ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの物語(22)


投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 9/ 7)


時計が時を刻む音が、横島除霊事務所の中に静かに響く。
午後10時を回ったところだ。
事務所の前に、車が止まった。
しばらくして、横島が入ってきた。

「ただいまー。」

小龍姫は、ソファーに座っている。
微笑みながら、横島に声をかけた。

「・・・お帰りなさい。」

だが、横島がよく小龍姫を見ると、気づいただろう。
小龍姫の目が、全く微笑んでいないことに。
しかし、横島は疲れているらしく、特に気にとめた様子もない。

「ふーっ、疲れたっす。ったく、美神さんは相変わらず強欲なんだから!」
「食事はどうしますか?」
「あ、すんません。食ってきました。」
「そう。」
「今日は疲れたので、休みます。」

そう言って、横島は疲れたようにソファーから立ち上がる。
ほんの一瞬だけ、小龍姫の体がピクリと動く。
横島は、あくびをしながら、背中を見せている。隙だらけだ。

「・・・お休みなさい。」

短い会話が終わった。
横島は、そのまま寝室へと向かう。
また、数時間が経過した。

床がきしむ音。
横島の部屋へ向かう人影。
やがて、横島の寝室の扉が開いた。
妙神山での服に身を包んだ、小龍姫が立っている。
手には、御神刀が握られていた。

ゆっくりとベッドへ向かう小龍姫。
やがて、横島が寝息を立てているすぐ隣にたどり着く。
小龍姫は、無言で御神刀を逆手に持ち、ゆっくりと振りかぶった。
大きく息を吸う。
剣が、勢いよく振り下ろされた。

虫の鳴き声がかすかに響いていた。

横島はまだ寝息を立てている。
振り下ろした御神刀が、横島に触れる寸前で止まっていた。
横島の部屋にある時計の音が嫌に大きく聞こえる。
時間がゆっくりと過ぎていった。

「・・・どうして止めるんすか?」

横島の静かな声が、静かな寝室に響いた。
小龍姫は無言だ。やがて、静かに問う。

「・・・いつから気づいていたのです?」

横島は、先ほどから身じろぎ一つしていない。
目も閉じたままだ。

「3ヶ月ほど前、小龍姫様の任務について、パピリオから電話が
あったんすよ。盗み聞きしたと言って。それに・・・。」

小龍姫は黙って聞いている。

「それに、昨日から、ほんの僅かなんすけど、殺気を感じていました。
それも、人間じゃない霊気を発した連中がです。」
「・・・分かっていたなら、なぜ逃げなかったのです?」
「逃げたところで、どうしようもないっすよ。相手が人間ならば、
逃げ切れるかも知れませんが、神魔族じゃね。」
「どうして、私の剣に抵抗しないのです?」

また、沈黙が部屋を支配した。
・・・やがて、横島がポツリと呟く。

「・・・どうしてでしょうね。俺にもよくわかんないっす。
死ぬのは嫌だけど、でも、小龍姫様ならいいかなって。
小龍姫様が、俺を殺し損ねた場合、神族としての立場が悪くなるんすよね。
どうせ死ぬなら、わけのわからん連中に殺されるよりも・・・。」

しばらく横島が言葉を止める。

「・・・そんな連中に殺されるよりも、
・・・大切な人にやられた方がいいかなって。」

小龍姫は、何もしゃべらない。
横島の背後で、ゴトンという音が聞こえた。
しばらくして、横島は目を開けて、小龍姫を見る。

「・・・横島さん。・・・横島さん。」

小龍姫は泣いていた。子供のように泣いていた。

月明かりに浮かび上がる寝室の2つの影。

やがて、そのうちの1つの影が、少しだけ躊躇したように動いたあと、
もう一つの影を包み込むように重なった。

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夜明けだ。

横島は、ゆっくりと起きあがった。
隣には、小龍姫が幸せそうな顔をして寝息を立てている。
横島は、小龍姫を起こさないよう、そっとベッドから出る。
手のひらに気を集中させる。文殊が現れ、【眠】の文字が浮かび上がった。
その文殊を、そっと小龍姫の傍らに置く。文殊が発動し淡い輝きを放つ。
小龍姫を、ちょっとやそっとで起こさないためだ。

