ザ・グレート・展開予測ショー

温度。


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 9/ 2)

声は、姿は、記録として残す事ができる。
けれど、そのひとのもっている暖かさは、どんなものにも残すことができなくて─

ひらひら、と写真が一枚本から落ちた。
「なんだ?」
少年は、こんなとこに写真なんかあったけ?などとボヤキながら拾い上げ、くるりと返し見る。
「……」
その瞬間、少年の動きが止まった。
それは、なんの変哲もない写真である。
ひとりの少女が、照れくさそうに笑っている、ただそれだけの写真。
その柔らかな笑顔から、幸せだという事がよく伝わる。
艶やかな黒髪は耳のところで刈りそろえられている。
悪戯っぽく光る大きな瞳。
それこそ、ぬけるような白い肌。

もうこの世界のどこにも存在しないひとの、写真。

ずいぶんと長い時間、その写真を少年は、見ていた。
ぴくりとも動かずに。

つい、と指を動かしゆっくりと、写真をなぞる。
「まさか、写真があるとは…なあ」
呟くように言う言葉には力がない。
いつ、撮っていたのだろうか?
そして、どんな気持ちでこの写真をこの本の中に、入れていたのだろうか?
きっと、『気付かなかったでしょ』とでも笑いながら言うつもりだったのだろうか?

ずきん、と胸が痛んだ。
もう、何度も襲うけれど、ずっと慣れることのないであろう痛み。

「ばか、やろー」
くしゃりと、写真を握りつぶし少年は、言う。

「ちゃんと言えよ」
搾り出すように。

写真があるんだよって笑いながら

「ちゃんと、傍に、いろよ」
ちいさく

「…写真なんかほしくねえんだよ」
なきそうな、声で。


欲しいのは、いてほしいのは、たったひとりのひと。

映像で見ても、声を聞いても仕方が無い。
見るだけ、なんて嫌だ。
聞くだけ、なんて嫌だ。
そこに、確かにいることをきちんと確かめたい。
自分の言葉を聞いて欲しい、そしてその言葉を聞きたい。
自分の姿を入った瞳を見たい。

その確かな、暖かさを感じたい。

なのに、いない。


ならばいっそ、なにもいらないのに。
自分の記憶だけでいいのに。
こんな風に、その彼女の『カケラ』を残す。
それは、確かに彼女がここにいた証明なのだけれども。

だけど、

記憶の中でない、彼女をみてしまうと

苦しくなるのだ。

ここに居ない事を思い知らされるようで、泣きたくなるのだ。


少年は、もう一度「ばかやろう」と呟き、そしてぎゅっと目を閉じた。

おわり

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