ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(8)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/ 9/ 2)

 振り返ると見知らぬ男子生徒が立っている。名前が思い出せないので愛子に訊ねてみた。

 「なあ愛子、あいつだれだ?」

 『フゥ…。横島君て本当に女の子以外には全く関心がないのね…。結城健一君よ。3年3組の。』

 「あたりまえだ。俺の脳みその中に男の名前などはいる余地はない。」

 胸をはる横島にジト目で答え、威張れることなのかしら?と胸の中で呟く。結城はそんな会話など
気にした様子も無く近づいてきた。

 「これからデートってところ邪魔して悪いんだけど、ちょっとつきあってくれないか?」

 「見てのとおり先約があるんだ。また今度にしてくれよ。」

 久しぶりの自由時間をヤローと過すなどまっぴらなので即座にことわる。

 「まいったな…。どうしてもだめなのか?」

 結城はさらに近づいてくると、横島の耳元でなにごとか呟く。すると、横島の表情が一瞬その名前
のごとく変化し、すぐにもとに戻った。それは普通の人間なら気がつかないほどのものであったが、
さすがに愛子は女のカンでそれに気付き、抗議の声をあげようとしたが、その機先を制するかの様に
横島が口をひらいた。

 「愛子、わりぃ。ケーキの方はまた次の機会にってことにしてくれねーか?。こっちの方はどうし
  ても今日じゃないとダメらしいんだ。」

 『そんな!、こっちの約束のほうが先じゃない!。』

 「本当にゴメン。この埋め合わせは今度必ずするからさ。」

 『もうしらない、横島君のバカァー!!』

 さらに言い募ろうとする愛子に手を合わせて二三度ペコペコと頭をさげると、ピートとタイガーに
じゃあなーと声をかけ、結城をつれて脱兎のようにかけだした。

 (まったく、本当に鈍い人じゃノー。)

 (これじゃ愛子さんがかわいそうですよ。)

 後ろでヒソヒソ話す二人を尻目に愛子はしばらく沈黙していたが、やがておもむろに口を開いた。

 『いくわよ、ピート君、タイガー君。』

 『「へぇ?」』

 『いくって、ケーキ屋ですか?』

 『なにいってんの。横島君の後をつけるにきまってるじゃない。あれは絶対女よ。どんなやつか顔
  を見てやるわ。』

 霊能者である二人の目には、愛子の背後にメラメラと燃え上がる紅蓮の炎がみえた。その迫力に圧
倒されながらもタイガーが口をはさむ。

 「後をつけるといっても、その机持ったままじゃとムリだとおもいますがノー。」

 『タイガー君、私がたかが学校妖怪だからって、なめないでほしいわね。日々成長しているのは人
  間だけじゃないのよ。』

 愛子はそういって、自分が座っていた机をヒョイと持ち上げると、目を閉じて精神を集中する。す
ると、机は徐々に輝きだし、やがてその光が消えたとき、机もどこかに消えていた。

 『えッ、愛子さん、机をどこにやったんですか?』

 驚いて訊ねるピートに対して、愛子はそれまで握っていた右手を開いて見せた。そこには消しゴム
サイズの机のミニチュアがあった。

 『私の引出しの中が異空間だってことはしってるわよね。今私は机を構成する分子構造の大部分を
  まびいてそちらに移したの。その結果がこれってわけ。大体10時間程度ならこの状態を維持で
  きるわ。』

 愛子は少し得意げに説明すると、机をスカートのポケットにいれた。

 『その机は愛子さんの本体でしょ。それにそんなことして本当に大丈夫なんですか。』

 分子構造を間引くという言葉に、以前横島から聞いた女性のことを思い出して不安になったが、当
の愛子はあっけらかんと、

 『みんな私のことを誤解してるわ。私の本体は机じゃなくって、机にこもった想いよ。机は単なる
  拠代にすぎないの。だから、最悪でもいまくらいあれば消滅することはないわ。さあ、そんな事
  よりさっさと二人を追うわよ。早くしないと見失っちゃう。』

 二人の手を掴むと引きずるように歩きだした。



 「おい、おまえの従姉って本当にいい女なんだろうな。」

 横島は校門を出ると、駅に向かって歩きながら結城に訊ねた。

 「愛子にはなにかと世話になっているんだ。それを怒らせてまでつきあってやるんだから、それ
  なりの価値がなかったら承知しねーぞ。」

 「その心配はご無用。顔も体も超一流さ。」

 「具体的にどんな感じなんだ。」

 「そうだな、体は藤原○香をダイナミックかつシャープにした感じ。顔つきはちょっときつめで
  全体的な印象はメスの黒豹といった感じか。」

 「そんないい女をなんで他人に紹介するんだよ?」

 「気が強いんだよ。俺は気の強い女はだめなんだ。その点おまえはなれているだろう?おまえん
  とこの所長有名じゃないか。」

 「まあ、なれていると言えばなれているけど…。」

 そんなことを話している間に駅前の商店街にはいった。すでに夕食の準備をする客で大分賑って
いる。二人がある書店の前にさしかっかたとき、結城がちょっと欲しい本があるといって中にはいっ
たため、横島はしかたなく店頭の週刊誌などを手にとってパラパラみながら結城を待つことにした。

 一方、愛子たちは、

 『もう、立読みなんかしてないで、さっさと次いきなさいよ。私たちそんなに暇じゃないんだ
  から。』

 と、横島達に見つからないように隠れたデパートの影で、かなりじれていた。もっとも、愛子の
後ろにいる二人は、

 (こんなことしている僕達ってかなり暇人ですよね)

などと呑気に考えていたのだが。

 そうこうしている間に横島達は駅につき、ちょうどホームに停車している列車に乗り込んだ。結城
が乗り込んだドアのすぐそばに立ったので、横島もその脇に立つ。愛子達も同じ車両の少しはなれた
場所に乗り込んでいた。やがて、ホームに発車時刻を告げる音楽が響き、ドアが閉まりかけた瞬間、
結城は横島の襟首を掴むとホームに飛び出した。

 『「あッ!」』

 三人は驚いて声を上げたが既にドアは完全に閉じてしまい、列車はゆっくりと動き出した。ホーム
では結城がニコニコと手を振っている。横島はポカンと口を開けていた。次第に遠ざかっていくその
姿を三人は黙って見詰ていた。

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