もう一つの物語(26)
投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 9/11)
横島と小龍姫は、人狼族の里の外れにある、小高い丘の草原に座っている。
2人は、無言で徐々に明るくなっている空を見つめていた。
空がゆっくりと青みがかってくる。時折吹く早春の風が、少し寒い。
「・・・横島さん。怒ってますか?」
「・・・どうして?」
「さっきから、ずっと黙ってるから・・・。」
「そうっすね。ちょっとびっくりしてしまって、うまく言葉が出てこないんすよ。」
静かな草原に、春に近い爽やかな風が吹く。
「あの、子供は産みます。でも、その、別に一緒に住まなくてもいいですよ?
神族では、あまり一般的ではないですし・・・。」
横島は、小龍姫に視線を送る。
「俺と一緒に住んだら、迷惑っすか?」
「そ、そんなことありません!!」
小龍姫が、慌てて叫ぶ。
横島は、じっと小龍姫を見つめている。
しばらくして、意を決したように言った。ガチガチに緊張している。
「小龍姫様!お、お、お、お、俺と、俺と、結婚してください!!
そ、その、俺、頼りないし、大した力ないっすけど、でも、小龍姫様のこと、
一生守りたいっす!俺たちの子供と一緒に!」
小龍姫は、しばらく横島を凝視していた。
横島は気が気でない。小龍姫の沈黙が、永遠に感じるような気がする。
やがて、小龍姫が横島の肩にそっともたれかかった。
「・・・違うでしょ?横島さん。」
「え?」
「3人の子供です。横島さんと私。そして・・・そしてルシオラさんの子供です。」
「小龍姫様・・・。」
「横島さん・・・。今でも、ルシオラさんのこと、好き?」
横島は、小龍姫から視線を外す。
そして、夜が明けつつある空を見上げた。
「ええ・・・。好きっす。今でも・・・。」
小龍姫は、安堵したように微笑んだ。
「よかった。」
「え?」
驚いたように、横島が小龍姫に視線を移す。
「好きじゃないとか、もう忘れたとか言ったら、横島さんのこと嫌いになるところです。」
「怒らないんすか?」
「どうして?」
「だって・・・、その、結婚を申し込んでるのに、他の女の子のことを・・・。」
「ルシオラさんは、横島さんでもあるじゃないですか。
それに、横島さんのことを、命がけで好きになった人。
そんな人を、私が怒ったり、嫌ったりすると思ったのですか?」
「・・・。」
「横島さんを、ルシオラさんが守ってくれた。
だから、私は横島さんを好きになることができたんです。
横島さんの命の一部となって、共に生きるルシオラさん。
命がけで好きなってくれたルシオラさんを、ずっと忘れずにいる横島さん。」
忘れた方が、ずっとずっと楽なのに。でも・・・。」
小龍姫は、横島へ最高の笑顔を向けた。
「でも、そんな横島さんだからこそ、私は好きになったんです。
横島さんが、永遠に忘れることの無い、ルシオラさんと一緒に。」
横島は、黙って小龍姫の話を聞いていた。
そして、再び空を見上げた。そのままじっとしている。
「・・・泣いているんですか?」
「な、泣いてなんかないっす!目にゴミが・・・。」
「ほら、しっかりしてください。そんなことで、私を幸せにできるんですか?」
「も、も、もちろんっす!!」
「ふふっ!」
幸せそうに微笑む小龍姫。
横島の頬に、ひとしずくの涙がつたっていった。
その涙は、横島自身の涙なのか。それとも・・・・・・。
横島は、空を見上げながら、呟くように言った。
「・・・小龍姫様。」
「ん?」
「俺、小龍姫様と出会えて、本当によかった。」
小龍姫は、優しそうに横島をしばらく眺めていた。
