ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの物語(7)


投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 8/26)


「これから、霊力と剣の修行を始めます。パピリオ、準備はいい?」

ここは、結界によって異空間に繋がっている修行場。
どれだけ派手な事をしても、よほどのことが無い限り、外界への影響は無い。
そこに横島もいた。パピリオと同じ修行着を着ている。

「いいでちゅよ。ところで、ヨコチマは何をするんでちゅか?」
「えーっと、・・・何をしましょう?」

小龍姫は困った顔をした。
今回は、特に修行の目標が定められていない。
パピリオは、いいこと思いついた!という顔をして、

「だったら、ヨコチマと試合をしてみたいでちゅ!」
「試合・・・ですか?」
「そうでちゅ!ヨコチマは、人間界ではかなり強いんでちゅよね!
パピリオは魔族だから、ある程度手加減すれば、いい試合になるかも
しれないでちゅよ!」
「あなた本当に手加減できますか?」

疑わしそうな目で小龍姫はパピリオを見る。

「あ、疑ってまちゅね?大丈夫でちゅ!パピリオは、小龍姫の弟子なんでちゅよ?」

小龍姫のプライドをくすぐる上手い言葉。
パピリオも小龍姫の操り方を心得ているようだ。

「仕方ないですね。わかりました。
パピリオ、決して全力を出さないようにしなさいね。」
「もちろんでちゅ!」

喜ぶパピリオ。横島は、2人のやり取りに口を挟むタイミングを逸してしまった。

「あ、それから、横島さん。文殊は使用禁止です。」
「へ?あ、そうっすか。」
「パピリオは別にいいでちゅよ?」
「今回は、霊力と剣の修行なんです。いかに魔族といえど、
文殊を駆使されたら、ただでは済みませんよ。」
「わかったでちゅ。」

修行場で対するパピリオと横島。
パピリオは気楽に構え、剣をブラブラさせている。
だが、横島の顔は真剣そのものだった。
剣は使い方が判らないということで、持っていない。

『やっとここまで来た。』

横島は心の中で呟く。

『俺は強くならなければならない。もう、二度とあんな思いをしないためにも。』
「制限時間は5分。勝負の方法は・・・」
『俺にもっと力があれば、あいつが死ぬことは無かったかもしれない。』
「どちらかが気絶するか・・・」
『俺が事務所を辞めたのは、俺が俺を追い詰めるため。』
「参ったと言えば・・・」
『おキヌちゃんにも大怪我をさせてしまった。俺が弱いからだ。力も心も!』
「霊力をどれだけ効率よく使うかが・・・」
『俺は強くならなければならない。強く!強く!強く!強く!!!!』
「わかりましたね。パピリオ、横島さん。」
『これ以上、大切なものを失わないために!』
「わかりまちたでちゅ。」
『ルシオラ・・・!』
「横島さん?」

小龍姫は横島の様子がおかしいように感じた。
殺気のようなものも一瞬感じたような気がする。

「・・・はい。」

横島が小さく返事をする。
小龍姫は少し不安を感じたが、気のせいだと思いなおし、合図を出す。

「それでは、始め!」
「いいでちゅよ、ヨコチマ。いつでもかかって・・・」

その声が途切れる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

横島の掛け声と共に、霊力が解放される。
だが、通常の人間が発する霊力ではない。

「「な!?」」

小龍姫とパピリオは驚愕した。
と、横島が跳躍する。そして、文殊を使わず右手に巨大な霊波刀が一瞬で出現した。

「ちょっとはやるようでちゅね。でもその程度で・・・」
「避けなさい!!パピリオ!!!!!」

小龍姫の怒鳴り声で考えるよりも早く、パピリオは身を翻した。
一瞬前までパピリオがいた場所に、巨大な霊波刀が振り下ろされる。
衝撃波が小龍姫とパピリオを襲い、辺りは土煙に覆われた。
やがて、土煙が晴れてくる。
そこには、十数メートルに及ぶ、すり鉢状の大きな穴があき、
その中心に横島が剣を振り下ろした態勢でじっとしていた。
霊波刀は消えている。

パピリオは混乱している。
あの時、小龍姫が声をかけなければ、もしかしたらやられていたかも知れない。
でも、でも、そんなことはあり得ない!一人の人間が、
魔族を上回る霊力を持つことなどは、絶対にあり得ない!
だけど現実は・・・。

小龍姫も同じように混乱していた。
霊力を放出していた横島は、確かにパピリオの霊力を上回っていた。
最初は間違いだと思った。でも、無意識にパピリオに怒鳴っていた。
今思えば、正しいことだった。
確かに、霊力の差が、勝敗に直結するわけではない。
アシュタロス戦では、魔族より遥かに霊力が劣る、人間側が勝利した。
だけど・・・!

