ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム:12「クロスロード“死霊の王者・胎動編”」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 8/12)

生きるということにはそれだけで、それだけに終わらない価値がある。
生きていないからこそ言い切れる。そして同時に、想いなどに意味はない。
結果が、言い換えれば機能、役割こそが意味であり価値なのだ。
心を持たない事を、決して侮辱させはしない。破壊を齎すことを、決して否定させはしない。
このミサイル群は、かけがえのない兄弟なのだから。
瞬く間に、白骨どもが焔に呑まれて消えてゆく。
人が望んだ役割を果たす――兄弟達が齎した結果。眼前に開ける道。
粉からさえ、骸骨は甦る。
左腕のギミックを稼動させる。両肘に内蔵されている、エルボーバズーカ。
ドシュッ
バズーカ一発を、有象無象相手に使用することに、無論意味などない。
だが考えてもらいたい。
一人の、あるマッドサイエンティストが、完全に己の趣味で、実用性を全く無視した、
一個の戦闘兵器を開発するにあたって、果たして同じ武装を左右対称に設置するか。
「エルボー・ショット・バズーカ」
掛け声は、圧倒的に遅かった。
バズーカから発射された弾頭が、散弾銃のように爆ぜ割れて、前方の敵を殲滅するよりも。
<お…おかしいぜ……これだけの武装が揃っていながら、逃げを打つとはよ>
マリアは、その間決して足を止めない。速度を緩めることもしない。守る――護るために。

「お…おぉおおぉッ!!」
雪之丞に、カルシウムゴーレムの手刀が突き刺さり、それに応え、雪之丞が殴り返す。
これ以上ない泥試合が展開されていた。雪之丞はうんざりした心地でなおも拳を振るう。
戦うことは、言ってしまえば、大好きだった。
だがそれは、自分の強さが――自分のアイデンティティが価値を得る瞬間として、である。
殴るのは好きだが、殴られるのは本意ではない。
殴られて、それが通じないことを再確認する瞬間は至福の時だが、同程度の攻撃をこうも
繰り返し繰り返し浴びる、というのは散々な気持ちである。
いや、殴るにしても、大した手応えもないのにひたすら再生してくる相手では気分も出ない。
不謹慎な気持ちかもしれないが、このスケルトンと戦うよりも、先程のマリアとの戦いのほうが
彼にとっては快感だった。それよりは更にピートが、もっと言えば横島がやはり熱くさせる。
今のこの戦いは、疲れるばかりで、自分には何も齎さない。そんな感覚があった。
もう、死んでしまうのもいいかも知れない。そうとさえ思うのに反して、なおも身体は動き続ける。
<あたしはね>
声がこだます。女の声が。
<同類が欲しかったのよ。それが貴方。あたし達は“透明な人”なの>
「…?……なに寝惚けたことぬかしてやがる…俺はあいにくキチンと姿が…」
<ないわよ。あたしや貴方には、本当の色がない。戦う相手の血でしか、自分を彩れない>
「………!」
なにか、本能的になにか反論すべきだと思った。しかし思いに反して言葉は出ない。
<倒した相手が我が身に残した強さでしか、自分を象れない。ね?あたし達に決まった姿はない>
「ふん、おしゃべりなこった。俺はそんなに愛想よくした覚えはねーぜ?」
反論すべきなのは判っている。認めてはいけないことなのだ。そして彼は、はぐらかす。
<愛想なら、あたしが望むとおりの挨拶を返してくれてるわ。殴って殴り返して、ね>
「読めたぜ。テメーは俺みたいな、テメーが言うとこの同類と徹底的に殺し合いたかっただけなんだ」
<違うわ。あたしは死ぬほどの愛が欲しい……>
聞いて、雪之丞はぞくり、としか表しようのない感覚に襲われる。
「なん……だと?」
<愛し合いたいのよ。死地でしか自分を見出せないあたしが人を愛せるのは、やはり殺す時。
でも、あたしは相互にキモチを交換したいの。ずっと待ってたわ。あたしの影――>
「狂ってるぜ、テメー」
<あたし達、よ。そうでしょ?>
「一緒にしてんじゃねーよサイコ女。ま、事情はどーだっていい。
どーゆー腹積もりだろうと、弱い奴が負けて強い奴が勝つんだ」
<その考えのどこもあたしのものと違わないんだけど。
でも、これでお互い戦うことに納得できるみたいね>
静かに語り、己が手足にあたる骸骨の群れを文字通り一箇所に束ねる。
白い塊は限界まで集束し、禍々しい鎚となる。
物質は、突き詰めてしまえば所詮元素と呼ばれるブロックの集合。
そこに宿る威力とは、根源的にはブロック達の重さである。
それが持つ耐久性とは、ブロック同士の結びつきの強さである。
超越的な質量はそのまま攻撃力になる。
超常識的なチカラによって固定されている結びつきはそのまま防御力になる。
特筆すべきは結びつき――単純に繋がっているのではない。
地精そのもの、カルシウムそのものの意思力で、自ら繋がっている。
自然に生まれる連結の限界であるダイヤモンドとすら比較にもならない。
いや、原子同士が個々に意思を持って互いを連結する存在なのだ。
そんな、そもそも有り得ない物に物理的な耐久限界などあるのだろうか。
「妥当だな。それがテメーの持てる力を最大限に引き出せる格好だ」
<案外冷静ね。なにか対抗策でもあるの?>
「まぁ、策ってのとは違うんだが、聞くか?」
<ええ>
雪之丞はため息にも聞こえるような深呼吸をして、腰だめで構える。
「正面から打ち合ってぶち破る。言ったろ。強い奴が勝つんだよ」
どちらも、殺しあう二人とは思えぬ柔らかな微笑を浮かべ、最後の勝負が始まった――。
バァァン
泥が混じった骨の粉が視界を閉ざす。
そしてもう一つ、緋色の虚ろな欠片もまた、砕け散っていた。
本当の意味で、この場の骨どもと、魔装術の鎧は『同じ』ものだったのだ。
雪之丞の霊体。彼の心の具現。人の意志の力で繋ぎとめられたスティグマ。
無限の可能性を秘めた不滅の鎧。それら二つがぶつかり合って、そして塵と化す。
雪之丞の中でなにか、決定的な『なにか』が切れた。砕けたのは彼自身だったのだ。
――ヤベェ…こんどっつー今度はマジでヤベェ……死ぬのはともかく、こんなのと心中なんて…
<あたしの勝ち、みたいね>
――…今のナシ。負けるくらいなら心中のほうがマシだった……いや、どっちもごめんだ。