やがて、少しだけ戯けた風に横島へ語りかける。
「感謝してくださいね!神界でも、とびきりの私と結婚できるんですから。」
「・・・とびきり?」
「・・・なんですか?その間は!?」
「い、いや、ちょっと意表をつかれて・・・!ちょ、首を絞めないで・・・!」
「許しません!!」
夜が明けた。
山の頂から、太陽がゆっくりと顔を出してくる。
少し離れた木の影に、2つの人影があった。
「・・・ふられちゃいましたね。」
「そうね・・・。」
「横島さん、幸せになってくれますよね。」
「・・・そうじゃなきゃ、あたし達が許さないわよ。」
2人は、丘の上にいる横島と小龍姫を、嬉しそうに、そして少し寂しそうに眺めていた。
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1ヶ月が経った。
横島除霊事務所の面々は、既に田舎の事務所へ戻っている。
大龍姫が引き上げていった3日後、美智恵が神界の通達を持ってきたのだ。
その内容とは、横島忠夫の抹殺は、当分の間凍結される。ただし、監視は継続して行われる。
小龍姫は、神界への反乱を企てた罪により、当分の間、人間界へ追放処分となった。
追放で済んだのは、横島の監視を継続して行うというのが条件となっている。
ヒャクメは、譴責処分で済んだ。
小龍姫の人間界への追放に伴い、正式に妙神山管理人の職が解かれる。
それは、妙神山に縛られていた小龍姫が、自由に人間界を行き来することができる事を意味している。
裏で、老師と大龍姫が、必死に上層部を説得した結果だ。
そして今、事務所は大忙しになっている。
除霊のために忙しい訳ではない。1ヶ月以上、契約を履行できなかったので、
かなりの違約金を払うことになったが、辛うじて深刻なダメージには至っていなかった。
事務所が忙しいのは、急遽決まった結婚式の準備に追われているからだ。
その結婚式は、明後日に迫っていた。
結婚式は、唐巣神父の教会で行うことになっている。
「それじゃ、みんな!出発するぞ!」
そう言って、事務所の面々は車に乗り込んだ。
早苗を美神除霊事務所に預け、小龍姫と横島は、空港へ向かった。
到着ロビーで、小龍姫はソワソワしている。
「あの、横島さん。この格好、変じゃないですか?髪は乱れてないですか?」
「大丈夫っすよ。大体、あの馬鹿親共が、そんなのに気づきませんって。」
突如、背後からサバイバルナイフと、出刃包丁が突き出される。
横島は、サバイバルナイフを指で押さえ、出刃包丁は軽くかわす。
小龍姫は、隠していた御神刀を思わず引き抜きかけた。
「いきなりじゃねーか。糞親父。おふくろ。」
「ふん、ちょっとは腕が上がったみたいだな。」
「忠夫。母さんの突きをかわすなんて、なんて親不孝なの!?」
「ふざけんじゃねー!!大体、飛行機の中は刃物持込禁止だろ!
そもそも、なんで背後にいるんだ!到着は次の便じゃねーのか!?」
「ふっふっふっ!馬鹿息子の裏をかくのは、当然のことだろ?
ゲリラ相手の基本戦術だ!」
「忠夫。びっくりした?」
「誰がゲリラやねん!!」
小龍姫は、親子の対面を呆然と眺めていた。
『人間の親子って、こんな風なのかな??』
「小龍姫様。何考えてるか大体分かるっすけど、この馬鹿親共は、完璧に例外っすからね。」
「な、なんて事を!母さんは悲しい!」
「泣くな百合子!こんな奴は息子でも何でもない!」
「えーい、白々しい真似は止めろっつーの。まったく、恥ずかしいじゃねーか。」
「そうね。」
ケロッと百合子は復活する。
「さて、えーっと、あなたが小龍姫さん?」
「え、あ、はい!」
「忠夫!!!貴様どっから誘拐してきた!分かってるのか?
