ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの物語(3)


投稿者名:hoge太郎
投稿日時:(02/ 8/25)


「・・・・」

事務所の中では、美神と雪之丞が呆然とドアを眺めていた。

「旦那?」

雪之丞の声で、我に返った美神は、ドッとソファーに体を沈めると、暫く黙っていた。

「何してんのよ。給料の交渉すんでしょ?さっさと座りなさいよ。」
「え、あ、ああ。」

そう言って、雪之丞はソファーに腰を落とす。
美神は一度頭を振ると、おもむろに書類を出し、電卓を置く。

「それじゃ、雪之丞。あんたの時給は横島クンと同じでいいわね。」
「いくらなんだ?」
「255円。」
「帰る。」
「冗談よ。2550円でいいわね?」
「少なすぎじゃねえか?」
「最初は見習いだからいいのよ。使えるなら給料はそのとき考えましょ。」
「しゃーねえな。」

そう、これが相場なのである。優秀なGSだと、時給1万円でも安い。
もっとも、そんな優秀なGSがバイトをするとも思えないが。
哀れなり横島。


その横島は、しばらくじっと事務所を眺めたあと、アパートに戻っていった。
まだ午前中だ。適当に荷物をまとめる。たいした荷物はない。
そうこうしているうちに、雪之丞が戻ってきた。

「んじゃ、この部屋はお前に渡すぞ。」

荷物を背負いながら、横島は雪之丞に言う。

「ああ、それはかまわんが、本当にいいのか?」
「言ったろ。もう後戻りはできねえんだ。」

雪之丞は黙っている。

「・・・美神さん達のこと、頼む。」
「・・・ああ。」

暫く沈黙が続く。

「こうしてても仕方ねえ。行くわ。」
「行き先はやっぱり教えてくれねえのか?」
「そうだな。これは俺の意地なんだ。悪いが。」
「ふん。ま、一生会えねえわけじゃねーし。どこへ行くか知らねえが、
お前は俺のダチなんだ。忘れるんじゃねーぞ。」
「勝手にダチにすんじゃねえ。」

そういいつつ、横島の顔には笑みがこぼれていた。


こうして、横島はアパートを出て行った。
僅かな給料を貯めた金で、どこへ行こうというのか。
横島は、何時間もかけ、電車を乗り継ぎ、バスに揺られ、徒歩で歩きつづけた。
その歩みが止まる。もうすっかり暗くなっていた。大きな門がある。
そこには、大きな文字で、こう書かれていた。

【妙神山】

『何度目かな。この門を見るのは。』

横島は門を眺めた。

『今までは美神除霊事務所の一員として。だけど今回は・・・。』

横島はゆっくりと門に近づいた。
いつもは、ここで門の番人である鬼門が大声をあげるのだが。

「寝てやがる・・・。」

左右の鬼門は、目の前に横島がいるのにも関わらず、全く気づく様子はない。

「おい!起きろ!」

仕方がないので、右の鬼門に声をかける。
起きない。

「こら!てめー門番なんだろ!起きんかこらあーーー!!」

鬼門にゲシゲシと蹴りを入れる。

「誰だああああ!!ここは妙神山と知ってここにおるのか・・・あれ?横島ではないか。」
「何が横島ではないか、だ。てめー、本当に門番する気あんのか?」
「ぶ、無礼なことを言うな!これは訪問者を欺く、その、あれだ。」

あせる右鬼門を無視する。ちなみに左の鬼門はまだ寝ている。

「まあいいや。とりあえず入れてくれ。歩き続けて、疲れてんだ。」
「今何時だと思っておる。とっくに小龍姫様はお休みだ。明日出直して参れ。」

横島が腕時計を見ると、午後10時をまわったところだ。

「何言ってやがる。こっから町に戻るのに、どれだけ時間かかると思っとるんだ!
大体、町に行っても、金がないから泊まれん。」

フン!と横島は胸を反らした。

「何を威張っとるんだ。とにかく、もう遅いから駄目だ!」

右鬼門は開けてくれない。横島はニヤリと笑い、鬼門に問い掛ける。

「んなこと言ってもいいのかな?居眠り門番さんよお。
小龍姫様がこのこと知ったら、どうなるのかなあ?」

右鬼門が真っ青(?)になる。横島はしてやったりとほくそえんでいる。

「・・・えーい、仕方あるまい。おい!左の!起きろ!」
「・・・む、なんじゃ右の。ワシは眠いんじゃが・・・お、横島ではないか。」
『こいつらは・・・。』
「さっさと開けろよ。腹減ってんだ!」
「やかましい。お前みたいなケダモノを入れて、お休みの小龍姫様に何かあったらどうするんだ。
今、左を使いに出した。もう暫く待っておれ。」

その時、腹が減っていて忘れていた、横島のお約束が始まった。

『しょ、小龍姫様があられもない姿で・・・布団の中に!』

横島の頭の中に、鮮明な小龍姫の寝姿が映し出される。なぜかネグリジェ姿。
その時、門がギギィという重そうな音と共に開いた。
目をこすりながら、眠そうな小龍姫が姿を見せる。

「横島さん。いらっしゃ・・・」

小龍姫が全てを言い終わる前に、横島の本能が暴走する。

「小龍姫さまああああああああ!!!!」

・・・続く。

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