冷気
投稿者名:トンプソン
投稿日時:(02/ 9/ 3)
声は、姿は、記録として残す事ができる。
だが、そ奴に感じていた感謝なぞ、どんなものにも残すことができなくて─
ひらひら、と写真が一枚戸棚から落ちた。
「何?コレ」
その女性は、こんなとこに写真なんかあったカシラ?などと呟きながら拾い上げ、くるりと返し見る。
「……」
瞬時、女性の息が止まった。
それは、写真である。
さる場所の観光写真。ただそれだけの写真。
その柔らかな風景とは裏腹に、ありえない霧が見受けられる。
どす黒い影は見事にある魔物の姿である。
当たり前だが正当な生物でない瞳。
それこそ、邪悪を具現化した姿。
この世界のどこにも存在しない悪魔が映し出された写真。
ずいぶんと長い時間、その写真を女性は、手にしていた。
ぴくりとも動かずに。
つい、と指を動かしゆっくりと、写真をなぞる。
「まさか、オタクの写真があったなンテ」
呟くように言う言葉には力がない。
いつ、紛れ込んだんだろうか。
そして、奴はどういう気まぐれでこの写真を戸棚の中に、入れていたのだろうか?
きっと、『お前を見てるぜ』と、作り笑いで言うつもりだったのだろうか?
ずん、と胸が痛んだ。
もう、忘れかけていた、自責の念から生じるであろう痛み。
「オタク・・」
びりっと、写真を破き女性は、言う。
「どういう風の吹き回しなワケ?」
搾り出すように。
写真から見てやったるよ、とでも言いたげな。
「ずっと傍に、いたかったワケ」
ちいさく
「…でももう嫌。出てこないでほしい」
なきそうな、声で。
欲しくなかった、いては駄目だった、たったひとりの悪魔だったはず。
映像で見ても、声を聞いても仕方が無い。
見てしまうのも、嫌だ。
聞いてしまうのも、なんて嫌だ。
そこに、確かにもういないことをきちんと確かめたい。
だが
もう一度自分の言葉を聞いて欲しい、決別の意思を奴に言いたい。
自分の姿を入った瞳を絶望に変えないで。
だが、もういない。
ならばいっそ、忘れたいのに。
自分の忌まわしい記憶だけでいいのに。
だが確実にその悪魔の『カケラ』を残す。
それは、確かに奴がワタシに取り付いていた証明なのだけれども。
だけど、
記憶の中でない、奴をみてしまうと
なぜか苦しくなるのだ。
ここに居ない事を喜ぶはずなのに、泣きたくなるのだ。
肌の黒い女性は、もう一度何事かを呟き、そしてぎゅっと目を閉じた。
FIN
hazuki氏のオマージュでっす。
さぁ、誰と誰だ??
今までの
コメント:
- 似たような境遇の二人が他にも居るからこそ、このオマージュは作れるのだと思います。残念ながら、39巻は未読なのですが、話によるとこれは「エミ&ベリアル」のようですね。何時か、トンプソンさんにオマージュをして頂けるような良い文章を書きたいと思います(何時になることやら←汗)。あと、短いコメントがエラーするのは「無言で反対票などを複数入れていく」という行為が増えてきたため、その対処との事です(C-WWW掲示板より)。 (マサ)
- 比較すると、横島よりもこのエミの方が強く、前向きに思えます。
やっぱり大人の女なんだなぁ。 (黒犬)
- 「短いコメントはダメ」ということになっても、全く問題の無い私って一体...(もっとダメ)。毎度トンプソンさんのオマージュ作品では普通では考え付かないようなキャラが登場人物として登場しますね。今回のエミ&ベリアル(かな?)についても私なら絶対に思いつきませんし(笑)。エミの場合も横島クンと同様に、過去の苦い記憶を思い出させてしまうために、写真を(表向きには)嫌っている素振りを見せてますね。全く違ったキャラを登用しながらも、「骨子」はhazukiさんの作品に従っているあたりがさすがでした。投稿お疲れ様です♪ (kitchensink)
- うわーい嬉しいなあ♪
久々だあっ(踊ってます)。つーか流石ですトンプソンさんうちの駄文がここまでよくなってるし…は、そういえば夕闇???…いえなんでもないです(汗 (hazuki)
- おおお、またもやオマージュ作品ですね!
毎回あっと驚く展開が楽しみなのですが、今回も意表を突かれたって感じです!! (ヨハン・リーヴァ)
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