ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(9)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/ 9/ 5)

 一瞬の出来事に呆然としていた愛子であったが、立ち直りは早かった。

 『ピート君、ねえピート君、お願い!、バンパイアミスト使って二人を追いかけて。』

 『えッ、えッ、ああだめですよ、それは。先生に除霊のとき以外はバンパイアの能力を使っては
  いけないと言われているんです。それに、霧になって外に出たら風にまきこまれてどこに飛ば
  されるか解りませんよ。』

 愛子は揺すっていたピートの腕をはなすとタイガーを見る。

 『じゃあタイガー君のテレパシーで二人の思念波を追跡できない?』

 「わっしもまだ、たまにエミさんのコントロールがないと暴走しそうになることがあるケン…。」

 『もうッ!霊能者が二人もいるのに、なんで肝心なときに役にたたないのよッ!。』

 『まぁまぁ愛子さん落ち着いて。』

 「あまりしつこいと横島さんに嫌われますケンここは引いたほうが…。」

 『そうですよ。それに今度埋め合わせするって横島さんも言ってたじゃないですか。それを信じて
  今回はあきらめましょう。』

 『……。』

 愛子は暫くうつむいていたが、やがて顔をあげるとニコリと笑った。

 『…ごめんなさい。とりみだしちゃって二人に酷いこと言っちゃった。』

 慰められて落ち着いたのか、愛子は二人に向かってペコリと頭を下げた。

 『いいんですよ、そんなこと。』

 「そうそう、わっしら別に気にしてないケン。」

 実際は、先ほどの会話に驚いた周りの乗客の視線の方が気になっていたので、二人はやれやれと
胸をなでおろした。だが次の瞬間、

 『ごめんなさいついでで悪いんだけど、今日は二人にはつきあってもらうわよ。』

 『へ、なんにですか?』

 『決まってるじゃない。やけ食いよ。ああ、このつらい想いも青春なのねッ!。』

二人はピシッと凍りついた。


 その晩、ピートとタイガーは夢をみた。夢の中で二人は除霊に失敗し、悪霊に捕まると次から次
とムリヤリにケーキを口の中に押し込まれた。ウンウンうなされ、やっとの思いで目をさますと、
二人は声の限りに叫んでいた。

 『「横島さん、恨んでやるーーッ!!」』


 ピートとタイガーが愛子を宥めていたころ、横島達もピート達とは反対方向に向かう列車の中に
いた。乗車駅から二つめの駅で降りると、結城の部屋まではそこから歩く。すでに横島は煩悩全開
状態で、鼻の下を伸ばしながらぶつぶつ独り言を呟いている。心が完全にあちらの世界に逝ってい
たので、結城は幾度か、横島が車のはしっている横断歩道を渡ろうとするのを、学生服の襟首を掴
んで停めねばならなかった。
 15分後、二人は結城の部屋の前に立っていた。横島の興奮はすでに頂点に達していて、まるで
発射直前のスペースシャトルのようである。ぐずぐずしてるとドアを突き破って部屋の中に飛び込
みそうな勢いだったので、結城はあわててドアを開けた。横島は物も言わずに飛び込むと、教えら
れてもいないのに、本能的に目指す部屋へと突進していった。やがて目的の部屋の前に立つとドア
を開けて、

 『おねーさんッ!、生まれる前から愛していましたッ!!』

と、一声叫んで部屋の中の人物に向かって飛びついていった。だが、人間技とは思えぬ跳躍を見せ
た横島の体は、

 『アテンションッ!!私語を慎めッ!!』

という裂帛の気合にも似た命令を浴びると空中で直立不動の姿勢になり、まるで見えない壁にぶつ
かったかのように急停止すると、そのまま垂直に落下してしまった。

 「へッ?、なんであんたがここにいるんだ?それにその格好は…。」

 頭の中のピンクの霧が晴れ、正気に戻ると目の前になぜかワルキューレが立っている。しかもい
つもの軍装ではなく、Tシャツの上から男物のシャツをはおっただけというかなり色っぽい姿だ。
彼女は袖を肘まで捲り上げた両手を腰にあて、心持右脚に体重をかけるようにして、こちらを睨ん
でいる。横島の視線はシャツの裾からスラリと伸びた、ワルキューレの艶めかしい太ももに釘付け
になった。

 『大体弛んでるぞ!これが敵の罠だったらどうするつもりだ!戦士たるもの常に警戒を怠らず…
  オイッ、聞いているのか!。』

 あまりに情けない横島の行動に、ワルキューレはついいつものように説教をはじめたが、横島の
ほうはある可能性に思い至りそれどころではなくなっていた。女が男の部屋しかも寝室にいてこの
ような格好をしているということは、つまり…。妄想が妄想を生み、収集がつかなくなった。

 「ゆ〜〜う〜〜き〜〜」

 横島が腹の底からしぼり出すような声をあげる。目からは血の涙が滴り落ち、形相が一変していた。

 『……!』

 あまりの禍禍しさに思わずワルキューレの説教がとまる。続いてとんでもない言葉が結城とワルキ
ューレの鼓膜を襲った。

 「てめぇ、このネーチャンとヤッたんか!!!」

 『「え?」』

 二人の思考が停止する。横島はクルリと結城のほうへ振り向くと、追い討ちをかけるようにその
胸倉を掴んでブンブンと揺さぶりながらさらに叫び続けた。

 「このネーチャンはなぁ、このネーチャンはなぁ!、いずれ俺のものになると決まってたんや!!
  その時には(ピー)や(ピピー)や(ピピピー)まで思う存分やってやろうと楽しみにしてたの
  に、アッサリ横から掻っ攫いやがって!!」

 「お、おまえ、なに訳のわからんこと言ってるんだ!。」

 よほど恐ろしい形相をしているのだろう、結城の腰が引けている。

 「と〜ぼ〜け〜る〜な〜。さあ吐け。このネーチャンとヤッたんだろ。」

 さらに横島が結城に詰め寄ったとき、どこかで『ブチッ!』とワイヤーがちぎれるような音がした。

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