ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム10:「ガイア・ロットン・マスター“死霊の王者・予兆編”」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 7/24)

「マリア!」
「イエス。質問・あります。笛の・正確な・位置です」
「雪之丞さんを助けて助けて助けて助けて助けて………助けて…私じゃ…できな……」
こみあげるものに言葉を遮られ、キヌはそのままマリアにしがみつく。
「ミスおキヌ」
抑揚のないいつものマリアの声。いつもは勝手に感情表現が下手なんだと決めつけて
苦笑しながらその声をうけとめていた。今日はひどく冷淡に、機械的に聞こえる。
「アナタが・一番・確実に・雪之丞サンを・救えます」
「…う……?」
感情の頂点へ到達してから一拍遅れ、ぼろぼろと熱を、瞳から落としつつ聞く。
「マリア・また前回と・同様に・飛び込みます。システムエラー・確率・21.53%。
これは・予測される・耐魔フィールド・展開・回数から・割り出されます」
「……………」
それは困る。ましてや、当のマリアに向かって、
また乗っ取られたって構わないから行け、などと言うつもりもない。
だからといって、雪之丞を見捨てるというのは違うのではないか。
「比して・ミスおキヌ・笛を・回収した・場合・敵の・攻撃目標を・分散させる・可能性・92.73%」
「……あ…!」
「また・ミスおキヌ・護衛すること・容易です・雪之丞サンより。
復唱して・ください。笛の・回収を・優先します」
マリアが言い終える前に、キヌはぐしぐし顔を擦ってから言った。
「イエス!回収します!…なんちゃって」
「ノー。イエス・アクセント・間違ってます」
「う……だって、英語なんて半年前まで知らなかったんだもん!!」
そんなやりとりをしながら、マリアは考えていた。
実は、雪之丞も、同じことを考えたのではないか?
自分達がより安全に死霊使いの笛を回収することを優先して囮になったのではないか。
だとしたら、自分の戦略プログラムを上回る知謀の持ち主である。
あの男がドクターカオスに牙を向いたとしたなら、どんな恐ろしい強敵だろう。
ありがたいのは、当面はそんな心配のない、親しい友人であるという点だった。
今、あの男は頼もしい味方だ。キヌの執り成しで、競争相手ですらなくなった。
マリアが、実は雪之丞は頭に血が上り易いアホだ、などと気づくのは、いつのことだろうか。

「どっりゃあッ!」
ブグシャ
骸骨の一体を顔面から踏み抜き、打ち砕く。
しかし、その骸骨はその場からすぐに再生する。
雪之丞は忌々しげに舌打ちして間合いを図った。
「といって……あんまりもたもたしてっとさっきみたいに囲まれちまうから……な!」
ヅドゥッ
雪之丞に言わせれば、この状況で霊波砲はあまり使いたい気にはならない。
霊波砲を扱う時の理想的な敵との間合いは遠すぎず近すぎず。
遠すぎると不器用な自分では的に当てられなくなるし、近すぎるとチャージ中の
無防備につけこまれるわ至近距離で霊波が炸裂すると目を灼かれるわで不都合だ。
そんな霊波砲の理想の間合いである中距離は、ご存知骸骨プレスを喰らう間合い。
まして、的が複数で、てんでバラバラな動きをしているとなると、この距離でも精度は落ちる。
かてて加えて敵の包囲攻撃を防ぐためには足を止めるわけにはいかず、
こちらもあちらも動きっぱなしで狙いをつけるのはほぼ不可能。
足を止めてはいけない所為で連続砲撃も迂闊には使えない。
だから今できるのは、こんな苦し紛れだけだ。
霊波砲で墓石を砕き、その破片を散弾銃のように骸骨達に喰らわせて砕く。
先程はこの墓石が逆に障害物になって、余計に狙いがつけづらいことこの上なかったが。
大抵の場合の問題は、逆転の発想で片付くものだと、雪之丞は苦笑した。
ガシッ
「うぉッ!?」
地から生えたカルシウムの腕が、雪之丞の左足を掴んだ。
「…………やれやれだ……ちょいとヘビーな展開になってきたぜ」
四方から、十数体の骸骨が飛びかってくる。たった一瞬足を止めただけで。
「まったく…参るぜ……ホントによ……俺の隠し球を使い切らせやがって」
ドドンドドドドドキュボボボボボボボンッ
雪之丞の周囲に存在したすべての骸骨や地面に生えた腕が、発光して一気に破裂する。
それは確かに霊波砲の攻撃であった。ただ、唐突に敵が存在する座標に生まれただけ。
「霊気の盾の応用技さ。あれはちょいとばかし手の平より前方にできるからな。
霊気を離れた場所にいきなり送り込む、って真似自体は出来る理屈だったってわけだ」
もっとも通常の霊波砲とは比較にならない制御の難しさゆえそう何度も使える芸ではない。
自身の霊感を精神統一で一時的に拡張して、一定半径のあらゆる事象を掌握する。
そう、文字通り手の先にあるかのように完全に認識できた時、
はじめてその空間に霊気を送り込める。一種の絶対領域と化すのである。
守ることを使命とするマリアの耐魔フィールドに対して、
攻めることを人生訓とする雪之丞の回避不能攻撃フィールドといったところか。
失敗した日には確か魔装術が爆裂して死にかけた。
魔装術で現世次元に自分の霊体を持ち込んだ時だけ可能な必殺攻撃。
だが、キヌの考えどおり、骸骨達がここに駐留していた以上、
彼らに知性があるのはもはや疑う余地もない純然たる事実だった。
一度この技を見てしまったからには、次は引っかかってくれないだろう。
「まったくヘビーな展開になってきやがった……この俺好みの、な…」
追い詰められれば、不愉快なことを考えずに済むからだ。そして窮地は人を成長させる。
――もっと俺を追い詰めてみろ。そして、明日の強い俺を形作る踏み台になれ!!

