。
――あんたがあそこまで真面目な顔してるの見てたら邪魔出来なくなった…なんて言える訳無いじゃない……バカ!!――

「じゃあ、あんたはどうなの?何で眠っている女の子抱いていながらあんたにしては他愛ない行動しか取ってなかった様だけど?ま、変な事しようとしていたらお望みどおり私の蹴りが飛んでいたでしょうけどね」
「だって、おキヌちゃんスよ。幾ら俺でも、そんなコに手を出す気には…。それに、おキヌちゃんには幸せになって欲しいなーなんて思うんスよ」
「ふぅーん、あんたにも理性は存在したのね」
「俺はケダモノですか?」
「そうゆー事ね。でも、私もその考えには賛成だわ。…辛すぎるもの、あのコ」
横島は無言で頷く。
空を見上げている彼の肩に美神はぽんと手を置く。
「…俺たちにとっておキヌちゃんは掛け替えの無い存在だったんスね。俺たち三人揃ってこそ『美神令子除霊事務所のチーム』なんだって、一人いなくなって初めて気付きました」
「………」
彼女は強引に横島の頭を捻り、自分の方に向けた。
「いい?!!何度も言うけど、私たちはゴーストスイーパーなのよ!!プロなの!!一人抜けたくらいで何時までもめそめそしてたら時給下げるわよ!!」
そう言って人口幽霊一号に任せていた運転に戻る。
彼女のその目から流れ、後方に飛んでいく涙は夕日に照らされて光り輝いていた。

「その一人がどれだけ重いんだろうな。一人抜けただけで全く別の事務所になってしまう気がするな…。おキヌちゃん、必ず帰ってきてくれよ。……何時でもいいから」

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