ザ・グレート・展開予測ショー

推定無罪! その13


投稿者名: A.SE
投稿日時:(02/ 7/22)

 オカルトGメン、国際刑事警察機構唯一の実動組織・超常犯罪課は、名目上ICPOの出先機関として独立的に存在できることになっている。しかし現実的には各国の治安組織の下部機関として取りこまれ、国ごとのの国内法や内情によって大きくその活動を制限されていた。
 日本支部とてその例外ではない。つい数日前まで激しい内部監査にさらされ、やっとのことで乗りきったものの、長く機能を停止していたそのオフィスは無気力に荒れ果てた状態になっていた。
「やっと来たわよ!」
 外から帰ってきた制服姿の美神美智恵が、少し興奮した面持ちで薄い書類の束を2冊、乱れたデスクの上に置いた。
「…なにかの処分命令ですか?」
 以前と比べて少し頬のこけた西条が、椅子に座ったまま聞き返す。
「まさか!監査の結論が出るのはもっと先よ。連中は時間を引き延ばすのが目的なんだから。」
「じゃあ…?」
「公安が折れてきたのよ!手におえない霊障が起きてるから協力してくれってね。」
「ほ、ほんとですか!?」
 西条は眠たげに細めていた眼を見開いて、書類をひったくるようにつかみ上げた。
「とりあえずは2件。一つは私達も気にしてたあの病院集団幻覚よ。昨日8件目が起きて、もう抜き差しならなくなったのね。奇跡的に死者は出てないけど、容態が急変して別の病院へ搬送された患者は25人にのぼってるし、怪我人も出てる。早く何とかしないと人死にが出るのは時間の問題だわ。」
「やっぱりタマモちゃんなんでしょうか…?」
「まず間違い無いわね。前からそうじゃないかとは思ってたけど、来てる資料を見て確信がもてたわ。」
 西条が書類に視線を滑らせながらつぶやく。
「血液中からも空気中からも薬物・ガスは検出されず…法陣、呪具、呪薬の痕跡なし。…警察が心霊捜査に慣れていない事を差し引いてもこれほどの集団幻覚は…いや、しかし遠隔地からの強力な呪法が原因の可能性は…?」
「その次のページを見て。集団幻覚が起きる直前に病院を離れたにもかかわらず症状が現れた例があるわ。遠くから病院を呪ったとすれば病院にその時点でいた人間だけが幻覚に襲われるはずよ。」
「今時これだけの事のできる呪術師はいないし、妖怪にしてもこれほどの能力があるのは…妖狐の中でも最強の部類に入る九尾狐くらいのものか…。しかしどうして病院を…?」
「唐巣神父の話を誤解したみたいなの。国自党の資金源が医師連盟だって言うのを聞いて、医者をやっつければ仕返しになると思ったのね。彼女はなんだかんだ言ってもまだ子供だし、多分前世で見たもっと社会構造が単純だった時代の政治闘争のイメージを引きずってるんだわ。…ま、なんにせよ、ウチに話が回ってきてよかった。これ以上危険な行為を繰り返さないうちになんとか保護しないと…。」
 西条が下になっているもう一冊の書類を引き出して開き、ぱらぱらとめくる。
「こっちは…国自党幹事長宅で犬が人を襲ってる?なんでこんな話がまわってくるんだ…?いや一応霊障なのか…。」
「何日か前から国自党の阿藤幹事長宅で、夜間人が犬の群れに襲われるようになったの。野犬の群れのいるような場所じゃないから、飼ってるドーベルマンが一番怪しいんだけど、朝見に行くとドーベルマンはちゃんと鎖に繋がれたまま。しかも襲われた人達は犬の群れにやられたと言ってる割に身体には1・2箇所浅い噛み跡があるだけで、代わりに全身が脱力状態になる症状にみまわれる。詳しい検査の結果、何か強い霊波を叩きこまれてチャクラを傷つけられてる事がわかったの。」
「しかしチャクラの傷は時間をかけてヒーリングすれば完治するし、だいたいこんな事は民間のGSに依頼するべきなのでは…?」
「GSなら二人雇われてどっちも失敗してるわ。行った次の日には全身麻痺で病院送り。挙句の果てに、ドーベルマンを屋敷からつれだしてしまおうとしたら、首輪の金具が壊されてて1頭残らず逃げられたの。今や広い敷地内に妖怪か霊能者をボスにもつオオカミの群れが放たれたような状態よ。表沙汰にはしたくないから大規模なハンティングをやって銃をぶっ放すわけにもいかないし、罠をしかけても全く掛からない…。」
