歯車と鉄の謎―前編―
投稿者名:眠り猫
投稿日時:(02/ 8/ 6)
日差しが強い夏の午後。
汗一つかかずに、緑と子供の声で飾られている公園に酷く似合わない黒い服に身を包んだ女がいた。
そこはそこそこの広さを誇っている公園で中央に噴水がある。
その噴水は決して派手なものではないが、それでもどことなく贅沢感と暖かみ、そして涼しさを運んでくれる。
が、女・・・少女といってもさしつかえない彼女は噴水に眼もくれずにいた。
不自然、不似合い、どこか違う空間をその穏やかな公園に持ってきたような彼女。
表情一つ変えずに。この気温に汗も流さず。
いくら周りは子供といえども、いやむしろ子供だからこそだろうか。
人目をその一身に集めるには時間がかからなかった。
中には、相手に聞こえないようになんて配慮は一切ない彼女に興味だけをひかれた言葉を言う者もいる。
それは聞こえない言葉でもないだろうに、それでも表情一つ変えなかった。
何故なら、それは彼女にとってもどうでもいいことであり。
・・・そして何より、興味半分の言葉には慣れていたからだ。
黒いロングスカートにはスリットが大胆にはいっていて、歩くたびに彼女の足が垣間見れたがそれも彼女は気にしない。
気にしないままただ歩く。
それは「散歩」という行為なのだがそれに安らぎを見出している様子もなく。
彼女の目的はここの公園を歩き回ることでも、日差しをあびることでも、なんでもない。
疲れた、とは全く思わないし近くにベンチがあっても座る気にはならなかった。
座る必要性を感じなかったから。
無意味なことをむやみにすることは自分の中にインプットされていない、そう彼女は思っていた。
目的は今達成している。
彼女の視線には木々は映っていない。噴水を背にしている為に流れる水でもない。
目の前にはしゃぎ回ってる者、それだけを見ていた。ようは子供。
くるくる動くし、大声で叫ぶし、意味もなく笑う。
無意味なことばかりしていた。
なのに、何故だろう?
・・・笑うのだ、非常によく子供は。
はしゃいで、大声で笑い、楽しそうに生きていて。
笑う、のだ。
笑えないわけではない。唇の端を持ち上げて微笑むことはできる。
確かに無表情ばかりなことが多いけれど、それでもちゃんと微笑むことはできる。
それで十分だと思っていた。
たまに微笑む自分を見ると、嬉しそうに豪快に笑ってくれる人がいる。
自分はそれでいいのだ。それだけで十分なのだ。その人に「作られた」のだから。
自分は、人間ではないから。
人間ではないのだから、感情を表すのは下手で仕方ないことなのだ。
感情の幅自体、人間よりは狭い。そして痛みを感じない。
痛みを感じない。・・・感じない。
なのに、どうしてだろう?
・・・自分の初めての妹は。ただの一度も穏やかに話したこともない妹は。
笑ったのだ。
例え目的は自分の中にインプットされたことに矛盾したことでも。
驚きも笑いも怒りも嘲笑も、自分よりより鮮やかに感情を綺麗に表し。
よりはっきりと感情が存在していた。
長い金髪をなびかせた後、海に溺れ。復活したら顔を爆破された。
ただの一度も仲良くできなかった妹。
どうも、自分は妹について考え出すとどうしようもなくなる。
どうしようもなく何も考えがまとまらず。まとまってもないのに考えたくないのに色々何かが溢れてしまい、思考回路がショートしてしまうと感じた。
実際はショートするはずがないとも思いながら、妹の事をなるべく思い出さないようそうやって言い訳をしてみる。
笑えた妹。
笑えない姉。
笑えればこの考えから逃れられると感じて、作り主には相談しにくくて、公園にやってきた。よく笑う子供を観察したかった。
何も解決はしない。
答えの糸口も見つからない。
計算から答えを見つけ出すのには自信があるが、感情が絡むことには解決する方法も浮かばない。
笑えない。笑いたい。けれど
けれど痛みを知らない。
ただ、子供を見ていて答えを見つけかけた。
おどおどとして動かない怪我をしない子供より、活発に動いて怪我をしている子供の方がよく笑うのだ。
そして自分と人間との違い。
痛みを、知らないのだ。
痛みとはなんだろう?破損したら直して貰えばいい。
指を切っても痛いとは思わなかった。破損した、と感じただけ。
だからだろうか。
だから、痛みを知るから人間は笑うのか。
痛みを感じない私は永遠に笑えないのか。
だとしたらただ1人の妹は何に痛みを感じ、笑ったのか。
教えてほしい。自分の構造を。笑いの作り方を。
いつのまに、こんなに思考する力ができたのだろう。
いつのまに、こんなに思考することを覚えたのだろう。
とある栗色の髪をした女性に出会ってから、時間は早く流れたように感じ。
そして、知らないものを沢山得た。
ただ1人の傍にいて手助けするのが役目
だから笑いたい
だから教えてください
どこかにいる妹よ
機械にも天国があるというのならば天国からでも
どうして貴方は笑えたの?
今までの
コメント:
- 時間なくて展開早くて読みにくい・・・;最後まで読んで下さった方々有難うございました。
一応後編に続きますので、気になった方は後編にも眼を通して下さると嬉しいなぁとか。 (眠り猫)
- マ、マリア〜〜!!(爆) 「人が笑うのは痛みを感じるから」←なるほど、と思いました。痛みを感じるからこそ、その痛みを感じないことを喜んだりすることができるわけですから。しかしその肝心の痛みを感じることが出来ないマリアにとってはかなり難しい問題ですね。彼女は笑うことが出来るのでしょうか? そして妹のテレサが感じた(と思われる)痛みの正体を知ることがあるのでしょうか? 次回の後編を楽しみに待っております♪ (kitchensink)
- 痛みを知らないからこそ、笑うことができない。欠けた歯車が不協和音を奏でるのと同じですね。機械の体に人間の心を宿し始めた彼女が、何を思いそして何を知るのか。後編も読ませていただきますね。 (tea)
- マリアの悲しみが痛いほど伝わってきました。
いつもは表に表さないだけで、実は心では葛藤を抱えていたのですね。
後編も読ませていただきます。 (ヨハン・リーヴァ)
- コメント有難う御座います、うあー、嬉しい。
・・・その割には返信遅れて申し訳ございません;
>kitchensink様
丁寧な感想有難うです。傷ついたら傷ついた分だけ笑えるようになる・・・っていうのが一つの理想かなと考えていたので。あー、関係ないですけどテレサ大好きです自分。あの高飛車風味なところが可愛いなぁとか。
>tea様
「欠けた歯車が不協和音を奏でる」綺麗なお言葉に一瞬ぼうっとしちゃいました。
後編・・・頑張りますのでよろしくです。嬉しいです。
>ヨハン・リーヴァ様
伝わってくると言われると妙に書き手にはじーんときちゃいます。どうもです。
表には出さないけど葛藤が心に渦巻いてる人というのに自分弱くて・・・; (眠り猫)
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