ザ・グレート・展開予測ショー

FROM THIS DAY 〜第4話 後編〜


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 9/10)

「ねえ、高木さん」
ステーキの肉を上品に切り分けながら、魔鈴が思い出したようにさやかに話しかけた。
「はひ、なんへほう?」
さっきから物凄いペースでテーブルの上の食事を胃に送り込み続けているさやかは、
返事するのももどかしいといわんばかりの様子だ。
「口に物を入れたまま喋るなよ。さっぱり女らしくない奴だな」
聡がもっともだといえばもっともなツッコミを入れたが、
「うるはい!!」
鋭い肘打ちを食らってしまった。
「あらら、痛そうね〜」
愛子は食事をしていない。学校妖怪の彼女のエネルギー源は食事ではなく、学校にいることそれ自体だからだ。
食費がかからなくて良さそうなものなのだが、本人は寂しそうである。
「あなたのその刀、斬魔刀なんでしょ?銘は何なのかしら?」
「銘は、兼定です」
やっとのことで口の中の食べ物を飲み込んださやかが答えた。
「本当!?もしかして、二代目兼定?」
「もちろんですよ、初代や三代目じゃ家宝にしても仕方ないですもの」
「そうよね、やっぱり兼定は二代目に限るわよね」
「あのお・・・」
盛り上がる二人に割り込むように、聡が口を開いた。
「どうしたの?」
「何の話か良く分からないんですけど・・・」
愛子もうんうんと頷いている。
刀について話していることはなんとなく分かるが、専門用語が飛び交っていてなにがなにやら理解できない。

「この刀を造ったのは二代目和泉守藤原兼定っていう室町時代の刀工でね、
彼の刀は新撰組の土方歳三や戦国時代の武将細川幽斎が愛用したことで有名よ。
土方の使った兼定は日野市の指定有形文化財にもなってるわね」

さやかの説明を聞いて、聡は青ざめた。
「文化財・・・?その刀って大体いくらぐらいするの?」
「兼定自体は三千万を下らないわね。斬魔刀だったら、五千万に手が届くんじゃないかしら」
魔鈴の言葉に聡はさらに青ざめた。最早真っ白に近い。
「ご・・・ごせんまん・・・」
「あら、でも五千万くらいなら一回の除霊で稼ぐGSもいるわよ。
私は取り過ぎだと思ってるけど」
「その言葉、あの人が聞いたら一発で喧嘩ね・・・」
愛子が恐ろしそうに呟いた。
「えっ?それどういうこと?あの人って誰?」
聡の質問に、愛子は首を横に振った。
「聡君、世の中には知らなくていいこともあるの。知ってしまうと、二度と青春を味わえなくなるかもしれないわよ」
「・・・よくわかんないけど、詮索しないほうがいいってこと?」
「そういうことよ」
「それにしても、魔鈴さん詳しいですね〜。なんで斬魔刀についてそんなによく知ってるんですか?」
さやかはしきりに感心している。
「留学していたイギリスの大学のオカルトゼミで、一度日本の斬魔刀について調べたことがあるの。
高木さんのお家も凄いと思うわ。兼定の斬魔刀があるなんて只者じゃないわよ」
「えへへ、うちの『鏡心高木流』は江戸時代から続いていますから!」
「それとね、」
魔鈴は今度は聡に向き直った。
「聡君、あなたももしかしたら隠れた力があるかも知れないわね」
「ええっ!?僕がですか!?」
「うん、そうよ。・・・ねえ愛子ちゃん、あなたさっき刀のそばで何か見つけたでしょ?」
「はい、仕事中に失くしたヘアピンがそばに落ちてたんです」
「やっぱりそうか・・・」
魔鈴は納得したように微笑んだ。
「これは私の推測なんだけど、聡君の持つ何らかの力があの刀を通して増幅されて、
そして愛子ちゃんのヘアピンにひきつけられたんじゃないかと思うの。
妖怪の愛子ちゃんが身につけているものだったら、霊力を帯びてても不思議じゃないしね」
「なるほど〜」
ふむふむと頷く愛子。
「今のところさっき起きたのが何なのかは分からないけど、
聡君には何か特別な力がある可能性が凄く高いわね。
もともと人は、程度の差こそあれ何らかの霊的な力を持っているものよ。
後は訓練次第で伸びるか伸びないかが決まるの。
・・・だから高木さん、あまり彼のことを責めてあげないでね」
「あっ・・・」
さやかは思わずうつむいた。
魔鈴は喧嘩したときの二人のやり取りを知っていたのだ。
「でも、彼はまだ・・・」
「そう、素人ね。でも光るものはあると思うの。
・・・これは私の勘なんだけれど、聡君、あなたはエスパーかもしれない」
「エスパー?」
エスパー。
すなわち、超能力者。
自他共に認める凡人の聡とは、何万光年もかけ離れているはずの存在。
「ええ、そうよ」
「え・・・ええ!?」
状況を飲み込めない聡。
「あとね、除霊をやるということに関してきちんと確認を取らなかった私も悪いと思ってるの。
だからあなたに決めて欲しい。
今晩の除霊に、一緒に来てくれるかどうかを」
そう言うと、魔鈴は真っ直ぐ聡を見つめた。
「ええっ!?聡君知らなかったの!?」
「うん、そう・・・実はそうなんだ」
ついにこの恥ずかしい事実を全員に知られてしまった。
恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
「さあ、聡君。どうするの?」
(ど、どうしよう?)
聡は迷った。
やはり、除霊現場は怖い。
悪霊にやられて死ぬなんて、っぴら御免である。
しかし魔鈴は彼に期待しているという。
そのことを考えただけで、胸が熱くなる。
正直言って、誰かに期待されるということがこんなに嬉しいものだとは思ってもみなかった。
そして、何より。





「僕、除霊行きます!!」






理由は分からないけど・・・『あいつ』に弱い奴と思われたくはなかった。


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