ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの物語(14)


投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 8/30)


横島と小龍姫は、早苗の運転する軽自動車に乗っている。

「いやー、助かったよ。早苗ちゃん!」

横島は、後部座席で愛想笑い全開だ。
しかし、早苗は氷点下の声で返してくる。

「ふざけるんでねーぞ。今日はバーゲンだったのに、行きそびれたでねーか。」
『ううー。この女は嫌いだあああ!しかし、背に腹は代えられんし・・・。』

小龍姫も、早苗は苦手であった。
先日、早苗に完膚無きまでに言い負かされ、あまり会いたい相手ではない。
しかし、やはり今の危機的状況では、横島の提案通りにするしかない。

「ご迷惑をおかけします。」
「本当に迷惑だ。」
「あう・・・。」

悔しいけど、言い返すことのできる状況じゃない。
そうこうしているうちに、氷室神社についた。

「いらっしゃい。横島さん。」
「どうも、こんにちは。氷室さん。」
「どうぞ、奥へいらしてください。」
「お邪魔します。」

奥の部屋で、お茶を一口飲み、早苗の父は口を開いた。

「ところで、電話で仰っておられた、相談したいこととは?」
「えっと、実は・・・」

早苗の父に、掻い摘んで要点を話す。
除霊の修行をしたいこと。それには、GSの事務所を開くか、
誰かの下につかなければならないこと。今は、そのあてが無いことなど。

「なるほど、話はわかりました。横島さんほどのお方が、
GSの事務所を開かれたら、成功は間違いないでしょう。」
「そういって頂けるのはありがたいんすけど、先立つものが無くて・・・。」
「幾らおありなんです?」
「えっと、軍資金と俺の小判の給料合わせて、2百万ほど。」
「ふーむ・・・。」

早苗の父は、考え込んでしまった。
横島と小龍姫は、顔を見合わせる。
早苗は興味なさそうに、庭で遊んでいる雀を眺めていた。
突如、早苗の父は立ち上がると、電話をかけた。

「・・・ええ。そうです。・・・はい。まだ大丈夫ですね?
それで、すぐにご足労願いたいのですが。・・・はい。お願いします。」

チンという音と共に、早苗の父は戻ってきた。

「しばらくお待ちください。うまくいけば、なんとかなるかもしれません。」
「え?どういうことなんすか?」
「それは、依頼人がきてから、ご説明します。」
「はあ。」

待つこと小一時間。
中肉中背の中年の男が、部屋に入ってきた。
町の、不動産会社の社長らしい。

「ご足労をおかけします。社長。」

そう言って、2人は別の部屋へ入っていった。
しばらく待っていると、社長が帰ったらしい。
早苗の父が部屋に戻ってきた。

「うまくいきました。横島さん。百万で、物件を譲って頂けることになりました。」
「百万!?なんでまた、そんな安いんです?
・・・というか、そういう異常に安いのは、大概・・・。」
「ご想像の通りです。除霊をする代わり、安く譲ってくれと頼みました。
通常だと、三千万の除霊代がかかり、ずっと放置されていた物件なんですよ。」
「なるほど。でも、そういうやつじゃないと、手に入らないよな。
わかりました。氷室さん、どうもありがとうございます!」
「その代わりと言ってはなんですが、横島さんに一つお願いがあるのですが・・・。」

早苗の父は、なにやら意味深な顔をする。

「なんでも仰ってください。氷室さんのおかげで、光が見えてきたんすから!」
「ありがとうございます、横島さん。実は、そこにGSの事務所を開かれたら、
早苗を雇っていただきたいのですが。」
「へ?」

横島は、一瞬意味がよくわからなかった。
ゴンッ!という鈍い音が聞こえる。そちらを見ると、早苗がこけて
頭を柱にぶつけていた。

「な、な、な、何言ってるんだべ父っちゃ!!」
「お前、前にGSになりたいって言ってたじゃないか。
あのときは、GSのオフィスが近くに無くって、諦めさせたけど、
今回の物件は、ここから車で30分くらいだ。家から通えるぞ?」
「よりにもよって、なんで横島さんの事務所に行かなくちゃならねえんだ!
わたすが憧れるのは、美神さんのような人だべ!
横島さんとは、対極にいる人だ!」
『こ、こ、この女あああああ!!』
「美神さんがこんな田舎に事務所を構えるわけないだろう。」

あきれたように、早苗の父は言う。
突然、小龍姫が口を開く。

「ご好意はありがたいのですが、やる気のない人を雇っても、
足手まといになるだけだと思うんですけど。」

小龍姫は、横目で早苗を見る。
以前に言われたことを、まだ根に持っているようだ。
早苗のこめかみが、ピクピクと動いた。

「ほーお、以前は全く役に立たなかった神様が、
随分と偉そうなこと言うもんだべ。」

小龍姫のこめかみにも、ビシッと青筋が走った。
一触即発の状態。

「わ、わかりました。とりあえず、アルバイトという形でも
よければ、雇います。いえ、雇わさせて頂きます!」
「横島さん!?」

小龍姫は、横島の言葉に驚いて振り向く。

「小龍姫様。除霊事務所ってのは、最低3人のチームが必要なんすよ。
あっと、これは俺の経験からなんすけどね。
それに、俺と小龍姫様だけで、書類とかお札とか、扱えますか?」
「う、それは・・・。」
「ちょっと待つだ!わたすは行くとは一言もいってねーぞ!」

横島は、早苗の方へ体ごと振り向く。
真剣な目をしていた。

「あらためて、お願いします。早苗ちゃん、
事務所に来てもらえないでしょうか?」

突然真剣な顔をした横島に、改めて請われ、

「え・・・でも、わたすは攻撃のお札を使うのが苦手だし・・・。」
「攻撃については、俺と小龍姫様が担当するよ。
俺と小龍姫様のチームで、最大の弱点は、後方支援が無いこと。それと封魔や結界技術なんだ。
お札を使って、霊の進入を防いだり、空間を長期的に浄化したり。
俺の文殊は、それなりに強力だけど、持続性がない。
この前の早苗ちゃんの除霊作業を見ていたんだけど、俺よりもよっぽど上手なんだ。
あと、書類とかもあるし。給料はそれなりに出すよ。あ、まあ、最初は
ちょっと厳しいかもしれないけど。どうかな?早苗ちゃん。」
「だども、神社のお仕事があるし・・・。」

早苗の父が、横島の援護射撃を行う。

「神社の仕事は、私がやろう。お前は、思うとおりの道を進んだ方がいい。」
「だども・・・。」
「私からもお願いします。」
「え?」

思わぬ人物から声がかかる。小龍姫だ。

「悔しいけど、除霊に関しては、私よりもずっと優秀ですから。
もし、早苗さんがいないと、横島さん一人に負担がかかってしまうし。」
「・・・すかたねえな。そこまで言うんなら、雇われてやってもいいだ。
横島さん。それから、・・・小龍姫様。これからよろしくお願いしますだ。」

横島は、やった!という表情をし、そして小龍姫は、一瞬複雑な表情をしたものの、
早苗を見て頭を下げた。

「よろしくお願いします。早苗さん!」

横島除霊事務所(予定)の新しいチームが誕生した。

メンバーは、横島忠夫、小龍姫、そして氷室早苗。
経験も知識も未熟ながら、その道ではトップクラスの実力を持っている。
最大の問題は資金難であるが、まずは最初の仕事を突破しなければならない。

その日は氷室家に泊まった後、次の日の朝3人は、
早苗の車に乗り、現場へと向かっていった。

・・・続く。

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