結婚目的の誘拐は犯罪なんだぞ!」
「いい加減にしやがれ!ボケ親父!」
いつの間にか、空港ロビー内は、横島親子と小龍姫を囲むように、人だかりができていた。
人だかりをかき分けるように、空港警察が駆け付ける。
「このあたりで、刃物を持った男女が暴れているという通報が!」
「ああ、それならここに・・・ぐはっ!!」
見事な連携で、横島のみぞおちに肘がめり込み、足の上にはスーツケースが落ちていた。
「はっはっはっ!そうか!尊敬する父に会えて、そんなに嬉しいか!」
「ほほほほほ!困った子ねえ・・・。痙攣するほど喜ぶなんて。」
のたうち回る横島の襟首をつかんで、怪しい笑いを発しながら、横島親子は空港を後にした。
小龍姫は何も言えずに、ただついて行くしかできなかった。
結局、美神除霊事務所に戻る。
「は?神族?このお嬢さんが?」
「つまり、神様ってわけなの?忠夫。」
横島と小龍姫、そして横島夫婦に早苗、美神除霊事務所の面々が揃っていた。
「多分、簡単には信じられねーだろうけど・・・ぶっ!!」
大樹が息子の頭をバンバン叩く。
「でかした!!でかしたぞ!忠夫!女神様の心を射止めるとはさすが俺の息子だ!」
「でも、見た目は人間と変わらないわねー。頭のツノ以外は。」
「このツノは、龍神族に備わるツノなんです。それで、その、私達の結婚を、認めて頂けるのでしょうか?」
「もう子供ができてるのよね?それに、あなたみたいな立派な方なんて、
うちの馬鹿息子にはもったいない位です。こちらから頼みたいくらいですわ。」
「ありがとうございます!!お義父様、お義母様!」
横島は、その様子を眺めていたが、何かを思い出したように話し出した。
「ああ、あと、俺、半分人間じゃねーから。」
「はあ?何言ってるのよ忠夫。」
「察してやれ。幸せすぎて頭壊れたんだ。」
「誰が頭壊れてるっちゅーねん。俺は半分魔族なんだよ。訳は今から話す。」
そして、今初めて、美神除霊事務所の面々も、ルシオラの事を全て知った。
「と言うわけだ。俺の体は、人間であった俺と、魔族のルシオラの霊基が
一緒になっているんだ。つまり、ハーフってことだな。正確にはちょっと違うけど。」
「ふーん。でも、忠夫は忠夫に変わりないのよね?」
「え?ああ、そうだけど。」
「それじゃ、なんの問題も無いじゃない。深刻な顔をするから、一体どんな言葉が
でるかドキドキしたわよ。」
「あの・・・それだけですか?お義母様。」
「小龍姫様・・・。こういう親なんす。」
他にも、幾つもドタバタがあったが、遂に、結婚式当日となった。
・・・続く。
今までの
コメント:
- 皆さんこんにちは。hoge太郎です。
プロポーズです。痒いですねえ(笑)。小竜姫様が、ただ横島を好きになっただけではなく、ルシオラも共に、受け容れて欲しかった。そんな想いで書き連ねました。この展開にはさすがに拒否反応を示される方は多いと思います。百合子と、小竜姫様の嫁姑関係で、火花を散らすシーンを書こうと思ったのですが、長くなりすぎますので、諦めました。まあ、これから一杯時間があることですし、いつかは火花を散らすことになるでしょう(笑)。
次回、最終話「新しき命」の1本をお送り致します。 (hoge太郎)
- ふっふっふっふっふ(しつこい)。いよいよ全てが円満に大団円を迎えるために、着々と進んでいる感じですね。ルシオラのことまでも受け入れることが出来る小竜姫さまの度量の大きさ(愛の力?←爆)に感服いたしました。相変わらずのトンデモぶりを発揮していた百合子&大樹が「らしい」感じでしたし(笑)。次回が最終話ということですが、果たしてどんなエンディングが用意されているのでしょうか? 楽しみにしております♪ (kitchensink)
- 気に入った展開ではあるのですが、親族との間に子供ができたからといって抹殺が説かれる理由にはならない、というかむしろ危険度があがっている(横島の子供は遺伝的には相当強い力を持つ可能性が高い)のではないかと思うので中立にさせていただきます。 (柿の種)
- 次回最終回ですか、期待しております。
神族の小竜姫との間に、子供が出来たことにより、子供を神族より−と言うか、神族に向かい入れる可能性が出てきた−事による、懐柔策の一環として横島の抹殺指令が解かれたのでしょうか??
しかし、そうすると、魔族側が横島抹殺を計るような気が……
一寸先走り過ぎですな(^_^;)
次回の西条氏の暴走、期待していたりして(^▽^ケケケ (黒川)
- おめでとうございます。小竜姫さま!横島君!
いいです、最高です。横島君と小竜姫様が結婚もう言う事と無しです。
妙神さんの管理人は、だれがなるのでしょうか?
