ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム:11「今、そこに生きる意味“死霊の王者・遅延編”」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 8/ 5)

白い人型。その頭部が、黒腕に侵蝕されて破砕する。
だが、失われた頭部は瞬く間に新たに生え――
「だっしゃああッ!!」
ボゴンッ
白の中心に蹴りをぶち込み、完全に粉々にする、黒と赤の魔獣。
「く……てこずらせ………やがって……強い俺に…逆らってんじゃねーよ……」
彼の周囲には、破壊の残滓。
ひたすらに、かつて墓碑だった石材と、かつて彼に牙をむいたカルシウムのみ。
「こんなもんかよ…ザコのワリには、なんぞと少々買いかぶりが過ぎたみてーだぜ」
呟く雪之丞の、その呼吸は気管を張り裂かんばかりに荒い。
<あら?いっちょまえに評価してくれてたの>
「………生きてやがった…じゃあちょいと違うよな。逝きそこなってやがったか」
響いた女の声に聞き覚えがあった雪之丞は、憎悪とも喜悦ともつかぬ声を上げる。
<残留思念、ってやつね。貴方に踏み潰された私とは同一の別人>
「なるほど」
<訊かないの?貴方一人にここまで固執するあたし……不思議じゃない?>
「不思議だぜ。だが、つれねェ男には答えねーんだろ?愛想には自信あるほうじゃねェ」
<なるほど>
「それに興味もねェ。俺の邪魔する奴はとっとと潰す。早く次の俺になりたいから。
今よりもっと強くて、今よりもっとカッコよくて、今よりもっと逞しい俺に。
解るか?駆け足で明日を目指したいから、俺の想い出に残るヒトは一人でいい。
あんまりたくさん後生大事に抱えてたら動きづらいし、弱い奴覚えてても得になんねェ」
<じゃあ…例えば貴方の想い出の一番を超えたら、憶えてくれるのかしら>
「俺を殺してみろよ。ママを超えるってのは、俺にてこずってる内ははなしにならねー」
<努力するワ>
その言葉を合図に、およそ四十体ほどの骸骨が、雪之丞を取り囲んだ。
<あの黒髪の娘が、かなり最初のほうで言ってたでしょう?
私達の霊力源は地精。人間霊であったあたし本人と違って、今のあたしは残留思念。
つまり、今、あたしが持っているのは意志であって個人の霊魂は欠片もないの。
さらにスケルトンとして一度はリンクしていた相手だったから、あの機械の彼女と
同化した経験を生かせば、この土地そのものになってしまうのは容易だったわ>
プラスにもマイナスにもゼロのエネルギー。いや、白くも黒くもしない透明な絵の具が
この広大な青くて丸い地球というキャンパスにこぼれても、関知するものはいない。
ただ、誰の目にもイレギュラーだったのは、その絵の具に心があって、
キャンパスを乗っ取ったことだ。誰も排除しようとは思わなかったろう。
透明な絵の具は影響力はゼロだろうという思い込み。
描き込まれてしまえばそれはもう絵の具ではなくて絵という集合にして個である事実。
乗っ取られるまでは、宇宙意志と呼ばれる絵描きでさえ気づくことはできなかった。
「つまり、今、この骸骨どもは全部テメー本人、ってわけか…」
――さぁて、いよいよ俺に生きる価値があるかどうかがハッキリするな、こりゃ。

