ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(7−1)


投稿者名:K&K
投稿日時:(02/ 8/31)

(6−2 からの続きです)

 だが、これを利用しないてはない。あいつの文殊の治癒効果が魔族にも有効なのは、以前、消滅
しかけたグーラーを蘇らせた話をきいて知っている。自分は上級魔族なので、強力な分必要とする
魔力も莫大で、グーラーの時ほどの効果はのぞめないだろうが、少なくとも精霊石の影響を除去す
るくらいはできるだろう。右肺のほうも治癒のきっかけくらいはつかめるかもしれない。
 問題はあいつに自分の存在がばれた場合、いずれは美神令子を通じて美神美智恵に話が伝わって
しまうであろうことだ。あの女性との関係はいまのところそう悪いわけではない。だが、話が伝わ
れば、私情は一切抜きで動きだすだろう。いまの状態では正直なところやりあいたくない相手だ。
 しかし、それを恐れてここに留まっていても体調は好転しそうもないし、この結城という青年も
どこか得体のしれないところがあり、ずっといっしょにいるのは危険だと感じる。横島に関しては
文殊をせしめた後、目いっぱい脅しつければ口を割るまでに1,2日は時間を稼げるだろう。その
間に地下に潜ってしまえば、そう簡単に見つからない自信もある。何よりも今はまず、自由に動け
るようになることが先決だ。
 瞬時にそう判断すると、ワルキューレは続けた。

 『ひとつ頼みたいことがあるんだが。』

 なんだ、とでも言うように結城がこちらを見る。

 『タイガーやピートに気付かれないように、横島をここにつれてきて欲しい。』

 「なんのために?」

 『あいつの文殊を使えば私の回復を早めることができるかも知れない。』

 「あいつ、そんなことも出来るのか・・・。」

 『どうなんだ、やってくれるのか、くれないのか…』

 「まあ、そのくらいどうってことないけど、日時は約束できないぜ。あいつ、あまり学校に来な
  いからな。」

 『解った。頼みをきいてくれて感謝する。』

 「じゃあ今度はこちらからお願いだ。」

 『・・・。』

 一瞬緊張する。

 「こちらとしては、怪我人にさっさと出て行けというつもりはない。だけど、周りとのトラブル
  はごめんだから、春桐さんには化物だということがばれないようにして欲しい。」

 化物という言い方にカチンときたが、とりあえずわかったと答える。

 「それと人にきかれたら、俺の従姉で田舎から職探しに出てきていて、部屋が見つかるまでの間
  いっしょに住む予定だと答えるから、春桐さんも話を合わせてくれ。」

 これももっともなので了承する。

 「以上だ。さてと、今日はもう疲れたし明日は学校もあるから、俺はもう寝るよ。春桐さんはそ
  のベットを使ってくれ。」

 結城はひとつ伸びをすると椅子から立ち上がった。

 『それだけか?』

 思わず聞き返す。

 『ほかにもなにか望みがあるんじゃないのか?』

 「そうだな…。じゃあ、もし抱かせろって言ったらどうする?」

 結城の顔を睨みつける。

 「冗談だよ。さっさと体を直して出て行って欲しいだけさ。」

 結城はそれだけ言うと部屋から出て行った。

 『フゥ…。』

 ワルキューレは一つ溜息をつくと、座っていたベットにゴロリと寝転んだ。気を張っていたので疲
れたのか、すぐに睡魔が襲ってくる。それに逆らって目を開いていると先ほどの会話が蘇ってきた。
結城に軽くあしらわれている自分が少しなさけなかったが、そんな思いもやがて睡魔に抗しきれず、
消えていった。


 そのまま2日が過ぎた。その間ワルキューレは必要なとき以外は殆ど眠ってすごしていた。体が
本能的に魔力を傷の回復にあてようとするため、長時間高いレベルの意識を保っているのが困難な
のだ。起きていられる短い時間は新聞やテレビからの情報収集にあてた。今のところ、あの事件に
関しては、敵が双方の死体も含め、証拠となりそうなものを全て始末したのか、魔族軍の関与を示
す具体的な情報はあがっていないようだ。警察当局およびオカルトGメン本部は、被害者の仕事上
のトラブルとオカルトテロの両面から捜査を進めていくとコメントしていた。被害者自身のあまり
良くない評判も、事件の背景を複雑なものにしていた。
 結城とは、目を覚ました日以降、必要な場合以外はあまり言葉を交わさなくなっていた。どうや
ら、他人のことによけいな干渉はしないというのが彼の基本的な態度のようで、ワルキューレの事
をしつこく聞いてくることもなく、かといって全く無視しているわけでもなかったので、彼女にと
ってこの部屋は結構居心地がよい場所になってきていた。

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