それにしても、横島君の両親すごいですね、息子が半魔族化していると言うのにアッケラカントしたものです
小竜姫さまの事もすんなりと受け入れられるとは・・・・・
おキヌちゃんに新たな恋は出来るのでしょうか?(一寸気になります。)
小竜姫様の名前どうなるのでしょうか、神族に苗字ってあるのでしょうか。 (SRK)
- コメントありがとうございます。
kitchensinkさんへ
百合子&大樹夫妻は、書いていて本当に楽しいです。美神は対立、おキヌは断念との嫁姑関係。小竜姫様は、はたしてどうなるのでしょうか。エンディングは、オーソドックスな形になります。ただ、一つだけ遊びが入っていますが・・・。
柿の種さんへ
早速、言い訳モードへ入ります(笑)。
>親族との間に子供ができたからといって抹殺が説かれる理由にはならない
「親族」は、「神族」として解釈してよろしいですか?とりあえず、そのように解釈するとして、抹殺が解かれる理由。これは、ひとえに小竜姫様が絡んでいるからです。仰るとおり、危険は増したと解釈する方が自然です。ですが、その危険を排除するには、横島はもちろん、小竜姫様と、お腹の中の子供もろとも、抹殺する必要が出てきます。 (hoge太郎)
- ・・・続き
そうでなければ、危険の排除にはなりませんから。当初、神界上層部が命令を下したとき、小竜姫様は、上層部の思考の範囲外でした。ハヌマンも、そこまで考えていないでしょう。それが、子供ができてしまった。ということは、横島一人を抹殺しても、危険の排除にはならなくなったという「状況の変化」。加えて、大竜姫様&ハヌマンも、小竜姫を失いたくない。横島の時とは比べものにならないほど、必死に上層部を説得する。よって、抹殺から監視へ、命令が変化した。
とまあ、都合のいい解釈の流れです。
それに、「危険」がないと、今後が盛り上がらない・・・という噂も。今後があればの話ですが(苦笑)。 (hoge太郎)
- 黒川さんへ
面白い設定ですね。続きを書くことがあったら、設定を使わせて頂くかも・・・。ただ、魔族が受け入れることも可能だったりします。ルシオラ、ですね。それにしても、キャラが多い漫画は、最後の締めがきついです。まさか、全員を出演させるわけにもいきませんから。よって、西条はこぼれ落ちました。すみません。
SRKさんへ
ありがとうございます。喜んで頂き、ほっとしています。妙神山管理人の、筆頭候補はやはり、〜でちゅ!の方ですか(笑)。老師がバックアップすれば、なんとか職務を遂行できるかも。問題は魔族ということですか(爆)。魔族の登場人物は、結構いますが、神族側は、少ないですねえ。おキヌのお相手は、個人的にはあの人が・・・。呼び名については、やっぱり今のままがいいかな?と思っています。横島は、名前になるかもしれませんが。 (hoge太郎)
- 横島の両親……良心で言わない人だな。
この家庭に普通を求める方が厄介かもしれませんね。
さて、小竜姫は暫くの間人間界への追放処分ですね。
しかし、処分が解かれるとなると…この二人はどうなるんでっしゃろ?
横島は魔族×人間のハーフですから、ピートのように長生きしそうなんですけど……
またまた、小竜姫が神界に帰るかとかどうか、横島と何かもめたりするような、
ドラマ的展開が待ち受けているのでしょうか?
(さり気無く、続きをお願いしているわけではありませんので。) (ギャグレキスト後藤)
- hoge太郎さん、解答ありがとうございました。「親族」は「神族」のまちがいでした。すいません。「小竜姫妊娠によって、彼女と子供も抹殺対象となり、大竜姫が説得しようとする」といった展開までは想像でしました。しかし、中級神ひとりの説得では神界は動かせないだろうと思い、前回の疑問を抱いたのですが、ハヌマンのほうを忘れてました。彼は多分上級神ですから発言力も強く説得できてもおかしくないと思います。というわけで改めて賛成に投票させていただきます。 (柿の種)
- ギャグレキスト後藤さんへ
>横島は魔族×人間のハーフですから、ピートのように長生きしそうなんですけど……
はい。実は頭の中では、そう言う設定になっています。小竜姫様も長生きです。ハーフという設定は、片方の伴侶が老いて死んでしまうのは、悲しいという思いも込めて、設定しました。ドラマは・・・気持ちが向けば、また書き出すかもしれません(笑)。
柿の種さんへ
重ね重ねありがとうございます。ただ、ハヌマンは、中級神という設定だったりします。神族と魔族は、互いに牽制し合い、勢力の均衡を保とうとしていますよね。そういう意味も先のコメントに含めておくべきでした。すみません。 (hoge太郎)
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