ザ・グレート・展開予測ショー

FROM THIS DAY 〜第4話 前編〜


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 9/10)


「オーダー入りまーす。『子牛の丸焼き ミノタウロス風』と『バッカス』をジョッキでそれぞれ二人前、お願いします!!」

聡の声に合わせて、厨房の様々な無生物たちがせわしなく動く。
ジョッキを乗せたトレイがふわふわと空中を動きピッチャーの下まで行くと、
ピッチャーの栓がひとりでに回り金色の液体を中に注ぎ込んだ。
向こうからは、肉の焼けるいい匂いが漂ってきている。

「オーダー入りま−す。『魔鈴魔法料理Aコース』三人前です!ラストオーダーで〜す」

さやかの『ラストオーダー』という一言を聞いて、聡は思わずその場に座り込んだ。
「ふあ〜、やっと終わりかあ」
「ほらほら、ぼーっとしない!まだ終わったわけじゃないのよ」
「はいはい・・・とほほ、こんなに大変とは思わなかったよ」
さやかの容赦ない叱責に、聡は渋々立ち上がった。
「あら?あなたバイト初めてだったの?」
「うん。もっと楽かと思ってた」

「ふふふ、甘いわね〜。働くってことはそんなに楽じゃないのよ?」
悪戯っぽく微笑むさやか。

(あれ、こいつこんなに可愛かったっけ?)
聡は思わず見とれてしまった。

「な、なによ?人の顔をじっと見たりして」
「い、いやなんでもない」
慌てて目を逸らす聡をみて、なにがおかしいのかさやかはクスクス笑った。
「変わってないわね・・・あなたって人は」
「そういう高木だって、全然変わってないじゃないか」
聡がムキになって反論すると、急にさやかの雰囲気が変わった。
「そう?・・・そう見えるかしら・・・」
何か、苦いものが胸をよぎっているのを必死でごまかすような、そんな様子。
「どうしたんだ?」
「ううん、何でもないの!そ、それよりさ、」
手を振り不自然なほど慌てながら、さやかは話題を変えようとする。
「初めてのバイトなんだったら、なんでわざわざここみたいな除霊をやってる危険なとこにしたの?
もっと楽なところいっぱいあるじゃない。しばらく見ないうちに勇敢になっちゃったのかしら?」
彼女にすればただおちょくっただけの事なのだが、聡は彼女の予測とは全く違う反応を返してきた。
「い、いや違うんだ!!」
聡は、追い詰められたような悲壮な声を出して青ざめたのだ。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
驚くさやかに、聡はこれまでの一部始終を包み隠さず話した。



「な、なんですって〜!?」
店じゅうに響いたのは、さやかの怒りを多分に含んだ大声。



「どうしたの!?」
さやかの余りの大声に、魔鈴が血相を変えて厨房に飛び込んできた。
「あ、いえいえ!大野君がオーダー間違えたって言うから、つい・・・」
「そう、それなら良かったわ。でも次からは気をつけてね。
大声出すとお客さんに余計な心配かけるから」
「はあい、すいません」
「聡君も慣れるまでは失敗も多いでしょうけど、できるだけ失敗は減らすようにお願いね」
「は、はい分かりました」
魔鈴は客席のほうへ引き返し、二人は思わず同時に安堵の溜め息をついた。
「って二人してほっとしてる場合じゃないわよ!
除霊やるって知らずに応募したって本当なの!?」
「・・・うん。すっかり見逃してたみたい」
「信じられない・・・だからあなたはアホなのよ」
「そ、そこまで言わなくてもっ・・・」
「それで、あなたはどうするつもりなのよ?」
何か不平を言いかけた聡をぴしゃりと封じ、さやかが質問を浴びせる。
「う〜ん、それがさ・・・色々考えたんだけど・・・えっと・・・」
「もう、なによはっきりしなさいよ!うじうじしてるとこまで前のまんまなんだから!」
「いや、だからさ、やっぱりここまで来てやめるのもなんだから、現場では逃げ回っていようかな・・・なんて」
これがウェイターをしながら考え抜いて出した結論だった。
これならバイトを辞めないでもいいし、うまく立ち回れば腰抜け扱いされずに済むかもしれない。
しかし、そんな聡の計画をさやかは一言であっさり否定した。

「駄目ね。そんな考えでいるなら悪いことは言わないからやめときなさい」

さやかの言葉には、冷たささえ宿っている。

「な、なんでだよ?」
「いい?除霊というのは常に命がけの危険な仕事なの。
素人でも経験者の監督のもとで使う道具を使ってやればできないことはないけど、
あなたのように逃げることしか考えていない人には絶対無理ね」
基本的に逃げることと女の事しか考えていなかった奴が最終的にいっぱしのGSになった例もあるにはあるのだが、無論さやかそれを知るわけもない。
「なんだよ、そんな言い方ないだろ!?」
思わず聡はかっとなって反論した。
これほど怒りの感情を面に出すのは、温厚というか気の弱い彼にしては珍しいことなのだが、本人にはその自覚はない。
相手が目の前の女の子だからか、それとも別の理由からなのか、
とにかく今の聡を見れば筑紫以下彼の友人たちはその変貌ぶりに驚愕するに違いない。
「わかったよ、ちゃんとやればいいんだろ!?ちゃんとやれば!!」
「な、なによ逆ギレ!?とことんかっこ悪い人ね!」
「大体、自分が除霊の名門の高校に行ってるからって偉そうにしちゃってさ!ほんとヤな奴だな〜」
「なんですって!?そんなこと一言も言ってないじゃない!!ああもう勝手にしたらいいわ!
悪霊に取り憑かれようが妖怪に食われようが知らないから!!」
「ふん、せいせいするよ。ほっといてくれてあ・り・が・と・う!」
「なんですって〜!?」

二人のボルテージがいよいよ最高潮に達しようとしたとき、呼び鈴が鳴った。
押しているのは『子牛の丸焼き ミノタウロス風』と、『バッカス』が乗ったトレイである。
「さっさと運びなさいよ!」
「言われなくてもやるよ!」






この後、二人は店が終わるまで一言も口を利かなかったのだった。













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