ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの物語(4)


投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 8/25)


「あれ・・・?」

鳥の鳴き声が聞こえる。
ボーっとする頭で、周りを見渡す。
見たことがない部屋だ。なぜか体中がリンチを受けたように痛い。

『えーっと・・・。』

考えがまとまらない。
その時、遠くで声が聞こえた。

「・・・!・・・・・・!」

何を言っているのかよく聞き取れない。が、聞き覚えのある声だ。

『確かあの声は・・・。小龍姫様?』
「あっ!」

ガバッと横島は起き上がった。
そして、痛む体をさすりつつ、襖を開けた。

『そうだ。俺は美神さんところを辞めて、妙神山に来たんだ。』

結構広い妙神山の建物を、声を頼りに歩いていく。
やがて声がはっきりと聞こえてくる。

「何をしているんです!パピリオ!まだ境内の掃除が終わっていませんよ!」
「ええーっ、もう十分じゃないでちゅか。毎日掃除しなくても、
すぐには汚れないでちゅよ!」

やがて、声の主がいる場所に、たどり着いた。

「大体、小龍姫は自分ではなんにもしないのに、なんでパピリオばっかり・・・」

そこで、パピリオの動きが止まる。そして、笑顔一杯になって、叫んだ。

「ヨコチマーー!!」

弾丸のように横島にタックルするパピリオ。
ぐふう!という呻き声が聞こえたような気がするが、横島は

「よっ!パピリオ。元気してたか?」

とパピリオの頭にポンと手を乗せた。

「当たり前でちゅ!ヨコチマこそ、ここに何しにきたんでちゅか?」
「ああ、それは・・・」

とその時、小龍姫が声をかけた。

「おはようございます。横島さん。よく眠れましたか?」

横島は、微妙に皮肉が効いているような小龍姫の言葉に、ちょっとだけたじろいだが、
態勢を立て直す。

「おはようございます。小龍姫様。相変わらずお美しい!」
「ありがと。」

表情ひとつ変えずさらっと流され、横島はシクシクと地面にのの字を書く。

「それじゃ、パピリオ。あと境内の掃除をしておいてくださいね。」
「ええーーーっ、もう十分・・・」

言い終わらないうちに、小龍姫は迫力のある顔で、

「わ・か・り・ま・し・た・ね!!」
「はいでちゅ。」

パピリオは冷や汗をたらしつつ、さっさと境内のほうへ向かっていった。
ちなみに、横島も冷や汗をたらしている。

「さて、と。」

小龍姫はくるっと横島のほうへ向き直った。

「ここじゃなんですから、中へ入りましょう。どうぞ、横島さん。」

そう言って、奥の部屋へ向かう小龍姫。
純和風な部屋へ案内された横島は、微妙に緊張している。
小龍姫は知ってか知らずか、特に表情を示さず、お茶を入れている。

「あの、小龍姫様。昨晩はすんませんでした。」

小龍姫は、ちょっと驚いたように横島を見る。

「ふふっ。あの程度のことなら、いつものことじゃないですか。」
「あはははは!そーっすよね!いつものことっすよね!」
「今度同じことをしたら、剣の実験台になってもらいますからね。」

微笑みを絶やさず、さらっと恐ろしいことを言う小龍姫。

「うはうはうははははは!!!!」

横島は笑いながら、冷や汗をかきまくっていた。

「今回は、どのようなご用件ですか?横島さん。」

お茶を啜りながら、本題へ話を移す。

「え、あ、そうっすね。」

横島の表情が真剣なものにすっと変わる。
小龍姫は、表情には出さなかったが、内心かなり驚いていた。

「・・・小龍姫様。」

一呼吸をおき、続ける。

「俺を妙神山で雇ってもらえないでしょうか。」

「・・・は?」

小龍姫は横島の言葉の意味を飲み込めない。

「あ、その、従業員とかじゃなくてもいいんです。丁稚でも構いません。
その代わり、手の空いたときでいいっすから、修行をさせて欲しいんです。
給料はいくらでも構いません。無くてもいいです。いや、あるに越したことは
ないっすけど、とにかく、その、お願いします!」

横島はガバッと頭を下げる。表情は真剣そのものだ。

「と、突然そんなこと言われましても・・・。」

小龍姫は困惑した。数百年の妙神山管理人経験の中で、このようなことを
言われたのは初めてだった。
横島は頭を下げたままじっとしている。

「とにかく、頭を上げてください。横島さん。」
「それじゃあ!」

横島が喜ぶよりも早く、小龍姫が付け加える。

「一管理人の立場で、その、従業員を雇うことはできないんです。
いえ、できないと思うんです。多分。」

声が段々小さくなるのは、自信がないからだろう。
神族の出張所に雇ってくれと訪ねてくる人間は、初めてだからだが。

「それよりも、美神さん達はどうしたんですか?」

小龍姫は当然の疑問を訊ねる。

「・・・事務所は、辞めました。これは、俺自身の意思でやってるんです。」
「辞めた!?」

小龍姫はさらに驚いた。あれだけ酷い仕打ちを受けていても、忠実に美神の下僕を
やってきた横島が、事務所を辞めるとは信じられなかったからだ。

「変ですか?」
「あ、いえ、変というわけじゃないんですけど。その、ちょっとびっくりして。」

ちょっと焦る小龍姫。ふと何かに気づいたように、横島を見る。

「あの、横島さん。もし妙神山で雇われなかったら、どうするおつもりなんですか?」

横島は頭をポリポリと掻きつつ、苦笑いしながら言った。

「あー、まあ、なんにも考えてないっす。有り金はたいてきましたし。」

小龍姫はこめかみを押さえた。ようするに、ここで断られたら、
行くところが無くなるというわけだ。
ふう。と小龍姫は軽くため息をつく。

「とりあえず、老師と相談してきます。それまでは、ここにいてください。」
「お願いします。」

頭を下げる横島。それを見てから、小龍姫は立ち上がり、人間界と神界を繋ぐ部屋へと
向かった。

・・・続く。

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