ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの物語(23)


投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 9/ 8)


小龍姫は飛び起きた。
早苗の悲鳴で目が覚めたのだ。
ふと、手に何かが当たる。文殊だ。【眠】の文殊は、輝きを失っている。
慌てて、ベッドから飛び出す。
散らかっている服を、まどろっこしそうに着ると、部屋を飛び出した。
玄関は開いたままだった。
そのまま、裸足で外へ飛び出す。

そこには、血の海に倒れている横島と、それを呆然と眺めている早苗がいた。

「横島さん!!!!」

駆け寄る小龍姫。
そのまま、最大出力でヒーリングをかける。
しかし、とてもではないが、間に合いそうにない。

「横島さん!横島さん!横島さん!横島さん!!」

ひたすら、呼び続ける小龍姫。
その願いが叶ったのか、横島の目がうっすらと開いた。
口が、僅かに動く。だが、声は出ていない。
手が、少しだけ小龍姫へ向けて動いた。
慌てて、横島の手をこぶしごと両手で包み込む。
横島は、ほんの僅かに微笑んだ後、そのまま目を閉じた。

「・・・横島さん?」

横島はもう反応しない。

「あああああああああああああああああああ!!!!!!」

小龍姫の慟哭が、響き渡った。


「・・・見てらんないのねー。」

ここは、神界。横島の様子をずっと、監視していたヒャクメは、
嘆き悲しむ小龍姫を正視できず、頭に繋がっていた機械を外した。
横島の抹殺を監視するように命令されたヒャクメは、ずっと見ていたのだ。


再び、横島除霊事務所前。

「生きて!生きてよ!!ねえ、横島さん!!」

小龍姫は、横島の手を握ったまま叫ぶ。
早苗は、小龍姫をやりきれない表情で見ている。
素人目にも、横島が明らかに手遅れであることは分かる。

まだ微かに息はあるが、横島の命の灯火は、まもなく消えようとしている。
救急車を呼んだところで、まず間に合わない。
小龍姫は、突如動きを止めた。

「・・・昔ヒャクメに教えて貰った技・・・できるか?」

そう言って、小龍姫は横島に乗り移ろうとした。
だが、普通の人間ならばまだしも、横島は魔族とのハーフ。
ヒャクメのように精通しているならともかく、殆ど使ったことのない小龍姫は、うまく乗り移れない。
焦りのため、余計にうまくいかない。横島の命の時計は、まもなく止まる。
突如、観覧車での会話が脳裏に浮かんだ。

『もし、ルシオラさんと逆の立場だったら、横島さんはどうしてましたか?』
『私も、同じ事をしますよ。』

自らの命と引き替えに、相手を助ける。
考えている暇はない。だが、小龍姫は実行しようとして、直ぐに動きを止めてしまう。
ルシオラは、妖毒によって霊基が壊れていく横島を助けるために、自らの霊基を流し込んだ。
しかし、今回は物理的な損傷によって命が消えつつあるのだ。前提が全く違う。

万策尽きた小龍姫は、掠れるような声で祈るように囁く。

「生きて・・・横島さん・・・・・・!」

早苗は、ふと、小龍姫の手が光っているのに気が付いた。
いや、正確には、小龍姫が握っている横島の拳が光っている。

「小龍姫様!手を見るだ!!」

早苗は、慌てて小龍姫に叫ぶ。
小龍姫は、初めてそれに気づいたらしい。
見ると、小龍姫が握っていた横島の手の中から、文殊が出てきた。
文殊には、【生】の文字が浮かび上がり、輝いていた。

「こ、これは!?そうか!!」

小龍姫は、瞬時に理解する。
文殊は、横島の手に握られていた。小龍姫は、それを包み込んで念を送り続けた。
小龍姫の念が、横島の手を中継して、文殊を発動させたのだ。
その文殊が、後一歩で死亡する横島の命を、引き留めていた。
早苗が叫ぶ。

「小龍姫様!まだ僅かだけど、息がある!!早く【治】の文殊を作るだ!!」

早苗は、横島が大怪我しても、【治】の文殊であっという間に復活するのを何度か見ていた。
小龍姫が、大きく頷く。
手のひらには1個の文殊しかなかった。だが、横島のポケットから、
数個の文殊が転げ出ているのを早苗が見つける。その文殊を横島の手と一緒に包み込み、
小龍姫は、念を送った。

神界では、ヒャクメが暗い顔をしていた。

「親友が苦しむ姿を見るのは、嫌なのねー。でも、任務だから、仕方ないかー。」

そう言って、再び機械を頭に付ける。
ヒャクメは驚いた。小龍姫と早苗が、横島を事務所に運び入れている。
それだけならば、死者を運び入れているのと変わらない。
だが、2人は必死に治療を続けていた。つまり、横島はまだ生きているのだ。
やがて、機械からは、小龍姫と早苗が、抱き合って喜んでいる姿が見える。

「どういうことなの?」

ヒャクメは驚いている。どう見ても、死ぬはずだった。
だが、現実に死んではいないらしい。
ヒャクメは周りをすっと見渡す。
そして、気づかれないようにトランクを持って、神界から姿を消した。

