ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの物語(21)


投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 9/ 6)


「・・・!」

小龍姫は、ハッと横島を見る。さっきまでの横島ではない。
一見普段と変わりないように見える。だが、その目は、悲しみを湛えていた。

『横島さん・・・。』

胸が締め付けられるような想いに囚われる小龍姫。
ゆっくりと観覧車が動いている。まだ登っている最中だ。
ふと、横島が口を開いた。

「・・・小龍姫様。夕日はなんで綺麗なのか、わかりますか?」
「え?」

しばらく間が空く。

「昼と夜の狭間。僅かな時間しか見ることができないから、綺麗なんすよ。」

小龍姫は、夕日を見る。

「・・・ルシオラさんの言葉ですか?」

横島は答えない。ただ、じっと夕日を眺めている。
しばらく、沈黙が続いた。横島は、夕日を眺めながら、ゆっくりと呟いた。

「俺は、まだ気持ちの整理が付いていないんすよ。
ルシオラが、俺を助けるために死んだこと。そのルシオラの体が、
俺の一部となって、俺の中で生きていること。
・・・俺はこんな事を望んだんじゃない。あいつが生きていてくれれば、
それでよかった。あいつのためなら、どんなことでもするつもりだった。
だけど、何もできなかった。あいつは、俺のために命を捨てた。だけど、
俺は何もできずに、のうのうと生きている。」

小龍姫は、何か言おうとしたが、言葉が出ない。
横島は、堰を切ったように話し続ける。興奮しているようだ。

「本来、今生きているのはルシオラの筈だったんだ!アシュタロスの呪縛から逃れ、
元気一杯に笑っているはずなんだ。だけど、現実は俺みたいな屑が生き残ってる。畜生!!」
「生き残ってるじゃない!!!」

突然大きな声をあげる小龍姫。

「ルシオラさんは、横島さんの体の中で生き残ってるじゃない!
どうしてそんなこと言うの?どうして横島さんが屑なのよ!
横島さんを命がけで守ったルシオラさんが、そんなこと言ったの?
誰が屑なんて言ったのよ?ねえ、答えなさいよ!!」

小龍姫は、横島の胸ぐらを掴んでいた。
小龍姫の突然の激昂に驚いた横島は、言葉が出てこない。

「・・・横島さん。もし、ルシオラさんと逆の立場だったら、
横島さんはどうしてましたか?」

手を離しながら、横島に優しく問いかける。

「・・・すんません。俺、今日はどうかしてたみたいです。」
「答えて。」

また、沈黙が続く。
ポソッと横島が呟いた。

「多分、俺も同じ事をしたと思います。」
「私も、同じ事をしますよ。」

少しの間をおいて、横島がゆっくりと顔を上げる。
横島の目は、悲しみや後悔ではない、優しい光を湛えていた。
小龍姫も同じ目をしている。

2人は、しばらく見つめ合っていた。何もしゃべらない。
真っ赤な夕日の中を、観覧車がゆっくりと動いている。

小龍姫は、ずっと心に思っていたことを尋ねた。
どこかで、聞いてはいけないという声が聞こえるような気もしていた。

「ねえ、横島さん。横島さんは、どうして強くなりたいの?」

横島は、少しだけ視線を下げる。

「・・・ルシオラさんを助けに行くため?」

横島は、視線を小龍姫に戻した。小龍姫の目は、不安で一杯になっている。

「そうっすね・・・。」

小龍姫の目が、グッと閉じられた。体が震えている。

「助けに行きたいっすね。助けに行って、あいつを引っ張って来たいっす。
でも・・・。でも、それは駄目っす。だって、あいつは俺でもあるんですから。」

ゆっくりと目を開ける小龍姫。

「俺が強くなりたいのは、もう二度とあんな思いをしたくないから。
大切な人を、これ以上失わないために。」

小龍姫は、横島を見た。横島は小龍姫を見ていた。

「・・・もう、二度とあんな思いはしたくない。」

小龍姫を見つめながら、もう一度呟く横島。
小龍姫の目から、不意に涙がこぼれ落ちる。

「・・・不思議っすね。俺は、誰にもこんな話をしたことなかったのに。
やっぱ、小龍姫様が、・・・その、俺の大切な人だから・・・なのかな。」
「・・・馬鹿。」

係員は、人が乗っている観覧車が近づいたので、待機していた。
夕日でよく見えなかったが、2つの影が、重なったように見えた。
観覧車が、終点に着く。
係員が、扉を開くと、2人は手を繋いで、雑踏の中に消えていった。
2人の顔が真っ赤だったのは、夕日のせいだったのだろうか。

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数日が経過した。
横島は、朝早くから東京へ行っている。美神に、報告と除霊の相談のためだ。
早苗は、今日は出勤しない。明後日は仕事があるので、出勤の予定だが。
小龍姫は、事務所でテレビの音を後ろで聞きながら、洗い物をしていた。
鼻歌が聞こえる。

