ザ・グレート・展開予測ショー

推定無罪! その15


投稿者名:A.SE
投稿日時:(02/ 7/27)

その日の朝、空は前日の天気予報の通り見事に晴れ上がっていた。
 およそモノノケだのオカルトだのという薄暗いイメージのつきまとうものはどこかへ引っ込んでしまいそうな陽気だったが、実際のところそういうわけにはいかない場所もある。
 阿藤邸の裏口前では、続々と大型乗用車やライトバンがやってきて、背広姿の男たちを降ろしていた。33ナンバーもあったし、そうでないものもある。最終的に今回の作戦のため阿藤屋敷に集結した人員は、公安の警備関係者30人、心霊捜査関係者35人、警察関係者15人、個人雇いのSP10人、オカルトGメンの捜査官一人、民間GS一人、総計82人にのぼった。
「…ったく、どーしてお前と一緒なんだよ…。」
「君は美神先生の言った事を聞いてなかったのか!?」
 敷地内に広がる、ほとんど森といってもいい広い樹木密生地の入り口で、今回の作戦の指揮官、というよりは実行者そのものにあたる二人が、いまからもうすでにいがみ合いをしていた。
「君は保釈中とはいえ犯罪容疑者なんだぞ!今回の事はGメンの捜査官が行動をともにするという条件で了解をとったんだ。先生がタマモちゃんの方に行かなきゃならない以上捜査官といえば僕しか居ないだろう!」
「俺は犯罪者じゃねえっつってんだろ!?あれは厄珍の野郎にハメられたんだ!それに捜査官が行動を共にするって割に俺だけこの森の中へ入って行かにゃならんというのはどう言うわけだ!?」
「仕方ないだろう!シロ君が多少なりとも説得に耳を貸しそうなのは君だけなんだから!警察の方もここまできて捜査に必要だといえば文句は出ない!」
「さっきサイレンサー付きのライフル持ってる奴見たぞ!あいつら俺たちを良いように利用して最後は撃ちまくるつもりでいるんじゃねーのか!?」
「そんな事をさせないように僕が外へ残るんだ!その頭に留めてあるテレパシー発信機で僕と君は誰にも気づかれずに連絡をとりあえる!大体打ち合わせは来る前に散々してきただろう!?グダグダ言ってないで早くシロ君と合流しに行きたまえ!」
「わかったよ!なんだってんだ偉そうに…」
 横島はなおもぶつぶついいつつ、とても個人所有の屋敷の庭とは思えない鬱蒼とした緑地帯の奥へ入っていった。西条はそれを見届けると、敷地の反対側にある屋敷の方へと戻って行く。
 阿藤屋敷の本家は、基本的に3棟からなっていた。一番手前にある平屋の日本家屋には阿藤掴苑の母親が住んでおり、十人ほどの使用人がいる。その後ろの御殿風な建物が母家で、掴苑夫婦とその末娘が五人程の使用人と暮らしている。一番後ろの鉄筋家屋には、掴苑の長男の財務省秘書官夫婦が暮らしていたのだが、その長男は全身麻痺で入院中、妻子は都内のホテルに避難していて残っているのは3人の使用人だけ。更に少し行くと、掴苑の秘書などを勤める阿藤家の近親者が7人ほど暮らす離れが2棟あったが、全員病院送りになるか避難するかしていて今は無人だった。
 西条は、前後にある建物を城壁がわりにして要砦式に警備されている、無闇に立派な母屋へとやってきた。ここ二日間白昼から襲撃されてSPに犠牲者が出ている事から、落ち着かない感じの警備要員が小型ライフルを下げて周りをうろついている。
 今回は屋敷の警備のため、玄関に一番近い客間が作戦室として提供されていた。西条が入ってくると、いままで屋敷の見取り図を広げて熱心になにか話していたらしい担当者が急に耳打ちをしあって黙り込む。独断でなにかしようとしているのは明らかだった。
 …助けを求めておきながらなんて連中だ…。西条はそう思いつつも不愉快な表情をなるべく出さないようにしながら、今回の名目上の責任者である警備部の主任の前へ歩いていく。
「一応下見はしてきましたが、問題ありません。横島君は犬の群れの探索に向かいました。作戦は予定通り実行します。」
「しかし、あんな子供で本当に大丈夫なのかね?どうせならもうちょっと経験豊富なGSを…」
「彼は十分経験豊富です。」
 役人らしいナワバリ意識から難癖をつけようとする主任を、西条は強い口調で遮った。
「それにGSの能力を判断する際年齢は必ずしも判断基準にはなりません。専門家である我々が専門家である彼を選んだんです。その点は信用していただきましょう。」
 …まあもっとも、こちらからして公安を信用していないんだからそれは無理な相談かもしれないが…。西条は相手がなにか言い返す前に踵を返して出口へと向かった。
「みなさーん、お仕事お疲れさまでーす!お茶とお菓子持ってきましたのでどうぞ召し上がってくださーい。」
 唐突に、コーヒーと茶菓子のお盆を持った二人の女性が作戦室に入ってきた。後ろでコーヒーを運んでいるのは明らかにメイドと思われる中年女性だが、まえで明るい声を出した方は二十代半ばのお嬢様と言った感じである。
「毎度毎度すみませんなあ、恐縮です…」
「いえいえ、こちらがお世話になってるんですから当然ですわ。」
 愛想笑いをする主任へ和やかに返事をしながら、その「お嬢様」は菓子を配ってゆく。ふと、部屋から出て行こうとしている西条が目に入った。彼女は駆けよってそれを引きとめる。
「急いでらっしゃるんですか?」
「いえ、別に…。」
「それならお茶を召し上がって行ってくださいな。」
 彼女は問答無用で西条の手にコーヒーと茶菓子をおしつけながらいった。
「今日、新しくいらした方ね。」
「はあ、オカルトGメンの捜査官です。」
「えっ!?オカルトGメン!?霊能者の方なんですか!?」
「ええ、まあ…」
 突然彼女の目が輝きはじめ、興奮した口調になる。
「すごーい!!カッコいい!私、小さい頃から霊能のある方に憧れてるところがあったんですけど、実際お会いするとなんだか怖い感じだったり変わった雰囲気だったりすることが多くて、いつも踏み込んめずじまいだったんですよ。でもあなたみたいな普通にハンサムな方もいらっしゃるのねぇ!お名前はなんておっしゃるの?」
「はあ、西条です…。」
「私、阿藤掴苑の三女で恵といいます。西条さん、お会いできて嬉しいですわ!!」
 微妙にズレた部分で喜んでいる美人の国自党幹事長令嬢を前に、西条の愛想笑いが微妙に引きつっている。なにやら厄介な事になる予感がしていた。

 その頃横島は…
ヴァウガウッ ヴァウガウッ ガウッヴァウ
「い、い、いきなりなんやぁぁぁぁ!?」
 突如現れた2頭のドーベルマンに追いかけまわされていた。
「シローッ!!どこにおるんやーっ!ひえーっ!西条―っ!!助けろ―ッ!!」
 

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