二人が混乱している間も、横島は動かない。
やがて小龍姫は混乱から立ち直り、横島の側まで行った。

「横島さん・・・?」

横島は、剣を振り下ろした状態で、気絶していた。

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「どう?」

小龍姫が声をかける。
ここは、妙神山の一室。横島が寝かされている。
傍らに、小龍姫、パピリオ、そしてもう一人神族がいた。
その神族は、トランクのようなものから、色々な線を横島に繋ぎ、
キーボードを叩いていた。

「うーん。やっぱりねー。」

キーボードを叩きながら、一人で呟く。

「何がやっぱりなの?ヒャクメ。」
「もうちょっと待つのねー。今データを整理してるところなのねー。」

小龍姫は不安そうに横島を見る。パピリオも同じように横島を見ていた。
横島は、霊力を殆ど使い果たしていた。もし、あと少しでも霊力を使っていたら、
横島はそのまま死んでいたかもしれない。

最初、小龍姫は老師に相談に行こうと考えた。
だが、何か引っかかるものがあり、ヒャクメを呼んだのだ。
ヒャクメと小龍姫は、数百年に渡る長い付き合いの親友だ。
ヒャクメと小龍姫の霊力は、それ程差が無い。小龍姫は戦闘に、
ヒャクメは特殊能力に霊力を振り向けている。そのため、ヒャクメは
戦闘には不向きだった。だが、特殊能力については、神界屈指である。

「ふう。」

ヒャクメがキーボードから手を離した。
小龍姫とパピリオの視線が、ヒャクメに集中する。

「結論から言うねー。横島さんは人間じゃないのよねー。」

えっという顔をする二人。
続けて、説明に入るヒャクメ。

「正確には、魔族と人間のハーフということなのねー。
2年前、アシュタロス戦の時に、魔族の女の子が、死にかけた
横島さんに殆どの霊基を流し込んだよねー。」
「ルシオラさん、でしたね。」

小龍姫もヒャクメもルシオラとの面識は殆ど無い。
だが、経緯は報告として受けている。

「でも、その霊基は横島さんに吸収され、同化した筈じゃなかったの?」
「そうなのよねー。そのまま置いておけば、そうなっていた筈なのよねー。
でも、私達は、ちょっと手を加えましたよねー。ルシオラさんが、横島さんの
子供として転生するようにねー。それが影響したとしか思えないのよねー。
本来、同化して消えてしまう筈の魔族の霊基構造を残しておいたために、
人間である横島さんの霊基と、魔族の霊基が、ちょうどハーフのような状態に
落ち着いてしまったというわけだと思うのよねー。推測だけどねー。」
「つまり・・・」
「つまり、俺は俺とルシオラの子供ってことっすか?」
「そう・・・なりますねー・・・え?」
「よ、横島さん!」
「ヨコチマ!」

いつのまにか横島が目を開けて、ヒャクメを見ていた。
酷く衰弱しているが、大分ましになっているようだ。

「ど、どこから聞いてたんです?」

小龍姫が慌てて横島に訊ねる。言ってはいけない事を
聞かれたような気がしたからだ。

「人間じゃないってところくらいからっす。」
「そんな・・・。」

小龍姫は困惑した。
ヒャクメとパピリオは、小龍姫の顔を、不安そうに見る。
いきなり、お前は人間じゃない。と言われたら、ショックを受けるだろう。
横島は、小龍姫を見ながら、微笑んだ。

「大丈夫っす。俺も、なんか最近変だと思い始めてたんです。
ただ・・・ただ、ヒャクメ様。ルシオラの転生ってどうなるんすか?」

ヒャクメは小龍姫の顔を見た。言っていいのかどうかを目で問い掛ける。
小龍姫は、横島を見た後、ヒャクメに視線を戻し、頷いた。

「推測でしか言えないですけど・・・。」

ヒャクメは小龍姫に頷き返し、横島を見る。

「多分、無理だと思うのよねー。転生に使われるはずだった霊基構造が、
横島さんの霊基構造と融合してしまったために、生まれてくる横島さんの
子供は、ルシオラさんの生まれ変わりではなく、横島さんと、もう一人の子供と
言うことになるのよねー。」
「・・・そうっすか。」

沈黙が部屋を支配する。
横島は、じっと天井を見つめていた。
突然、横島は、明るい声で言った。

「でも、ルシオラの子供はここにいるっすよね!」
「え?」

ヒャクメは突然話し掛けられ、咄嗟に理解できない。

「俺っすよ、俺。俺は、ルシオラと俺の子供なんすよね!」
「ええ、そうなりますねー。」
「そっか。俺はルシオラの子供なんだ。ははっ!
それじゃあ、パピリオ。お前とも血が繋がってるんだな!」
「え?あ、そっか。そうでちゅね!ルシオラちゃんの子供ってことは、
パピリオの、えっと、なんだっけ?」
「甥ですね。」

小龍姫が助け舟を出す。

「そう、甥になるんでちゅね!」
「そっか!そうだな!よろしく、パピリオ叔母さん!」
「なんでちゅってーー!!」

パピリオは、横島を小突こうとしたが、その手が止まる。
横島の目から、涙が零れ落ちた。

「あれ、あ、嬉しいのに、なんだっつーの。あれ?」

横島の目から涙が止め処なく溢れる。
横島は、なぜ涙が流れるのか理解できなかった。ルシオラはもう転生しない。
だけど、自分は、ルシオラと自分の子供。悲しいのか嬉しいのか訳がわからない。

「あれ?あれ?」

涙は流れ続けた。
パピリオは、バッと立ち上がり、そのまま出て行った。
ヒャクメは、わざと横島と目を合わさず、道具を片付けていた。
小龍姫はじっと正座しながら、横島を見ていたが、黙ってそっと横島の手を取った。
横島の手は震えていた。

ヒャクメが道具を片付け終わったころ、横島も落ち着いていた。

「すんません。小龍姫様。・・・かっこ悪いっすね。」

小龍姫は、横島の手を握ったまま、優しく微笑み、ゆっくりと首を横に振る。
やがて疲労していた横島は、そのまま深い眠りに入っていった。

・・・続く。

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