事務所の電話が、電子音を響かせた。
パタパタとスリッパの音を鳴らしながら、小龍姫は電話をとる。

「はい。横島除霊事務所です。
あ、老師!お久しぶりです!パピリオは元気にしてますか?
ごめんなさい。妙神山へ顔を出そうとは思っているのですが、なかなか暇が無くて・・・。」
「いや、それはよい。それよりも、今一人か?」
「ええ。」
「そうか。」

しばらく、老師が黙る。

「あの?老師?」
「・・・小龍姫。任務はまもなく終わる。」
「え?任務?・・・あ、監視の件ですね。終わるということは、監視が解除されたんですね!」

また、沈黙が入る。

「小龍姫。お主に上層部より昇進命令だ。妙神山管理人から、神界での勤務に変わる。
中級神への第一歩じゃぞ。」
「ええ!?」

小龍姫は驚いた。通常、神族や魔族の地位は滅多に変化しない。
神格が高くなればなるほど、それは顕著となる。もちろん、例外はあり、実力のある下級神などが、
中級神へ昇格することは、たまにある。つまり、小龍姫はその例外に選ばれたということだ。
ただ、昇進したから必ずしも昇格するわけではなく、これから長い試練が待ち受けているのだが。
何れにせよ、望外の名誉であることには変わりはない。

しかし、小龍姫の顔は冴えない。昇進は嬉しい。だが、神界勤務ということは、もう滅多に人間界を
訪れることはできない。それは、横島や早苗との別れを意味していた。

「・・・でも、私は今、除霊の修行中でして。」
「それはもう必要ない。」
「でも・・・。」
「任務を完遂したら、昇進じゃ。滅多にないチャンスじゃぞ?」
「え?でも、監視は解除されたんじゃ?」

老師の声が、急に事務的なものへ変化した。

「妙神山管理人、小龍姫。そなたに、神魔族最高幕僚会議の正式命令を伝達する。」
「はっ!」

小龍姫は、慌てて電話の前で姿勢を正した。

「横島忠夫を処分せよ。期限は、現在より48時間以内。この命令の拒否は許されない。」
「・・・・・・・・・・・・え?」

小龍姫の表情が固まった。

「復唱はどうした。」
「でも、そんな、どうして!」
「・・・よいか、小龍姫。この命令は絶対じゃ。命令を拒否することは、反乱と同義となる。
そんな基本的な事を言わせるんじゃない。」
「しかし!!」
「これが、上層部の下した最終結論じゃ。大昔、文殊が使える魔族がいて、それにより神魔人界が
大混乱した記録が、処分の根拠じゃ。因果律に大きな狂いが生じてな。」
「納得できません!!!!」

小龍姫は大声をあげた。
だが、老師の次の一言で、絶望の表情になる。

「・・・既に、神魔族特殊部隊が、小僧をマークしておる。」
「特殊部隊が!?」
「そうじゃ。神魔族の中でも、戦闘のエリート中のエリートじゃ。お主では到底太刀打ちできぬ。
48時間というのは、ワシがなんとか上層部から引き出した妥協案なんじゃ。
お主が小僧を処分できなかった場合、自動的に特殊部隊が、小僧を処分する。
・・・この電話は、当然監視対象となっておる。わかるな?小龍姫。」
「・・・・・・ですが・・・。」
「まだわからんか!!お主は、龍神族の名を汚すつもりか!上級神の命令は絶対じゃ!!」

龍神族の名を汚す。小龍姫が最も恐れていることの一つだ。
龍神族は、神界で名を轟かせている、名門中の名門。小龍姫はその末端に位置しているが、
それでも、誇りは他の龍神族に負けるつもりはない。
しばらくの沈黙の後、小龍姫は抑揚のない、しかし、はっきりとした声で答えた。

「・・・了解しました。妙神山管理人、小龍姫。横島忠夫を48時間以内に処分します。」
「成功を祈る。」

それだけ言うと、電話が切れた。
小龍姫は、電話を持ったまま、じっとしていた。
電話を置く。

小龍姫はゆっくりと振り返った。その目は、冷たい光を発している。

「上級神の命令は絶対。」

それだけ呟くと、小龍姫は御神刀の位置を確かめた。
夜になった。
電話が鳴る。電話をとる小龍姫。

「・・・はい。横島除霊事務所です。」
「あ、小龍姫様。俺です。ちょっと今晩は戻れそうにないっす。
明日も、結構色々まわるので、明日の晩くらいには、帰ります。」
「・・・気を付けてくださいね。」
「ありがとうございます!それじゃ!」

電話が切れる。
小龍姫は全くの無表情だ。

『私は誇り高き龍神族。上級神の命令は絶対。』

次の日の夜が訪れた。

・・・続く。

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