『小龍姫様の性格から言っても、もしかしたら神族と戦おうとするかもしれない。
それは、明らかに神界への反乱だ。いかに神剣の達人でも、神魔界を敵にして
生き残れるとは思えない。・・・すんません、小龍姫様。お元気で。』

横島が、じっと小龍姫を見ていた。優しい目だ。
やがて、横島は服を着て部屋を出て行く。

『この事務所は既に囲まれているな。とりあえず、逃げれるだけ逃げてみるか。
逃げ切れればいいんだけど、どうやって逃げようか・・・。』

横島はポケットに手を突っ込む。
そこには、現在横島が作れるだけの文殊が入っていた。

『包囲しているだけで、手を出さないということは、小龍姫様の合図か何かを
待っているのかもしれねーな。だったら、自然な振りをして外に出て、超加速で振り切るか。』

ポケットに手を入れたまま、いつでも文殊が発動できるようにしながら、
横島は玄関へ向かって歩いていく。

『もし、このまま死んでも、大切な人を守って死ぬんだ。
許してくれるよな・・・?ルシオラ・・・。』

玄関を出た。
自然な振りをして、あたりをゆっくりと見渡す。
特に変わった様子はない。しかし、ほんの僅かな殺気を感じる。
相当熟練したものでないと感じない僅かな気だ。あちこちの草むらや木の陰かららしい。
ゆっくりと足を踏み出す。自然な振りを心がけるが、なかなか難しい。

ふと、胸に衝撃を感じた。
胸を見る。血が噴き出していた。
数秒遅れ、遠い銃声が響く。数キロ先からの狙撃だった。

『・・・くそっ、周りの連中は、囮だったのか!』

そう毒ずくと、横島はゆっくりと仰向けに倒れた。
老師が示した、48時間の期限が、ちょうど切れていたのだ。
横島はそこまで知らない。

急速に薄れゆく意識の中で、必死に文殊を発動させようとする。
しかし、ピクリとも体が動かない。

『・・・ごめん、小龍姫様。・・・ごめん、早苗ちゃん。
・・・ルシオラ・・・。』

草むらの影で、数人の特殊部隊隊員が、横島の様子を眺めている。

「ターゲットの生命反応、まもなく消失します。」
「頭を外したか・・・。念のためだ。前の2名。とどめを刺せ。」
「了解。」

対魔族用の狙撃銃で、狙撃されたのだ。
放っておいても、間違いなく死ぬだろう。だが、特殊部隊は完璧に任務を
こなさなければならない。横島相手に、わざわざ狙撃などという大仰な
手を使ったのも、横島に文殊を発動させる隙を作らせないためだ。
文殊なしの横島が相手だと、隊員一人でも十分なのである。

精霊石弾を装填した拳銃を構えた隊員2名が、素早く横島に近づこうとする。
その時、異変が起こった。
軽自動車が近づいてきたのである。

「隊長、どうしますか?」
「・・・ターゲットの生命反応は?」
「殆ど消失しています。あと数分かと。」
「我々は、現地人に姿を見られてはならない。よし、撤収する!」

事務所の周りから、風のように気配が消えた。

「わったすは可愛い早苗ちゃん〜♪」

謎の歌を口ずさみながら、早苗の軽自動車が、事務所に入ってくる。
車を止めて、玄関を見ると、横島がいた。

「なにやってるだべ?また、小龍姫様の機嫌を損ねて、叩き出されただべか?
邪魔だから、さっさとどくだ!」

そう言って、横島に近づく。
広告のチラシを見ながら歩いているので、横島の様子に気が付かない。

「もう!邪魔だからさっさと・・・!?」

チラシから顔を上げた早苗は、そのまま固まった。

早苗の悲鳴が響き渡った。

・・・続く。

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