「あれよマリア!あの塔婆のちょうど真後ろにさっき見つけたの!!」
しかし、バカ正直に歩み寄って取ろうなんぞとは思わない。
骸骨どもが潜む場所などいくらでもあるのだ。そしてだからこそ、マリアが随行している。
「イエス・ミスおキヌ。ロケットアーム」
ガヒョッ
留め金が外れ、炸薬が弾け、鋼鉄の腕が飛翔する――はずだった。
ゴドッ
「…………マリア?……」
「………推進用の・ジェットが・不足………高価な・燃料・でしたから…」
満タンなら三万マイル分はあるのだが、ここ数ヶ月の補給はまったくなかった。
「ちょっとおおおおおお!?」
その悲鳴に反応し、周囲に、骸骨達が物陰から次々姿を現す。
「…………大丈夫。安心して・ください。きっと・笛は・吹けますから。
ただ・笛を・回収する・お手伝いは・できそうも・ありません」
「マリ……ア………?なにを……」
「繰り返します。お手伝い・できること・なにも・ありません」
ザッ
マリアはきっちりと言い終えてからすぐさま踵を返し、よもや、ワイヤーを巻き上げる
ウインチの作動も勿体無いほど電力に余裕がないのか、右腕をその場に残して
駆け出した。左手で、だらしなくワイヤーを伸ばされていく右腕を庇いながら。
やおら、スケルトンの、あの不愉快な硬い笑い声が響きだす。
<カカカカカ!滑稽だな。自爆して片腕失ったのがよほどショックか?こいつ逃げやがる!!>
「違う……!違う違う!!マリアは私なんかより強いもの。怪我したぐらいじゃ逃げたりしない」
なおも骸骨達は嘲笑を止めなかったが、マリアを逃がす手もない。進路を塞ぎにかかる。
ザザザッ
塞がれた進路をかなり際どい所まで進んだが、途中で右に曲がってしまうマリア。
もはや、キヌの抗弁に骸骨達は反論するまでもないとして、ひたすら笑うのみ。
反論がなければ、キヌも言い返しようがない。なのに言い返したくさせるのは、
彼女自身にも、その光景が逃げ惑っているように見えたからだ。しかし――
「………きっと大丈夫…そーだよね。私も自分で頑張らなきゃ。自分から――戦わなきゃ」
タッ
決意を新たに、真っ直ぐ笛に向かって駆け出す。
転ばないように気を遣っているから、お世辞にも速いとは言えないが。
そもそも、この除霊に参加した理由はなんだったか。
勝ち取るためだ。自分の、『シアワセ』。
彼女には闘争本能や競争意識というものが欠如してる。
別にそれはそれで今更諦めているし、人と競い合ったりしないで済むのも
自分の価値観に照らし合わせて考えてみれば得なことではある。
人と争っても、得るものと同等以上のものを失うだろう。
それに他者を傷つけるのは、お世辞にも自分もあまり快いものではない。
だから、自分が我慢して済むなら、つらさは半分で済むというのが、彼女の持論だ。
しかし、この世に無二の真理など有り得ないことを、彼女は知ることになる。
欲望――飽くことなき欲求は、今を享受せず、より願望に近い未来への行動の糧となる。
時として利己的で調和を乱しがちな欲であるが、向上心というものは欲から派生するのだ。
善と悪が共存する感情。自分がいつまでも強くならないのは、このためかもしれない。
欲がないわけはないのだ。多分、ほとんど条件反射になりつつある『我慢』なのか。
それとも、やはり闘争本能の欠如が原因なのか。とにかく自分でも、明確な欲が見えない。
どうしても、自分の希望は「ずっとずっと、このまま変わらず時が過ぎたら」満足だ。
変わることを望んでいない。進むことを拒んでいる。その事実は彼女を追い詰めた。
変わらなければ。自分が僅かにでも力をつけなくては。不幸な霊を無くすために。
そんな時、今回のシチュエーションはおあつらえ向きだった。
自分が持ちうる、最大のチカラ、除霊。自分の最大の欠如、競争。自分の最大の望み――。
持てる能力を使い切って。他者を押し退けて。自分に考えられうる究極の望みのために
それらを成し得たら、自分は、ひょっとしたらちょっぴり、変われるかも知れない。
犠牲を払ったら、それだけの事をしたら、
前に進むことを拒むわけにはいかなくなるかもしれない。
自分で納得してワガママを言えるかもしれない。『一番に想ってほしい』などのワガママを。
それが、今まで結局いつも通り。ついついマリアや雪之丞を気遣いすぎた。
彼らには彼らの考えや判断があってバラバラの好き勝手に行動しているのだ。
それを咎めるのは筋違いというもの。
はじめからそういう話だったのに、自分が頼み込んでその約束を反故にしただけ。
みんな身勝手。みんなワガママ。だけど、これはそもそもそういうゲーム。
「いくら私が死人だったからって、ホトケさまってほど心は広くないんだから!
ちっとも協力するつもりがない二人……こーなったら私一人で幸せになっちゃう!!」
希望へ、一縷の迷いも見せずに走ったのは、彼女にとっては初めてのことかもしれない。

つづく

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