キヌは、手を握られていた。それはそれだけなら別に困りはしないのだが。
相手に顔がないとなると、少々手持ち無沙汰の感がある。それは地から生えた腕だった。
あと10p手を伸ばせれば、死霊使いの笛を取ることができる、そんな状態。
「成仏したくないんですね。でも、安心してくれていいんですよ。
この笛は、私が使っている限り、一方的な命令はしないんです。
ただ、言葉は人の心までは伝えないでしょう?
この笛で、貴方達と、誤解のない話し合いができるんですよ」
言って、掴まれていない方の手をかざして、その腕に精神を集中する。
しばし溢れる、ヒーリングの輝き。
<誠意の証でも見せているつもりか……その場凌ぎだな。見苦しい>
「そうですね。カッコ悪いです。他にできることはありませんし」
<オレを活性化してどうする?この手首、握りつぶされたいか>
「貴方の心がそうして満たされるなら、かまいません…あ、私が望むって話ですか?
とんでもありませんよ!痛そうだし血がいっぱいでちゃうだろーし」
<………オレの心を満たすものはな…いや、ここにいる連中はほとんどそうだ。
もう…この世には残っちゃいない。ただ、一人だけ別格でな。寂しい思いはさせられん>
「それなら、その霊(ひと)もきっと成仏させます」
<口で言ってないで、力づくでどこまでできるか、見せることだ。
そうすればオレ達も裏切ったわけじゃなく力及ばず、って話になる>
「オジサン、頑固だと子供に嫌われますよ」
<お子様は言うことが違うな…だったら若者の頭が柔らかいとこを見せてくれ>
「絶対、力づくなんてやりません」
<頑固だと行かず後家で終わっちまうぞ。成仏が嫌だと言ってるんじゃない。
格好をつけさせろと言ってるんだ。大人の顔を立てろ>
「じゃあハイ」
ペタ
いきなり三十万の破魔札を貼り付ける。
<うわッ!?>
驚いた白骨の腕はビックリした拍子に地面にもぐりこむ。
この隙に笛を拾い上げたキヌはニコニコと微笑んで。
「そのお札、耐用年数が切れてますから、実質二十円ぐらいの力しかないんですよ。
格好つけるどころか、ちょっぴり恥ずかしいエピソードができちゃいましたね」
正規の仕事の際に貸借させる札以外では
美神がキヌに二束三文で流した札には、どれ一つマトモな札などない。
GSとして立派な知識と技術があるものなら、修繕と細工で騙し騙しやりくりできる札もある。
それらを、面倒臭い、とかでまとめて押し付けてくれるのは逆にありがたいほうで、
まれに今回のようなにっちもさっちもいかないハズレ札もある。
安く流すあたりを身内に優しいと評すべきか。
はたまた廃棄するばかりのゴミ札を再利用するあたり商魂逞しいと賞賛するべきか。
キヌは、キチンとその点を指摘した上で、いつも美神の言い値で買い取っている。
騙された振りをするべきかどうか迷ったが、それは流石に相手が心苦しいだろうから。
<オレは大馬鹿者らしい。頭じゃ成仏すべきだ、ってわかってたつもりだったんだが>
「全然バカじゃないと思いますよ。私の友達も言ってました。
人間って理屈で動くわけじゃない、って」
<すべては心の赴くままに、ってわけか?それでいくと、敵同士になっちまうぜ…>
「……やっぱりそれが、話し合いの限界、ってものなんでしょうね……」
言って、笛をそっと唇に当てた時――
ゾザザッ
背後から骸骨の二人組が飛び出す。
ザゥッ
「うわッ!?」
カルシウムの手刀で腕を斬りつけられ、笛を取り落としてしまう。
バシッ
転がった笛はもう一方の骸骨の出足に衝突して、かなりの勢いで弾かれる。
「笛ッ!?笛はーッ!!?」
その場でグルグルともがくキヌをよそに、さっき話してた骸骨が地中から飛び出し
飛来する笛を受け止めようとする。しかし、誤算があった。笛に勢いがありすぎたのだ。
ガッ
手で取りそこね、胸骨で跳ね返してしまう。
コンッ
「キャッ!?」
跳ね返ってきた笛に鼻をしたたかぶつけてうめくキヌ。
しかし肝心の笛は後方へそらしてしまう。
「わたたたた……どっち、どっち!?」
きょときょと見回し、笛の存在を見止めるや、一目散に駆け出す。が。
ガツッ、ドタンッ
盛大に躓く。しかし倒れはしたもののなんとか笛はガッチリキープ。
「いった〜………と、とにかく邪魔されないで吹ける間合いをとらなくちゃ」
駆け出す。自分の足を引っかけた、マリアのワイヤーに毒づくことも忘れて。

闇が疾駆していた。闇色の、人を象るアーティファクト。
ただでさえ、普段から少々自重が枷になって、馬力はあってもスピードはない。
今はその重い自重の、左右のバランスが悪く、走りづらいことこの上ない。
その闇色を、自らより毟り取る。なんの事はない、ただの袖のない葬服。
用があるのは服そのものではない。先ほどの背中に受けたダメージで服に開いた穴。
こいつのおかげで脱衣する手間が省け、片腕がない現状では非常に効率がいい。だが、足りない。
だから毟り取って切り開いているのだ。そして、露出した白銀の背中が、おぞましくせり出す。
それは格納式ウェポンラッチ。それも、彼女の内臓火器の中でも特別大規模な威力を秘めた武装。
なぜならそこに格納されているということは、人間の偽装を解かなければ使えない。
街中ではまかり間違っても使ってはならないタイプの兵装専用のラッチなのである。
「ウェポンコードFSS・ショットポジションへ・セットアップ」
ボシュッ、ボシュッ
開放されたラッチから、巨塊が二つ、真上へと打ち上げられる。
「ターゲット・最少限度情報で・ロックオン」
自分を追跡・包囲する動く骸達。
その一体一体を一瞥しただけで、その瞳の奥では大小二つ一組のカーソルが次々現れ重なってゆく。
普通、この兵器はロックオンしてから打ち上げるのだが、この順番で処理を行えば最速で発射できる。
セオリーの話をすれば、そもそも戦術級兵器でこんなアバウトなモードでロックオンはしない。
「ファイヤーサテライトシステム・フルアタック」
巨大な二つのオールレンジミサイルポッド。それらが産み落とす、破壊の焔を宿したモノたち。
それら、『爆撃衛星』の名を冠した人造物。破壊を齎す事を望まれて産まれて来た、自分の兄弟。
そのことに深い意味などありはしない。機能とは役割で、役割からは結果が生まれる。
至極当たり前の結びつきを、ニンゲンは時折、見失う。
それはもしかしたら、かつて自分の妹が予見していたことかもしれない。
ただ、機能を生んだのは、自分に関してだけ言えば人間で、それは結果だった。
その結果が、今こうして、破壊を紡いでいる。結果から結果が生まれる。永遠に続く事象。
だから、破壊が結果である以上、また別の結果に結びつく。創造も、破壊も、加護も、等価値のはず。
何故、破壊からは無にしか続かないと言いきれる?未来を見たようなことを言ったのは誰だ?
人間である伊達雪之丞は見失っている様子だった。だが、認識の不備にこそ意味はない。
人が何を考えていようと、成したことには意味が、結果が生み出され、紡がれてゆくのだ。
彼女には解るのだ。人間ではないから。紡がれる命ではない、傍観者に過ぎないからこそ。
生命とは強く、凄絶な存在だ。生きるということにはそれだけで、それだけに終わらない価値がある。
彼女にはみんな解っている。今、ここにいる意味――。

つづく

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