ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム:9「ゆらめくスノゥドロップ」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 7/23)

「さて、タネを明かしてもらおうじゃねーか」
雪之丞はなげやりな口調で言った。多分マリアは、キヌがどうして生きてるのか知っている。
「耐魔フィールドの・極を・反転させ・斥力を・逆転して・幽体を・牽引・救助しました」
「………ひょっとしてそれって、電池を逆さまにはめるとミニ四駆が逆走するようなモンか?」
<いくらなんでもそんな単純では……>
「そんな・感じです」
<単純なんだ……意外と…>
少し疲れた声音で、キヌが呟く。
「霊体が・吹き飛んでも・残留思念に・霊気を・注入すれば・再構築されます」
「でもよ、どっから声だしてんだ?さっきっからちょこちょこ口はさんでるよな」
<………?そー云えば私もここがどこだか気になってましたけど>
「マリア・内部の・フィールドジェネレータです。反発を・逆転させ・吸収。必然の・結果です」
「マジかよ!?」
<え?ここがマリアの……えっと…>
人間のどの器官にあたるか想像しているようである。人間にはフィールドなどないんだが。
「いや、考えなくていーだろ。別に。ほれ、さっさと肉体にもどれよ」
「それは・まだ・無理です。一度は・最小単位まで・砕けていました。衰弱が・激しいです」
「あぁ!?んじゃ、どーすんだよ?」
「フィールド反転を・継続します。周囲の・霊力を・吸収して・霊体の・回復に・あてます」
「……………わぁったよ。ここはひとまず休憩だ」
<じゃ、いい機会だから雪之丞さん、マリアに謝って>
キヌの声が何故だか弾んで聞こえる。
「るっせーな!ガキかよ俺は?いわれなくったってそんぐらい解ってんだ。
むしろ、他人に指図されると意地でも逆らいたくなんだから黙ってろよ」
<す、すみません……でも指図とかそんなんじゃないんで…>
「解ってる、つったろ?……あー、んと、さっきは悪かったな。
くたばればいい、なんて言っちまってよ」
目を逸らして頭掻きながらゴニョゴニョ呟く雪之丞。ちょっと見れない光景である。
「ノー。状況が・状況です。むしろ・マリア・その意見・推奨します」
「え?」
あまりの言葉にまともにひるむ。これは、ワリと普段から見受けられる雪之丞の仕種だ。
「結果的に・装備の・大半を・失わずに・済みました。
ですが・戦略的に・あまりリスキーな・選択は・推奨しかねます。
本機・マリア・装備にすぎません。損失する・可能性は・本来・不可避です。
システムエラーを・起した・時点で・破棄するのが・ベストでした。
雪之丞サン・ミスおキヌ・判断を・誤りました」
<そんな!?>
「黙れよ、おキヌ。こいつの言ってることはいちいち理詰めなんだ。お前にゃあわねェ。
それに俺だって、お前の気持ちも解るけどよ、今回ばかりはロボットの言い分に賛成。
俺たちは間違ってたよ。だけど、後悔も反省もないぜ。
同じ状況がまた起こったら、俺はまた同じ間違いを繰り返すだけさ。
人間ってのは理屈で動くわけじゃねーからよ」
「理解できません。ですが・現在・演算が・通常の・113.14%・スムースです」
「嬉しい、だとよ。今はこれで納得しとこーぜ」
<はい>
「おっとそれと、ロボット、俺、かなりしこたまぶん殴っちまったけど平気か?どっか痛むか?」
聞いたことは忘れる、といっても、全く触れないのも不自然だと思う。
雪之丞はマリアの言葉で、『痛み』を聞いてみたいと考えた。
通常稼動中に実行するのは非合理的だと考えつつ、マリアは要望に答える事にした。
「算出処理中………まず・腹部・『ひどい!赤ちゃん産めなくなっちゃう』…」
「は?」
<え…赤……?>
「続いて・左腕部・『痺れてお茶碗が持てなくなるくらい痛い』……」
「えっと……」
<お茶碗……確かに左手ですけど…>
「頭部・『殴ったね!親父にもぶたれたことないのに!!』…プログラム終了…以上です」
<それって………>
キヌの困惑の声に答えるつもりだったかどうか、雪之丞は結論を導き出した。
「ま、産みの親があのジーサンならこういうボケをかますのも頷けるよな」
しかし、内心はちっとも納得していなかった。自分の攻撃はそんなもんかい、と。
彼らは知らない。このシステムがそもそもストレス緩和用のプログラムだということを。
まぁ、人間女性の霊であった『彼女』にとっては腹部は致命的だったのだろう。
それこそどうでもよいことだったが。
「あ?そーいや、あの下衆女がいなくなってるな」
「そこに・落ちている・シリンダー・彼女です」
「これが?」
それはマリアの首筋から排莢されたものだった。ゴーストシリンダー。
元々は耐魔フィールドを装備したことで不要になった対霊兵器である。
エクトプラズムを射出して体表面の一部をコートすることで霊体に干渉させる。
耐魔フィールドに比べてCPUへの負担や必要なスペースは少ないのだが、
高価な霊媒物質を圧縮・凍結して保存するシリンダーは制作費がバカにならない。
それに耐魔フィールドのような、状況に応じて形態を変える柔軟性も持たせられない。
そして、費用対効果で考えたら圧倒的に耐魔フィールドのほうが頑丈である。
不必要だから現在手元にある分のシリンダーを使いきり次第オミットされる予定の装備だ。
その内の一つに、条件を満たせなくなってマリアから遊離した彼女が入ったのだ。
「それなら、あのバカ女もこれでお終いだな」
パギュチュッ
雪之丞が踏み潰すと、ケースが砕けて中のエクトプラズムが漏れ、一瞬で蒸発した。
なにかの意志を取り込み、尚且つその意志が消滅したがゆえの現象だ。
「今・気化した・霊気で・規定値まで・霊力が・チャージされました」
「おっし!そんじゃあ、おキヌに俺の左腕をヒーリングさせたらとっとと仕掛けるか。
最終決戦を、よ」