まずは、視界が開けていなければはじまらない。それと、土中からの奇襲対策に石段の上。
天を塗りつぶす樹木に関しては、諦めるしかあるまい。広い石畳の上こそが理想のポジション。
キヌがそこを探しあて、たどり着くのに先行し、マリアは墓所の突端にたどり着いていた。
逃げるなら、まさにそこがゴールであったはずだが、彼女は逃げている様子ではなかったはずだ。
ぎぐぐぐぐ、べぎん
鉄柵を解体する。「やはり、逃げるつもりか」。
追跡していた骸骨が叫びそうになったが、彼女は手近な大木に背を預け、
ずぎゃりん
鉄と鉄が打ち鳴らす醜い音を立て、鉄柵からもいだ棒状の破片を自らの下腹に突き立てる。
やがて、木の方からも破砕音が響き始める。彼女を貫通し、大木まで鉄が食い込んでいるのだ。
棒を伝い、マリアの左手を伝い、黒と白濁色二種類の液が零れる。
黒は潤滑油と、白濁色はジェネレーター周りの冷却材。
「ウィンチ・起動」
ゆっくりとワイヤーを巻き取り始める。樹が軋んで不協和音を奏ではじめた。
大量に放出していただけあって、障害物などの抵抗があり、ワイヤーは遅々として戻らない。
その莫大な抵抗力を、大木に負担させるために自分を打ちつけたのだ。
一方で、マリアの“右手”は、墓石の一角にがっしりと指を食い込ませて踏ん張っていた。
<こ、これは……檻…?>
スケルトンの誰かが呟いた。そう。彼女の目的はまさに“檻”のようなモノを即席で生み出すこと。
しかし、少し訂正を求める。“ステージ”と。何者にも不可侵な演奏の舞台。
障害物にあたっては向きを換え、この直線の集合である、ワイヤーが形成したのはまさにそれ。
数を頼みに押し寄せるスケルトンは確かに脅威。
だが、単体にこのワイヤーを切断できるほどの攻撃力はないはずである。
「きっと・吹くことは・できます。マリアが・そうさせます。そして――」
そうとまですれば、除霊はきっと成功する。他ならぬ『彼女』が失敗するはずはない。
少なくともマリアは、そう信じている。
この作戦を考案した時から、今までその確信は揺らいでいない。
この距離で、キヌにマリアの呟きが聞き取れるとは到底思えない。それは確かだが。
「ありがとう。私やっぱり、一人じゃ戦えないよ。戦えなかったよ。ありがとう…」
彼女の人生には、万感の想いが多すぎる。今日もまた、息苦しいほどの喜びを得た。
そして今日もまた、その想いが音色を彩る。輝く奔流というカタチに。輝く風が、空を疾った。

<あたしにはスタミナという制限が最早ない。そのことが勝敗を分けたわね>
確かに、雪之丞が現在動けないのは疲労による。
肉体が死んでないのだから、「消失」ではなく「分解」されただけの霊的中枢はじきに復帰する。
それは彼自身がすでにとある魔族に襲撃されて経験済みの事象だ。
一方の女幽霊は、骸骨をほぼ無限に再生できる。それだけの霊力があるからだ。
「ズレたこと吹いてんじゃねェ。俺に勝ったみたいに聞こえるんだよ、タコ」
息を切らしながら、腹這いに倒れた雪之丞が抗議する。
仰向けでないのは無論のこと、倒れる時も前のめりでなければ認められないから。
<まだ負けてないつもり?そうね、それも貴方の魅力よね>
「強さにも、色々あるんだとよ……」
<へ?>
そこへ、光る風が吹き込んでくる。比喩ではなく、『光って「見える」風』。あるいは空を流れる川。
それに触れた、骸骨の一部位は、虚空に融けて消える。
「ここに来て最初に、言ったっけな。俺達はチームじゃねー、って。気が変わったからありゃウソだ」
<な…まさか……!?>
「パワーやスピードも然ることながら、ハデな立ち回りしてテメーらの気を引くのも強さってことさ」
<囮ね!まさか貴方が、自らご親切に他人の負担減らそうとするなんて…!>
別に、はじめからそのつもりで戦っていたわけではないのだが、それを教える義理もない。
ここは勝手に感心させておいてやろう。

つづく

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