ザ・グレート・展開予測ショー

Dear・・・(前編)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 7/27)


ドゴオオオォッ!!

「ぐっ・・・あ・・・!!」

 最初に襲ったのは、五体を裂かんばかりの衝撃と痛み。次に全身を支配したのは、惰性にも似た妙に心地よいまどろみだった。そのまどろみに溶け込むかのように、横島の意識はゆっくりと深い闇の中に耽溺していった。

「よ・・・横島ー!!!」

 深い慟哭と驚愕を湛えたタマモの絶叫が木霊する。だが−−−その悲痛な叫びが横島に届くことはなかった。



 
 赤々と灯った「手術中」のプレートが色を失い、中から疲労の色を濃くした医師団が現れる。それを確認すると、未だ血の付着した手術着を羽織ったままの医師の下に、美神達が憔悴した様子で詰め寄った。

「先生、横島クンの容態は?」
 
 美神が最も重要な部分を簡潔に医師に尋ねる。ここ白井総合病院では美神達と顔馴染である医師が、眼鏡の奥を曇らせたまま重い口調で言った。

「心身ともに衰弱しきっていて、極めて危険な状態だ。恐らく−−−今夜が峠だろう」

 医師からの最後通牒を宣告された美神達は、魂を抜かれたように呆然とその場に佇んだ。今夜が峠、それは畢竟今夜が今生の別れになるかもしれないということだ。一瞬、物言わぬ屍となった横島の姿が雷鳴のように脳裏をかすめ、誰もが言葉を失った。
 医師が立ち去ってからどのくらい経ったろう、最初に我を取り戻したのは他ならぬシロだった。彼女は邪視と見紛うほどの憤慨を込めた目つきで、荒々しくタマモの胸倉を掴み上げた。

「タマモ!!貴様のせいで、貴様のせいで先生がっ・・・!!」
「やめなさい!!シロ」

 出鼻を挫く絶好のタイミングで美神が制止をかける。実際、誰も止めなければシロはそのままタマモを絞め殺すほどの勢いである。そして、今のタマモにはシロの手を振り払う力もなければ、真っ向から言い合う気力も皆無だった。
 横島が瀕死の重傷を負ったのは、間接的にはタマモが原因だった。除霊の最中、背後から彼女を強襲しようとしていた悪霊を、それに気付いた横島が自分の身を盾にして防いだのだ。いかな無防備だったとはいえ、横島を一撃で戦闘不能にする程の破壊力。横島が身を呈さなければ、タマモは間違いなく命を落としていただろう。

「とにかく・・・事務所に戻りましょう。横島クンは、今は面会謝絶だろうしね」

 場の空気を立て直すように美神が言い、返答を待たずして踵を返し歩き出す。だが、シロもおキヌもタマモも、根が生えたようにその場を動かなかった。

「私は・・・いい。横島が目覚めるまで、ここにいる」

 三人の気持ちを代弁するように、顔を伏せたままタマモが言う。シロもおキヌも、その言葉に沿うように黙ったまま近くのソファに腰を下ろした。砂の城の様に今にも崩れ落ちそうな三人が、痩せ我慢しているのが美神には痛々しかった。
 美神は深く溜息をついたが、やがてもう一度回れ右しておキヌの隣に腰掛けた。本当は自分も横島の側にいたくて仕方なかったのだが、それを自ら言い出すのも彼女としては顔から火が出るほど気恥ずかしいことだった。
(私はおキヌちゃん達の為にここに残ってんだからね。断じて横島の身を案じてなんか・・・)
 意中の人を心配するにも自己名目が必要となる美神は、自分の強情な性格が少し恨めしかった。苦笑とも同情ともとれる、美智恵の含蓄ある笑みが頭に浮かぶ。
 タマモは、ソファに座ることもなく静かにその場に佇んでいた。だが、その拳は己が情念を必死に留まらせるかのように、固く握られたままだった。
 



(ヨコシマ・・・ヨコシマ)
(・・・ん?・・・・・)
 精神に直接語りかけるような透き通った声に、横島はゆっくりと瞳を開いた。そこに広がるのは、亜空間のような闇色の世界。天地も判然としない空間に、横島は宇宙飛行士のように無重力状態で浮かんでいた。
(あ、やっと目が覚めた)
 再び脳にその声が木霊した時、横島の全身は一気に覚醒した。幻聴でも、耳鳴りでもない。聞き紛う筈もない、最愛の女性の声を聞いた横島は全方位に一斉に目を向けた。
(ルシオラ!!ルシオラなのか!?どこにいるんだ!?)
 歓喜を滲ませた横島の呼びかけは、闇色の空間に静かに吸い込まれていった。それが無言の嘲笑のように思えた横島は失意に肩を落としたが、その時再度ルシオラの声が響いた。
(ここは、あなたの精神世界よ。姿は見えないけど私の残留思念があなたに語りかけてるの。それで、ヨコシマ。あなたに聞きたい事があるんだけど)

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