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「・・・う。」

横島が、小さな声を出した。

『あれ・・・?俺は確か死んだはずだったよな・・・。』

手を動かしてみる。だるいが、なんとか動かせるようだ。
その手を、胸に持っていく。傷はなかった。
周りを見渡してみる。ここは、横島の寝室だ。

「夢やったんかな・・・?」

その声に、反応した影があった。
視線を向けると、早苗が泣き笑いに近い表情で、横島を凝視していた。

「横島さん!?気がついただか!
小龍姫様!!横島さんの意識が戻っただよ!!」

小龍姫は、横島のベッドにもたれかかっていた。
文殊の発動と、連続のヒーリングで、疲労していたのだ。
早苗の声にバッと立ち上がり、横島を見る。
何か言うことが山ほどあるという顔をする。
しかし、出てきた言葉は、ありふれたものだった。

「・・・横島さん。気分はどうですか?」

横島は、小龍姫をじっと見る。

「俺、確か死んだはずっすよね。銃で撃たれて。
なんで生きてるんすか?」
「・・・。」
「・・・小龍姫様が必死になって助けたんだ。」
「そっか・・・。ありがとうございます。
・・・でも、小龍姫様。任務はどうするんすか?」

小龍姫は黙ってしまう。
その時、寝室の扉が開いた。
反射的に、御神刀を構える小龍姫。

「・・・やっぱりねー。生きてたのねー。」
「ヒャクメ!?」

驚きつつ、小龍姫は構えを解かない。
鋭い目つきでヒャクメを睨んでいる。

「何しにきたの?ヒャクメ。」
「そんな怖い顔をしないでよねー。
横島さんが生きてることを知ってるのは、私だけなのねー。」
「上層部へ報告するの?」
「・・・それなら、わざわざここまでこないのよねー。」

小龍姫は、構えを解いた。
ヒャクメは、安心したように横島に近づく。
おもむろに、トランクを開けて、横島に線を繋げようとした。
御神刀が、ヒャクメの首筋に当てられる。

「なにするつもり?」
「横島さんの体調を調べるに決まってるのよねー。
ちょっとは信用して欲しいわよねー。」

小龍姫は、御神刀を鞘に戻した。
ヒャクメは、キーボードを叩きながら、小龍姫に尋ねる。

「これから、どうするつもりなのー?
神界を裏切るつもりー?横島さんが生きていることは、直ぐにばれるわよー?」

小龍姫は、黙っている。
黙っているしかなかった。これからのことが、全く考えられない。
神界の索敵能力は、小龍姫もよく知っている。

「どこかに、異空間に繋がっている場所とか、強力な結界に包まれている
場所があれば、なんとかごまかせるかもしれないけどねー。」

横島の検査が終わったようだ。

「外傷はほぼ完治しているわねー。でも、大量の血が出ているから、
殆ど動けない筈なのよねー。輸血するか、最低でも1ヶ月じっとしてるしかないのよねー。
それにしても、よくこれだけ血が流れ出て、無事だったわねー。
さすがは、魔族とのハーフよねー。」

その言葉に、早苗が反応する。

「えっ?横島さんって、魔族とのハーフなのか?」
「あっ・・・。」

ヒャクメは、慌てて口を押さえた。
だが、横島が早苗に話す。

「ああ。俺は人間じゃねーんだ。3年前までは、人間だったんだけどな。
ところで、ヒャクメ様。結界があるところなら、いいんすか?」
「ええ。強力なやつなら、しばらくは大丈夫ですねー。」
「んじゃ、美神さんところに・・・。」
「それは止めた方がいいと思うのよねー。人間界にも、横島さん抹殺の要請が出てるからねー。」
「・・・そうっすか。」

四面楚歌である。
しばらく沈黙が続く。

「俺、ちょっと心当たりあるところがあるんすけど、そこへ行ってもらえないっすか?」
「それじゃ、わたすが運転するだ。」
「私も行きます。」
「ちょ、ちょっと待つのねー!小龍姫、本当に神界を裏切るつもりなのー?」

小龍姫は、決意を込めた目でヒャクメを見た。

「もう、私は後には戻れない。ヒャクメ、今までありがとう。」

横島は、小龍姫が神界を裏切るのを止めようと叫ぶ。

「小龍姫様、それは・・・!」
「黙りなさい。」

有無を言わさぬ小龍姫の声。
横島は、じっと小龍姫を見つめる。そして、諦めたように小龍姫に話しかけた。

「ほんと、馬鹿なんすから。小龍姫様は。」
「誰のせいで、馬鹿になったと思ってるんです?」

2人は、罵りあう会話をしながら、なぜか微笑んでいた。
ヒャクメはため息をつきながら、首を横に振る。

「・・・分かったわよー。私も一緒に行くわよねー。」
「えっ?」
「横島さんが生きているのを知っていて、黙っていたから私も同罪なのよねー。
それに、親友を見捨てる訳にはいかないわよ・・・。」
「・・・ごめんね。ヒャクメ。」
「礼は、逃げ切れてから言って欲しいわよねー。」

4人は、素早く荷物をまとめ、早苗の運転で、どこかへ向かって車を走らせていった。

・・・続く。

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