ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの物語(12)


投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 8/28)


次の朝。
横島はパピリオと掃除を終え、朝食をとり、修行場で小龍姫を
待っていた。

「なあ、パピリオ。小龍姫様はどこへ行ったんだ?」

パピリオは、眷属である蝶と戯れている。

「聞いてなかったんでちゅか?小龍姫は、老師に呼び出されてたでちゅよ。」
「ふーん。んじゃ、俺たちは何をしてればいいんだ?」
「鬼の居ぬ間に洗濯ってやつでちゅ。」
「鬼じゃねーだろ。小龍姫様は、龍神族なんだから。」
「細かいことを気にする男は、もてないでちゅよ?」
「へいへい。」

そのころ、小龍姫は老師のもとにいた。

「来たか。小龍姫。」
「ちょうど私もご相談したいことがありましたので。」
「ふむ。それは後にしよう。」

そう言うと、老師はおもむろに、綺麗に梱包された封筒を差し出す。

「こ、これは!命令書!?」

百年以上、この封筒を受け取っていない。
すぐに、老師の手から命令書をとろうとすると、老師は叱りつけた。

「馬鹿者!無造作に命令書を受け取る奴があるか!」

小龍姫は慌てて、正規の受領手続きにはいる。
といっても、態度だけだが。
背筋をピンと伸ばし、敬礼する。
そして、両手を伸ばし、命令書を受け取った。

「妙神山管理人、小龍姫。確かに命令書を受け取りました。
開封のご許可を願います。」
「許可する。」
「開封します。」

直立の姿勢のまま、小龍姫は命令書に念を送る。命令書の封が、小龍姫の
霊波を確認すると、封が解けた。
内容を見る。
小龍姫の顔が、みるみるうちに、険しくなっていく。

「こ・・・これは!」
「復唱はどうした。」
「でも・・・これはどういうことですか?」
「質問を許可した覚えはないぞ、小龍姫。」
「では、質問のご許可を願います。」
「許可する。簡潔に述べよ。」
「この命令書に書かれている内容は、どういうことでしょう。」
「ワシは、命令書の内容を知らぬが。」

知らないわけがない。老師のサインが入っているからだ。
小龍姫は、いらつくように、命令書を読み上げる。

「命令受領者は、命令書受領と同時に、以下の任務を命ず

一.人間界の住人、横島忠夫を監視すべし
一.横島忠夫に不穏な動きがある場合、直ちに抹殺すべし
  不穏な動きとは、時空移動、次元移動、その他、
  因果律に大きな影響を与えるものを指す
一.別命あるまで、任務を継続すべし

発 神魔族最高幕僚会議
宛 妙神山管理人 小龍姫」

下には、小龍姫の直接の上司である、老師のサインも入っていた。
小龍姫は、老師をじっと見る。

「で、どの部分の説明が欲しいのじゃ?簡潔でわかりやすい命令書だと思うが。」
「ええ、非常にわかりやすい命令書です。ですが、私が聞いているのは
そんなことではありません。なぜ、横島さんが、監視対象になるのですか?」
「文殊じゃ。」
「文殊がどうかしましたか?」
「愚か者め。文殊は使いようによっては、この世界をひっくり返すことも
可能なのじゃ。しかも、人間のままならまだ良かった。魔族の力も使えると
なると、その応用範囲は無限に広がる可能性が出てくる。アシュタロスよりも、
よほど恐ろしい存在。それがあの小僧なのじゃ。」
「でも、横島さんはそんなことはしません!」
「なぜ言い切れる?小龍姫よ。お主、あの小僧が時々夕日を眺めているのを知っておるだろう。」
「ええ、それが何か?」
「これは、報告書にあったことじゃが、あの小僧に力を与えた魔族。
その魔族との強い思い出があるのが、夕日と東京タワーらしい。」
「・・・そうなんですか。私が見た報告書には、そのようなことは
載っていませんでしたが。」
「お主に渡った報告書は、上層部で検閲を行ったものじゃからな。」
「でも、それがどうかしましたか?」
「まだわからんか。今の小僧の力と文殊を持ってすれば、アシュタロスにも
対応できよう。つまり、時空移動を行って、あやつが大切なものを守りに行く
可能性があるということじゃ。」
「・・・!!」
「人間の心は弱い。今は善人でも、明日には極悪人になってるやもしれん。
そのような危険な存在に、あまりにも強力な力が宿っている。
これが、上層部の判断というわけじゃ。・・・わしは反対したんじゃがの。
それと、この問題はまだ審議中じゃ。だが、危険は直ぐにでも起こるかもしれん。
だから、とりあえず監視という命令が下ったのじゃ。」

小龍姫は黙ってしまった。
上層部の判断は、恐らく正しいだろう。人間に絶対を求めることは不可能だ。
ならば、常に監視しておくべきだ。理屈では分かる。でも・・・!

黙ってしまった小龍姫に、老師はもう一度問う。

「復唱はどうした。」
「・・・了解しました。妙神山管理人、小龍姫。
横島忠夫監視の任、謹んでお受け致します。」
「・・・成功を祈る。」

老師も小龍姫も、それきり黙ってしまった。
しばらくして、老師が口を開く。

「なに、あやつが“不穏な動き”とやらさえしなければ、とりあえず安泰じゃ。
それほど気に病むこともあるまい。」
「・・・そうですね。横島さんは、見た目よりずっと強い人ですから。
大丈夫。うん。大丈夫です。きっと!」

小龍姫は、自分に言い聞かせるように、強く言った。

「ところで、小龍姫よ。お主の話がまだじゃったの。」
「あ、そうでしたね。」

小龍姫は、あまりにも重い命令書の内容で、当初の目的をすっかり忘れていた。

「えっと、実は私の事なんですが、除霊の修行をしてみたいと思っています。」
「除霊じゃと?人間がよくやっているあれか?
なんでまた、龍神族であるそなたが、そんなことをする気になったのじゃ?」
「私は管理人として、妙神山を訪れる色々な人間とあってきました。
剣の道を極めようとした剣士には、剣の修行を。霊力を強化したい陰陽師には、
霊力の修行を。でも、剣や霊力そのものについては自信があるものの、
陰陽師が行う除霊作業そのものは、どのようなものか全く知らなかったのです。
その除霊作業を、昨日、初めて横島さんに見せて頂きました。
私は、手も足も出なかったのです。それが理由です。」
「ふむ。」

老師は、しばらく考えた。

「で、小僧と一緒に陰陽師のまねごとをしてみたいと。小僧自身はどう思っておるのじゃ?」
「横島さんは、今は妙神山の修行で満足しています。
でも、妙神山でしか行えない修行については、完了しています。
あとは、どこで修行を行っても同じ効果が得られます。」
「そうさな。小僧を監視するのがお主の任務なんじゃから、小僧が行くところへは、
どこまでもついて行くがよかろう。・・・わかった。妙神山と、パピリオのことは
ワシが引き継ごう。」
「ありがとうございます!」
「軍資金がいるじゃろう。金蔵から、適当に持っていくがよい。ただし、一度だけじゃ。」
「わかりました!」

小龍姫は、大きく礼をして、そのまま出張所へ戻ろうとする。

「おい、小龍姫!任務を忘れるんじゃないぞ!」
「わかってます!」
「・・・全く、いつまでたっても子供じゃな。」

走り去っていく小龍姫を見て、幼い頃の小龍姫を思い浮かべる老師であった。

・・・続く。

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