ザ・グレート・展開予測ショー

FROM THIS DAY 〜第4話 中編〜


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 9/10)

「はああ〜、疲れた〜・・・」

客が帰った後の誰もいない店。
椅子に座り、テーブルにへたり込んでいるのは愛子である。

「キャッシャーがこんなに大変とは思わなかったわ・・・
お客さんがみんな一万円札を使うもんだから五千円札がなくなって千円札で八枚も九枚も数えてお釣り返さないといけないし、
お金出すのが遅い人が一人でもいたらもう後ろには長蛇の列ができてるし、
小銭ごまかそうとする人もいるし、
会計を十円間違えただけでプンプン怒り出す人もいるし・・・」

「あら、愛子ちゃんお疲れ〜」
さやかが手に竹刀袋のようなものを持って奥から出てきた。
「さやかちゃん、お疲れ様でした〜。・・・元気ね〜、さやかちゃん」
「ええ、私前にも少しファミレスでバイトしてたの。これぐらいなら慣れっこよ!」
さやかは満面の笑顔で答えた。今にも走り出しそうな活気が全身から溢れている。
そんなさやかを苦笑交じりに眺めると、愛子はふと気づいたように辺りを見回した。
「そういえば、聡君は?」
「さあ!?トイレにでも行ったんじゃないの!?」
「ど、どうしたのさやかちゃん?」
急に声色が変わったさやかに愛子がひるんでいると、厨房から聡が出てきた。
「あ、愛子ちゃんお疲れ〜」
「聡君、お疲れ様でした〜」
聡は愛子には挨拶したが、さやかには目もくれない。
「・・・どうしたの?二人とも」
「さあ、理由ならそこの貧弱な坊やにでも聞いたら?」
「そっちの性格ブスに聞いたほうがいいんじゃない」
「なんですって!?」
「なんだよ!?」
「そ、そそそそうだ!さやかちゃんそれなあに?見た感じ竹刀みたいだけど・・・部活剣道部なの?青春だわ〜」
愛子は慌てて話をさやかに振った。よく分からないが、ただ事ではない。
「ああ、これ?これはねえ・・・」
それまで喧嘩をしていたことを忘れたかのように、さやかが嬉しそうに袋から中身を取り出した。
「わっ、すご〜い!これ本物?」
袋に入っていたのは、古めかしい鞘に納まった一振りの刀だった。
造られてから長い年月が経っているのだろうか、鞘の中なのにも関わらず異様なまでの威圧感を放っている。
「ええ、そうよ。わが高木家の家宝なの」
「こいつの家剣術道場なんだ。それでこんな、しとやかさのかけらもないような女に育ってしまったわけ」
「ほほう、喧嘩を売っているのかしら?」
「じゃ、じゃあちょっと持たせてくれない!?」
またも険悪なムードをかもし出す二人の間にはいるように、愛子はさやかに頼んだ。
「いいわよ、はいどうぞ」
「よっと・・・きゃ、何これ!?」
刀を手にした途端、愛子は椅子から転げ落ちそうになった。
「重いぃぃ〜!」
「あら、なかなかやるじゃない」
こともなげにそう言い、まるでおもちゃのバットでも持つかのように愛子から刀を受け取るさやか。
「な、なんでそんなに軽々と・・・」
「この刀はね、『斬魔刀』っていって、その名のとおり『霊的存在を斬る霊刀』なの。
今愛子ちゃんが持ってて重かったのは、この刀を持つときは常時霊力を注いでいけなくて、
慣れてないと一気に霊力を持ってかれちゃうからなのよ。
ちなみになんでそんなことしないといけないかっていうと、
この刀は特殊な物質でできているんだけど、
持ち主が霊力を注ぐことによってその物質が反応して、
斬りつけた際に対象となる霊的存在の霊基構造に直接ダメージを与えるという仕組みになってるからなのよね」
「ふ〜ん、そうなんだあ」
「愛子ちゃんはかなり筋がいいわよ。普通は二秒と持っていられないもの・・・あ、そうだ!」
さやかは急に、それまで横で成り行きを傍観していた聡に向き直った。
「あなた、ちょっとこれ持ってみなさいよ!」
「え・・・、なんでだよ」
「あなたが除霊現場に行くのにふさわしいかどうか、試してみるのよ」
「嫌だよ、なんでそんな事・・・」
「あら?怖いのかしら?口では偉そうなこと言ってても、実はてんで駄目ってわけなのね〜」
「よ、よ〜し!そこまでいうならちょっと貸してみろよ!」
小馬鹿にしたようなさやかの薄笑いに、またしても聡はムキになってしまった。
(なんだ、こんな刀ぐらい!)
「よいしょっ・・・と!?」
さやかから刀を受け取った途端、あまりの重さに聡の腕は肩が外れかねない危険過ぎる勢いで下がった。
「あらあら、だらしないわね〜」
「は・・・はははなんのこれしき!」
さやかの嫌味にやせ我慢して笑ってみせた聡だが、腕はがくがくと震え額には脂汗が浮いている。
「・・・大丈夫?どう見ても限界よ?」
「はは、心配いらないよ愛子ちゃん!」
とは言ってみたものの、もう耐えられない。
(悔しいけど・・・もうだめだぁ〜)
聡は諦めて刀から手を離そうとした。



その時である。



「うわっ!?」
聡は自分の眉間で何かが閃くのを感じた。
続いて、形容のしがたい『何か』が体の中を駆け巡る。
血の中を鼠か何かが走り回っているような、そんな感じである。
「わああああ!!」
その『何か』は、刀へと伝わっていった。
奇妙なことは、その『刀へと伝わっていく』感覚が聡にしっかりあることだ。



「ちょっと、あなたどうしたの!?」
さやかが聡から刀を奪おうとしたが、それより早く刀は聡を引きずって店の出口へと物凄いスピードで進んだ。
「ひえええ!?」
やがて刀は、入り口のそばのレジのそばで急停止した。
「どわっ!?」
勢い余って、聡は無様に転がってしまった。
「いててて・・・」
刀は、ある一点を示すように、床に突き刺さっている。
「・・・あら?」
聡に駆け寄ってきた愛子が、刀の突き刺さっている地点にしゃがみこんだ。
「これ・・・あたしのヘアピンだわ!無くなったと思ったらこんなとこにあったのね」
そんな愛子には目もくれず、さやかは聡に駆け寄った。
「大丈夫!?どこか具合悪くない!?」
「う〜ん・・・ぶつけた頭が痛いけど、他は大丈夫かな」
「・・・良かった・・・」
心底ほっとしたような表情のさやかを見て、聡はなんだか照れ臭くなってきた。
「心配したのかよ?結構アレだな、いじらしいじゃないか」
「も、もう!からかわないでよ!あ、あたしはねえ、刀が心配だったのよ!!」
「全く迷惑な刀だぜ。さすがは高木の家の家宝だ」
「ちょっと、それどういう意味!?」

「はいはい、二人ともそこまでね」

聡の胸ぐらをつかんださやかと、胸ぐらをつかまれて呼吸困難を起こしている聡が声のした方向に目をやると、
そこには大きめのトレイを持った魔鈴がいた。
「ほら、残り物だけど夕食持ってきたから、皆で食べましょ」


魔鈴のその言葉と、言葉以上に雄弁に物語る肉の焼ける香ばしい匂いを前にして、
二人はなすすべなく停戦した。








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