ザ・グレート・展開予測ショー

FROM THIS DAY 〜第3話〜


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 8/29)

「あと、店を閉めた後に依頼の入っている除霊に行くから」



それまで笑顔でいっぱいだった愛子の表情が、急に引き締まる。
聡はそれとは逆に、聞いてはいけないものを聞いてしまったかのように・・・あるいは幽霊を見てしまったかのように、青ざめている。
「場所は普通の住宅街。なんでも、2週間辺り前から突然霊障が起こったそうよ」
もちろん魔鈴の表情も、真剣そのものである。
「考えられるのは、呪いあるいはどこかから強力な奴を連れて帰ってしまったってとこね」
状況を冷静に分析する愛子。『青春よ〜!!』を連発していたときとは別人のようである。
「そうね。でも依頼者は恨まれるような感じの人ではなかったから、後者が有力ね」
魔鈴が愛子に合わせてうなずいた。もはやこの時点で聡はかやの外である。
「今の季節は霊が活発になるし、旅行にいってその旅行先で憑かれたって考えられますものね」
「夏の旅行かあ・・・青春だわ〜」
愛子の発言が少し元に戻ったようである。
割り込むなら今のうちだろう。
たった一言、「除霊はできないです」とそういえばいいのだ。
「あの、僕除霊は・・・」
そこまでいいかけて、聡は口をつぐんでしまった。



「そうだわ、聡君は霊力高いの?」
「あたしも学校で除霊委員してるんだけど、聡君もそんな感じ?」



二人の美女が向けてきた興味津々の視線。
それをまともに食らっては、言葉がすぐには出なくなるのも道理である。
「ああ、その・・・除霊経験は、ないんですよ〜。それで・・・」
それでも聡は何とか言葉を絞り出したのだが、
「大丈夫大丈夫!私の知り合いのGSに、もともと霊能力がほとんど表に出てなかったのに、
GS助手としての様々な経験を通して遂には一流の能力を手に入れた人がいるの」
魔鈴が途中で遮り、心配無用といわんばかりに手を振った。
「そうよねえ・・・彼、ホント頼もしくなったな・・・」
愛子も魔鈴に同調する。一瞬どこか雰囲気が変わったように感じたのは、聡の勘違いだろうか。
「あ、いえ、その・・・」
どうも聡の真意が誤解されているらしい。聡は焦った。
その人が誰かは知らないが、やはり元から霊力を持っていたに違いない。
天才と凡才では人種が違う。期待されても土台無理な話である。
「ですから、その・・・」
「あっ、そうだ!厨房について説明しないといけないわね。
二人ともちょっと来てくれる?」
聡をまるっきり無視して魔鈴が立ち上がった。
「はーい。わかりました〜」
「あ、あの・・・」
「なにしてるの聡君?こっちが厨房だから早く来て」
「は・・・はい」
聡は心の中で泣いた。



厨房に入った途端、繰り広げられていた光景を前にして聡は息を飲んだ。
(こ・・・こりゃすげえ!!)
それは、人智を超えたある意味メルヘンチックな光景。



皿が流しの中で、ひとりでに動き自らの体を洗っている。
包丁がこれまたひとりでに動き、人参やら大根やらを刻んでいる。
そして手の生えたボウルが空中浮遊し、刻まれた野菜を自分の中に入れては煮立っている鍋の中に放り込んでいる。