「…しかも…襲われてるのは個人雇いの警備員、公安関係者、GS、それに…成年に達した幹事長の男性親族…!もしかしてこれは幹事長本人を狙ってる?!」
「その通り!だから警備部は一時的にでもどこかへ幹事長を移したいんだけど、あの阿藤掴苑って人物は恐ろしく頑固らしくて『今逃げたら家を犬に乗っ取られた事になる』って言う事聞かないのよ。で、結局私達になんとかしてくれと泣きついて来たわけ。」
「…こりゃどっちも一筋縄では行きそうにありませんね…。」
「だからこそ、私達のやり方を認めさせるチャンスなのよ!それにタマモちゃんの件に関しては助っ人も呼んであるわ。」
「助っ人?」
「そ。もうそろそろ…。」
「すいませーん、おーい、西条―、美神隊長―、いないんスかー?」
 見事なタイミングで表のオフィスから声が掛かる。
「来た来た。」
 美智恵と西条が依頼や面会を受け付けるための大部屋へ出て行く。受付カウンターの前に横島と唐巣が立っていた。美智恵は来客用のソファーを二人に勧めてから、奥へ戻って缶ジュースを取ってくる。
「いらっしゃい。いま警察から帰ってきたところ?」
「はあ、まあ…。くそあの刑事め…だいたい厄珍のクソ野郎が…」
 疲れた顔の横島がぶつぶつ悪態をつく。
「三日に一度は取り調べに呼び出されるからね…。彼も大変だよ。そういえば西条君もちょっとやつれたね…。」
「ええ、まあ少し…。まったくあの監査官のせいで…だいたい公安の連中は…」
 似たような返事をする二人に苦笑いしてから、美智恵が唐巣に訊ねた。
「今日シロちゃんは?どこかに預けてるの?」
「あれ、君にはまだシロ君が行方不明になってる事話してなかったかね?!」
「えっ?!それってどう言う…?」
 ギョッとする美智恵に、唐巣は横島が逮捕されたあとシロが激怒して飛び出して行ったまま行方が知れない事を話した。それを聞いて、美智恵が眉を顰めながら額に手を当てる。
「知らなかったわ…病院の件でシロちゃんに手伝ってもらおうと思ってたのに…。そんな事になってたなんて…。」
「病院の件というとあの集団幻覚かい?あれはやっぱりタマモちゃんの仕業なのかね?!」
「ええ、間違い無いわ…。ねえ横島君、シロちゃんがどこへ行ったか心当たりは無いの?」
「あいつ、最近ずっと新聞配りしてたんスけど、俺の読んでた雑誌にあいつが配ってる家の写真が出てて、それが国自党幹事長の屋敷だったらしいんスよ…。カンジチョウってのが国自党のボスの一人だって教えたら、敵討ちの成敗のって大騒ぎしたんで…そこへいったんじゃ無いかと…」
「国自党幹事長!?」
 美智恵と西条が同時に声を上げる。
「はあ…。でもこの前その屋敷へ様子見に行ってみたら、なんか周りを私服刑事みたいなのがウロウロしてて追い返されちゃって…」
「これは…ますます一筋縄では行きませんね…」
 西条がひきつった苦笑いで美智恵の方を見る。
「確かに…いくらなんでも私達の手に余るかもね…。」
 美智恵は腕を組み、何の事かいまいち分からず不審げな顔をしている唐巣と横島をみながら、一度ゆっくり深呼吸した。
―どっちの件も今すぐ解決しないと取り返しのつかない事になる…。もしこのままいって死人でもでたら、タマモちゃんもシロちゃんも悪質で危険な妖怪として除霊の対象になるのは間違い無いわ…。ここで自分の立場を考えてる場合じゃない…!信用できて話しの通じるGSに全面協力してもらわないことには…。
 美智恵は横目で西条の方を見た。西条が美智恵に向かって頷く。
「実は二人に協力してもらいたい捜査があるの…。一つは病院の件、もう一つは…」
 美智恵が話し始めると、西条は立ちあがって公安からまわされてきた資料書類を取りに行く。その表紙には、捜査機密を示す赤い印が捺されていた…。

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