ザ・グレート・展開予測ショー

昼下がりの法律談義


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 7/23)


「ねえ美神さん、「ゆーせきはいぐうしゃ」って何ですか?」

 昼。ティータイムの最中に突然投げ掛けられたおキヌの台詞に、美神は思わず飲んでいたコーヒーを吹き出して横島にかけてしまった。横島が隣で何事か喚き出したが、美神の視線はおキヌに向いたままだ。

「お・・・おキヌちゃん、そんな言葉どこから仕入れてきたのよ」
「社会科の宿題なんです。それについてレポート書けって」

 無邪気さと天然さを兼ね沿えながら、おキヌが身を乗り出して美神に詰め寄る。まるで初めから美神がそれを知っているかのような眼差しだ。
 美神は教えてもいいものかと愁眉を成したが、課題である以上は仕方がない。机の上に飛び散ったコーヒーをティッシュで拭き取り(横島のは拭き取らない)、難しい顔のまま口を開いた。

「有責配偶者ってのは、結婚生活をぶち壊しにした伴侶のことよ。他に女を囲った夫なんかが典型ね」
「へえ、そうなんですか。けど、美神さんやっぱり勉強家ですね」
「当たり前でしょ。この私が、こと法律に関して素人だと思う?細大漏らさず知っていないと、抜け穴を見つけることも法の目を潜ることもできないじゃない」
「・・・・・・・・」

 あまりにも説得力のありすぎる美神の説明に、おキヌと横島は引き攣った愛想笑いを返すしかできなかった。明晰な頭脳を持ちながら、遵守の目的でなく解れ目を見つける為に六法を制覇するとは・・・宝の持ち腐れもいいところである。
 おキヌは、でも脱税しているんですよね、という突っ込みをすんでの所で引っ込ると、美神から一旦目を逸らすように横島の顔を拭いて再び疑問を掲げた。

「えっと、その場合何か法律的にマズいんですか?」
「んー、とりあえずそいつからの離婚請求は基本的に却下されるわね。他に女ができたから別れてくれ、で誰が納得すると思う?」

 俺は納得しますよ、という横島を鉄拳制裁し、美神が言葉を続ける。

「けど、ま、信義誠実に反しなければ認められることもあるわよ」
「え?」
「具体的な条件は三つ。お互いがかなり長い間別居してること。未成熟の子供がいないこと。相手が家計や世間体、そして心に大きな打撃を受けないこと。この三つに該当すれば、離婚も認められることがあるわ」

 美神の訥々とした講義に、おキヌが頷きながらメモを走らせる。美神がやれやれといった様子でコーヒーを再び口に持っていった時、血の海から復活した横島が首を捻りながら美神に尋ねた。

「けど、そんな条件本当に満たせるんですか?」
「あら?そんなの簡単じゃない」

 美神は横島に向き直ると、悪戯っぽい目を向けてさも当然と言った感じに横島の質問に答えた。

「アンタが誰かと結婚して二十年もすればそーなるわよ。お相手は絶対アンタと一つ屋根にはならないだろーし、体も許さないだろーしね。ましてや別れる時なんて、デメリットよりメリットの方が大きいくらいでしょ?」

 美神の言葉の棘が見事心臓に突き刺さり、横島はあえなく撃沈し円形のテーブルに突っ伏した。さっきまでコーヒーに汚れていたテーブルが、今は横島の涙でしとどに濡れていた。
 おキヌは横島に同情気味の眼差しを向けていたが、つらつらと考えるにどうもその「お相手」というのが美神以外に考え付かない。とはいえ、そんなことを言おうものなら凄絶なる惨劇を生むのは目に見えていたので、結局何も言わなかった。
(美神さん、素直じゃないもんなあ・・・)
 その方が自分には都合がいいけど、などと小悪魔的なことを考えつつ、おキヌはぬるくなった自分のミルクティーをゆっくりと飲み干した。


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