その頃の美神とタマモ。
「マングース」
「砂嵐」
「ショーケース」
「スリランカ」
「カモノハシ」
「芝刈り機」
「きりたんぽ」
「ポラロイド」
「ドンタコス」
「スキー板」
「宝物」
「野良ウサギ」
「銀狐」
「ね…ねこ……ねこまんま!」
「ちょっと遅かったよ美神さん、一勝負五百円ね♪」
「しまったぁ…………『ん』で終わるんじゃないかと躊躇して……!!」
五音限定しりとりルール――持ち時間は一回につき二秒。
「よしよし…こっから巻き返すわよ」
「ほざくがいいわ!ギャンブルに勝つには資本力よ!身包み剥いで風呂屋に放り込んでやる!!」
「そんじゃスタート。とうがらし」
「あら、タマモ?それ正しくは、とんがらし、よ」(注釈:これがホントの真っ赤なウソ)
「え?そう…だっけ……?」
「はーいチョンボよタマモちゃん、五百円払いましょーね」
なんだかこれはこれで白熱していた。閑話休題Vol2「チョコレートゲーム」了

歩調を変えぬまま、右の拳で肘を叩く。それもドスッ、と鈍い音がするくらい強烈に、である。
「ふむ……まぁ、気休め程度にはマシになったか」
「すみません。私にもっとチカラがあれば……」
「そーだな。ま、戦場じゃ『たら・れば』はご法度だ、とかどっかで聞いたことあるし
とりあえずザコども蹴散らかすのには今ので充分だぜ」
不機嫌そうな表情を隠そうともせず、言う。
「笛を・回収すれば・掃討する・必要すら・ありません」
「それなんだけどな……色々考えて、俺やっぱピンで突っ込むわ」
「えぇ!?」
「俺はお前らみたいに救ったり守ったりって器用なマネはできねェ。
ひたすらぶん殴ってヘち倒すだけなら、徒党を組む意味もねェ。
だから俺は勝手に動く。そういうわけで、よろしくな」
言って、雪之丞はようやく見えてきた骸骨の集団に向けて駆け出した。

キヌがマリアを救ったことは、雪之丞に少なからぬショックを与えていた。
――俺だったら壊すことしかできなかった。壊すことさえできなかった。
そう考えるたび、キヌの強さに嫉妬する気持ちが育つ。
壊すことが精一杯の自分にはなにも救えない。守ってくれたヒトさえも。
彼女の強さに、自分は劣っているのだ。弱い。あんなか細い彼女に勝てない自分。
そのままなら、自分は壊れてしまう。弱い自分に意味など無い。強くなければ。
――採算が取れない、ってヤツだろ。このままじゃ。
もう一度思い返す。そう。自分は強かったヒトと引き換えに生きてる。
弱いままでは生きる意味も価値もないのだ。強く、彼女を超えて強くなれないのなら――
「……いっぺん死んでやり直せ、俺!」
駆ける脚はさらに加速し、全身は紅い気流を巻き上げる。
「おッおぉぉおおおおぉぉぉ!!やっっっってやるぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ぱぐしゃあっ
電光のような速度で駆け抜けると同時、左右の敵を薙ぎ散らす。
「ほらほらァッ!なぁにをぼさっとしてやがる、このチキンども!!」
叫びつつ手近な骸骨を頭頂から裂き、次の獲物はストマックブローでぶち抜く。
この間、骸骨達の反撃がないではなかった。あるいは脇腹、あるいは側頭部。
雪之丞の正面にいないものは果敢に雪之丞の霊気の鎧を攻め立てた。
しかし、元来防具としての意味あいはないこの露出した霊体も、ひとたび
纏えば擬似魔族の外皮である。マリアの装甲には一歩及ばずとも、
こんな最低位の死霊の攻撃でどうにかなるほどちゃちな代物ではない。
また新たに三体、骸骨を横向きの一薙ぎの下に粉砕してさらに進む。
しかし霊体は、雪之丞の精神の揺らぎにダイレクトに呼応する。
ばしっ
「……………ぐ!」
ゆるゆると解れそうになる黒い腕を、もう一本の腕で押さえつけるように掴む。
この戦いに抱く焦燥や疲労が、彼本来の力を大きく殺いでいた。

「どうしよう?このままじゃ雪之丞さんが…」
キヌは、焦りは悟らせまいとしたが、如何せん正直な性分なのか、縋るような眼差しだった。
「………雪之丞サンを・救出することは・容易です。しかし・笛を・回収しなければ」
「何言ってるの?笛なんかよりお友達のほうが大事でしょう!!」
力一杯怒鳴りつけた。それはマリアを助ける時に雪之丞にそうしたことであったし
なにより感情らしい反応をしてくれないマリアにもどかしさを感じた所為でもある。
「イエス。繰り返します・ネクロマンサーの・笛を・回収することを・優先します」

つづく

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