「す、すごいわ〜・・・」
愛子も、自分だって超自然的な存在であることを忘れて見入っている。
「ふふふ、これが魔女の力よ」
驚く二人に、得意げな表情の魔鈴が言った。
「細かい味付け以外は全部こうやって魔法を使ってるの。
作業にばらつきがないから、味にもむらが出ないのよ。それで・・・」
魔鈴が指を鳴らすと、手の生えた箒が現れた。その手の上に黒い猫が一匹乗っている。
「あっ、これ見たことがある〜!この箒が料理を持って来てくれたわ」
「愛子ちゃんは、お客さんで何度か来てくれたものね」
驚きで声も出ない聡を尻目に、さすがは妖怪というべきか、愛子はもう馴染んでしまっている。
「初めましてニャ〜」
今度は箒の上の猫が口を利いた。
「うおっ!?」
心臓が止まろうかというほどの驚きに、出なかった聡の声が飛び出した。
「この子も知ってる!注文を取りにきたのよねっ」
「ウェイターをやってるのニャ!よろしくニャ」
「聡君、この子はベテランだからウェイターの仕事で分からないことがあったらなんでも聞いてね」
「しっかり働くのニャ。怠けたら許さないのニャ!」
箒の上で猫がふんぞり返って言った。やたらと偉そうである。
「はあ、よろしくお願いします」
少しムッとしたが、とりあえず聡は普通に挨拶しておいた。
何か特殊な能力を持っていて、ひどい目に合わされないとも限らない。
「今まではこれで十分だったんだけど、お客さんが増えてきて対応しきれなくなってきたのよね〜」
魔鈴がため息混じりに言った。
「最近のご主人は魔力の使い過ぎでお疲れなのニャ」
「そういうわけで、君たちには頑張って欲しいの。よろしくね!」
「はい、任せといて下さいな!ねっ、聡君♪」
「は、はあ・・・」
(どうしよう、もう手遅れ?)
「すいませ〜ん」
入り口のほうから女の子の声がした。
「あ、やっと来たわね」
「もう一人のバイトの子ですか?」
「うん、愛子ちゃんにも聡君にも紹介まだだったわね」
(あれ・・・どっかで聞いたことある声だな)
心のどっかで引っかかる。でも思い出せない。
つい最近まで聞いていたような気がするのに。
「?どうしたの聡君」
魔鈴に聞かれ、聡は我に返った。
「い、いえ、なんでもないです」
「そう、それじゃあ行きましょうか?」



「あの〜、この前来たバイト志望のものなんですけどお」

入り口にいたのは、ポニーテールの少女。
『陽の気』を全身から発散していて、彼女を見るもの全てに、底なしの好感を与えそうな感じである。



「確かこの時間でよかっ・・・て、あああっ!」
少女は現れた聡を見て大げさなほど驚いた。

「ああっ、高木!?」
聡も同時に驚いた。

「あら、どうしたの?お知り合い?」
「そうなんです魔鈴さん。この子と僕は中学のときの知り合いで」
そう話す聡の顔には、無意識のうちにだろうか笑顔が浮かんでいる。
思い出というものは、人を笑顔にするものなのだろうか。
「はい、私大野君とは同じ中学だったんです!えっと、名前は『高木さやか』っていいます!」
「あら〜?もしかして元カレ・元カノって奴〜?青春だわ〜」
「ち、違います!」
「そんなんじゃないです!」
愛子のからかいに、二人が同時に反応した。
まるで波長を合わせたかのごとくぴったりである。
「え、ええ。わかったわ」
二人のあまりの剣幕に、たじろぐ愛子。
(ふ、触れちゃ駄目だったのかしら?)
「仲が良いみたいでよかったわ」
魔鈴はほっとした様子だ。
「これなら仲良くなる薬を一服盛らなくても大丈夫そうニャ」
「こら!それは喋っちゃ駄目っていったじゃない!
それに、仲良くなる薬じゃないわ。お互いの良さに気づきやすくなる薬よ!」
「どっちもあんまり変わんないニャ」
「?何の話ですか?」
愛子に聞かれて、魔鈴はあわてて手を振った。
「ううん、なんでもないの」

「そういえば、高木は結局どこの学校へいったんだ?」
聡がさやかに聞いた。
「言わなかったっけ?六道女学院よ」
聡の額に脂汗が浮かぶ。
「な、何年何組?」
「何年って、一年に決まってるじゃない。クラスは、B組よ。
今度友達呼ぼうと思ってるの。氷室っていうとっても可愛い子よ。バスであったことない?」









運命の女神は、時として残酷である。










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